Lost2.0 決別の日
[12/30 16:31] ゴブリンの森
「はっはっはっは・・・!」
ソロでの戦いは熾烈を極めた。回復も使えるスペルガンナーではあったが、いざ回復したくても損な隙なんてまともに無い。そうなると必然的に攻撃一択となるがそれも問題がある。
「やばっリロード!!」
両手で握りしめたハンドガンが弾切れを訴えるのに気付き慌てて左手でマガジンを抜き取ろうとする。しかし、そんな隙だらけの行動を敵が見過ごすわけもなく3体居たゴブリン達が小さな棍棒を手に一気に襲いかかってくる。
「いぐぅ・・・」
リロードと回避、どちらを優先するか迷ってしまい結局どちらも中途半端となってしまい手痛い一撃をもらってしまう。それでも必死に歯を食いしばって痛みに耐えリロードを終わらせゴブリン達に弾丸を浴びせる。そんな消耗戦を繰り返すこと数分後、ようやくゴブリン達を倒しささやかな経験値を得る。
「『リテラルライト』・・・『リテラルライト』・・・」
自前の回復魔法を使って減ってしまったHPを少しずつ回復させる。回復量の少ない為何度も何度も唱えMPを削りながらようやっとある程度HPを回復できたので残りのHPと使ってしまったMPの回復のためその場に座り込んで休憩に入る。
この半年近く、寝る間も惜しんでレベル上げに邁進してようやくLv31まで上げることができた。戦い方が安定せずまだまだ危なっかしい場面も多いが、それでも結構強くなったと自分で感じている。
「またリロードと回避を両立できなかった・・・やっぱり少し手元を見過ぎだったからもう少し敵の方に目をやって・・・」
毎回戦闘ごとに休憩を挟むくらいのギリギリの戦いが多いためその時間を有効に使うためにこうやって戦闘での反省と改善方法を模索している。こうすることで少しずつ技術向上を図り少しでも戦いを有利に進められるように・・・だけど、やはり一人では限界を感じ始めていた。
「・・・もう一回・・・今度こそは」
まだ、スペルガンナーとして実力を証明できるほどの腕は無い・・・でも、もしかしたらあの時とは別の反応があるかもしれない。もしかしたら誰かが声に応じてくれるかも、誰かが声をかけてくれるかもしれない。そんな淡い期待を胸に抱きはじめていた。
[12/31 8:10] 酒場『ランプの灯』
いつの世も人も情報も集まるのは酒場と相場が決まっているようで、この『LWO』でもその例にもれず・・・というかその例に習ってシステムとしてPT募集などは酒場でできるようになっていた。『LWO』で最も大きなプレイヤータウンであるこのアンセムカイン城の城下町には東西南北合わせて8つの酒場があるのだが、ここはその中でも今一番人の多い酒場だ。なぜ、この酒場が今最も人が多いのか?その理由はメインクエストにある。
規定クエスト一覧
クエスト名『弱き者たちの集い』 クリア条件:オークキング討伐
クエスト名『深き森の精霊』 クリア条件:クエストアイテム『精霊のしずく』の取得
・・・
クエスト名『砂塵の海の先』クリア条件:蜃気楼の塔への到達
クエスト名『亡憶の蜃気楼』クリア条件:蜃気楼の塔最上階への到達
クエスト名『???』クリア条件:???
