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Lost4.0 運命の日(上)

[2/13 14:53] 喪失の回廊 第4回廊


「・・・ふぅ。休憩っと」

 朝の6時前から初めてかれこれ約8時間。その半分近くを休憩にあてているがそれでもこれだけ長時間戦っているとどうしても疲れてしまう。だが、いくら疲れて居ようとも早めに切り上げるという発想は無い。今日も21時か22時くらいまではこのまま続ける予定だった。


 あの日・・・この喪失の回廊を見つけてからというもの封霊の森でのレベル上げよりも遥かに効率的であると知った俺は休むことなく毎日通い詰めていた。一戦一戦が常に生死を分かつ限界ギリギリの戦いになるほど回廊の敵は俺にとって強敵だった。しかし入口付近の回廊では全体的に敵の数が少なく単独行動をする敵が基本で、戦闘を行っても途中で他の敵が乱入してくるという自体がまず起きない。それ故に常に全力で戦い、そのあと十分な休憩を取る事ができるお陰で安定してレベル上げを行えた。敵のレベルが50前後であることも助けとなり、レベルは一日で一つ・・・調子が良ければ二つ上がるほどで、見つけてから十日しかたっていないのにLv62にまで上がるという大躍進を遂げることができた。


「HPとMPは・・・回復したな・・・よし次だ!」

 自分に発破をかけて、もうひと踏ん張りを始める。まだ足りない、自分はまだ全然強くなんてなっていないのだ・・・そう常に自分に言い聞かせながら次の戦いに挑む。確かにここ数日の間に今日的なスピードでレベルを上げることはできた・・・しかし、装備を始めとした根本的な問題の解決がまだされていない。

 レベルが上がり、強さの指標である能力値も日に日に強くなってはいる・・・しかし、武器は未だなお初期装備のハンドガン一丁・・・これではいくら強くなっても攻撃力に限界が生じてしまう。そこで、銃の攻撃力にそれほど依存しない銃撃魔法を中心にした戦術を試みている。今のところこのやり方はうまく行っており着実に敵を倒せている・・・しかし、それでもなお攻撃力不足は解消しきらない現状にある。今俺が持っている攻撃系の銃撃魔法は2属性合わせて合計6つ・・・もともと攻撃パターンに乏しい銃撃魔法であるため実際のところほとんどの銃撃魔法を使えると言っても過言ではない。しかも6つのはずの攻撃手段の半分は闇属性・・・大半の敵が闇耐性を持っている所為で使う場面に乏しく結局は風属性の銃撃魔法を中心に戦闘を進めているのが現状だ。


 どうあがいても無理のある属性チョイスと装備問題・・・その他いくつかの不利を背負いながらも戦い抜くことを決めた。それゆえの日々の鍛錬・・・そして、それゆえの・・・この狩り場独占だ。

 俺は偶然発見したこの喪失の回廊を完全に秘匿にしている。封霊の森はリスクとリターンがかみ合っていないから人がよらないが、この回廊はリスクよりリターンが明らかに上回っている。知れば必ず訪れ、いずれ人であふれ返ってしまうだろう・・・それを恐れた俺は毎日誰かに知られるんじゃないかという一抹の不安とこの回廊のリソースを独り占めしている罪悪感を抱えながらここへ来る。

 我ながら情けない話だと思う。自分が強くなりたいがために貴重なリソースを独占し誰のためにもならないレベル上げをひたすら続ける姿は滑稽で情けない・・・それでもいつかハイレベルプレイヤーとしてこの世界から脱出するための力となるために・・・滑稽だろうと惨めだろうと情けなかろうと・・・やめることは無い。



[2/25 11:10] 喪失の回廊 第10回廊 セーフティーエリア


「ここ・・・なんか雰囲気違うな?」

 あれから更にレベルを上げて行きながら、少しずつ奥を目指していると不思議な場所に出た。敵のいない・・・おそらく非戦闘エリアらしいのだが・・・無駄に広い空間にはポツンと隅の方に何やら装置らしいものがあったが、それが回廊の入り口をつなぐ転送装置だということがすぐに判明した。そして、転送装置とは別にもう一つこの広い空間で目立つモノが一つ・・・



 先へ進む道なのだろうが、やけに物々しいその扉の向こうには何か恐ろしいものがいる・・・そんな気配を漂わせていた。しかし、ここまで来たのだ・・・今更ここで歩みを止める道理など、どこにもない。意を決し、扉を開き中へと入っていく。そして・・・


「・・・んなぁ!?」

 扉の向こうで見たものに対して俺は絶叫で答えた。自分の眼前に居るソレに驚きと恐怖を隠せない・・・だが無理もない話なのだ。目の前に居たのはお目にかかるとは思っていなかった相手・・・


ドラゴン


 世の中に数多のRPGが存在するが、それらに大体登場した共通の概念を持った敵・・・一様に上位の敵にして強者という概念を持ったプレイヤーを阻む壁となる敵・・・ドラゴン。それが今目の前に居るのだ!俺が慌てて自分の持っている探査スキルでドラゴンの情報を確認すると、とんでもない情報が飛び込んでくる。


ホーリードラゴン Lv91


「ありえねぇだろ!レベル高すぎるだろ!?・・・わわっ!」

 その理不尽さに思わず叫び声をあげてしまうが、もうそんな悠長なことをしている暇なんてなくなった。目の前に居る白い巨体・・・ホーリードラゴンが俺を敵と認識して攻撃を始めて来たのだ。初っ端からブレス系の攻撃をされていたらすでに死んでいただろうが、幸い前足による爪攻撃だったのでかろうじて難を逃れる。


 とにかく始まってしまったものは仕方がない・・・逃げようかとも考えたが入ってきた扉は見事に固く閉ざしており出られる雰囲気ではない。今俺にあるのは何もせずにただやられるか、抵抗してやられるか・・・その二択だ。何もしないでやられる・・・それは何よりも簡単で楽なやり方だろう・・・だが、仮にもいつかゲームクリアのために人々の前に出て戦おうと考えている人間がそれじゃお話にならない、この膨大なリソースを貪欲に独り占めしている意味がない!


「やってやる・・・やってやる!」


[2/25 11:23] 喪失の回廊 第10回廊 マスターエリア


「にぎゅっ!・・・くそっ!『ウィンドカノン』!!」

 必死にホーリードラゴンの攻撃から逃げ回りながら隙を見て攻撃を叩きこむ。しかし、いくら攻撃を撃ち込んでも奴はまるで動じない。いくらレベル差があるとはいえここまで攻撃が通らない理由・・・つまり奴は風属性の耐性を持っていて、俺の風属性の攻撃の威力を半分以上は殺している。おまけに風属性の銃撃魔法に付加されているDoTは発生してもすぐに回復されて大したダメージになってはいない。いくら勝てないと解っていてもここまで力の差を思い知らされる上に属性の相性が悪いなんて・・・


「って、一つ忘れてるじゃん!」

 あまりにも普段使っていなかったせいでうっかり大事なことを忘れていた。しかもよくよく考えれば相手はホーリー(・・・・)ドラゴン・・・試してみない!


「くっ・・・よっ・・・・そこだ『シャドウカノン』!」

 一縷の望みにかけて『シャドウカノン』を使う。銃口から大きめの魔法陣が展開されそこから黒い閃光が飛び出し、ホーリードラゴンに直撃する。そしてついに・・・ここに来て初めてホーリードラゴンが苦悶の表情を浮かべ低く唸る。これで間違いない・・・奴の弱点は闇属性だ!


「ビンゴっ!なら、今度はこれだ『シャドウバレット』・・・『シャドウバレット』・・・『シャドウバレット』!」

 攻撃が通っているのを確信し、僅かに見えた可能性に賭け今度は冷却時間の短いバレット系を使って奴の足に執拗に打ち込む。もともとの威力が低いバレット系でも弱点属性で足に何度も撃ちこまれればたまったものではないだろう。足へのダメージが着実に重なり、目に見えて動きが鈍くなるホーリードラゴン、その巨体が大きくぐらつく。


「ついでだ『ブラッククラスター』!」

 大きな隙を見せたホーリードラゴンに攻撃の大チャンスを見出し、ギリギリまで奴に接近してから銃撃魔法の三つ目の系統『クラスター系』の魔法を叩きこむ。複数の魔法陣によって複数の閃光を同時に射出するクラスター系は本来複数の敵を攻撃する範囲魔法で一発一発の閃光の威力はバレット系より少し高い程度だが、今みたいに単体に全段ヒットさせられれば威力重視のカノン系よりも合計ダメージが高くなる。問題は冷却時間が長いから連続して撃てないのが難点だ・・・


 何にしても俺は今バレット、カノン、クラスターの三つの銃撃魔法をフルに使うことで格上の敵・・・それもボスクラスの敵と1対1でありながら互角以上にわたりあえている。いつしか「せめて一太刀でも」という想いから「勝ちたい」という欲求に変わっていた。だが、世の中甘くは無いようだ・・・


「なっ!ここでブレス!?」

 このまま行けば・・・そんな淡い希望を打ち砕く一撃が今降り注ごうとしていた。今までは爪や尻尾なんかの物理攻撃だけだったからなんとか避けることができた・・・しかしブレスとなれば話は別だ。そもそも奴らにとって高いポテンシャルなど当たり前、ドラゴンたちの真骨頂はブレスにこそある。反則と叫びたくなるような範囲と破壊力を持った攻撃が今まさにわが身に降りかかろうとしている。

 この『LWO』においてこの手の攻撃への対応策はいくつかある。ブレスの範囲外まで逃げ切る、防御系の魔法を使って身を守る、ブレスを耐えきるといった手段はあるが、今の俺にはどれも不可能だ。そもそも防御力のないスペルガンナーに高威力のブレスを耐えられるわけもなく、身を守る防御魔法も持ち合わせていないし、回避も現在のスペックでできるわけもない。


 だが、実は後一つだけ理不尽な攻撃を凌ぐ術はある・・・魔法同士の相殺現象だ。基本的にブレスは魔法攻撃に分類されているため相殺の対象となる・・・後は属性と威力だが・・・


「破れかぶれ・・・っ『ブラッククラスター』!!」

 ホーリードラゴンの口から吐き出される眩いブレス、それに立ち向かうのは黒い閃光。幸運にもブレスは光属性だったため闇属性との属性相殺現象が起きる・・・が、やはり圧倒的な威力不足で相殺しきれない。


「やっぱ・・・・・・?」

 力の差を思い知り、ホーリードラゴンのブレスに飲み込まれていく中で視界の端に何かが表記(・・)された。


スキル『シャドウクラスター』を習得しました。

スキル『ブラックブリンガー』を習得しました。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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