・・・
・・・
マザークエストである『眠れる神の再誕』をクリアするために必要なクエストは、一つクリアするごとに次のクエストが現れ、それをクリアすると次の・・・っといった感じにクエスト情報が攻略するごとに解放されていく。ちなみに解放されていないクエストでもクリア条件を満たしていればクリアは可能で、クリアしたクエストが解放されると同時に次のクエストが一気に解放されるらしいが・・・条件のわからないクエストを狙ってやることはまずできないので、基本的に解放されているクエストを一つ一つこなしている状態だ。そして今、解放されているクエストは蜃気楼の塔に関連するもので、攻略組と言われる『LWO』の上位プレイヤーたちだけでなく多くのプレイヤーがここに集まっている。
俺は意気揚々と酒場の扉を開け中へとはいって行った。人が多いここならばスペルガンナーの自分を入れてくれるPTもあるかもしれないし、あわよくば攻略組に入ることも・・・酒場の雰囲気が気持ちを高ぶらせ俺はどんどんと大きな期待を抱いていた。
――
しかし、それこそが俺に訪れる最大の失敗にして転機の一つだった
この日に来なければ、この酒場を選ばなければ、あの男に出会わなければ・・・
きっと何かが違ったかもしれないあの日の出来事・・・
――
「ん?・・・ぷっ!くはっはっはっは!おいおいおいおい!お前らこれ見てみろよ面白れーもんが見れるぞ」
「えーなになに?ぶっ!!マジだマジ!ぶはっはっは!笑えるし!」
「ありえねーわ!今頃スペルガンナーがPTメンバー募集とか!!ねーよ!ありえねーって!!」
「っ!!藪から棒に・・・失礼じゃないですか」
酒場に入り、PTメンバーの募集を始める。酒場のシステムによって募集をかけると名前や職、レベルなどの一般情報が酒場に居る他のプレイヤーへ送られるのだが、それをした途端酒場の一角を陣取っていたグループからいきなり不愉快な笑い声が上がる。普段ならば見て見ぬふり、聞いていないふりをして無視するところだが流石に我慢できずに声を上げて笑っていたグループ反論の声を上げる。
「失礼だぁ?ばっかじゃねーの?失礼なのはてめーの方だよ。そんな雑魚職ひっさげてなーに一著前にメンバー募集とかしてんだよ」
「職なんて関係あるか!俺は戦える・・・戦えるだけの実力は・・・あるっ!」
俺を馬鹿にしていたグループの中からリーダー格らしき男が立ち上がり俺の前に対峙する・・・が、相手の男は2メートルはあるんじゃないかという巨体と俺との差は20センチ以上のある。その時点ですでに心が負けそうだったが、なんとか反論してくらいつこうとする。
「はぁ!?そんな初期装備丸出しなくせして何が「戦えるだけの実力はある~」だ。頭悪いにもほどがあんだっての!お前頭大丈夫かー?」
「うっ・・・」
くらいつこうとするが早くも相手に言い負かされてしまう。それもそのはず、相手の言うとおり俺の装備はほとんど初期装備となんら変わらないのだ。武器、防具、アクセサリ・・・それら全ての装備は例外なくお金がかかる。特に銃系統の武器は頭一つ違う値段が付いているのだ。
銃系統の武器は大まかに分けてハンドガン・ショットガン・マシンガン・スナイパーライフル・ヘビーアームズの5種類に分類されているのだが、入手方法がどれも問題なのだ。全ての銃はNPCが販売しておらず、アイテムドロップも今のところ発見されていないため、現在これらを入手するためにはプレイヤーが製作したものしかない。そんな銃系統の中でもハンドガンは5種類の中で最弱
とされており、持たれてもせいぜい緊急時の補助武器程度にしか扱われていない。
「いいか?ここは今メインクエストをやるプレイヤーたちが集まる場所。つまり優秀な能力を持った上位プレイヤーたちの場所なんだよ。そんなところにてめーみたいな雑魚がのこのこ来たってだーれも相手にされねーんだよ。いや、俺たちを笑わせるくらいはできたか?」
「「「ぶははははははは」」」
何一つ否定することができない・・・装備がないのは事実。レベルが低いのも事実。地雷職と呼ばれているのも事実・・・だけどなぜこうまでこけおろされなければいけないのだ?なぜ俺はこうも笑い物にされなければいけないんだ?
男たちの笑いが耳の奥で響き心を揺さぶる。スペルガンナーである・・・そこから始まった今の状態・・・もう耐えられなかった。人の前に立つのが辛くなっていた・・・
もう嫌だ・・・もう嫌だ・・・もう嫌だ・・・もう嫌だ!
「っ!!」
「おっ!お前ら見てみろよ雑魚が尻尾巻いて逃げてくぜー」
「「「ぎゃははははっは」」」
その場に居ることが耐えられなくなった俺は自分をあざ笑う男たちを背にして全力で走りだし、酒場の扉をぶち破るかのようにして開けた。扉の外に出た瞬間誰かにぶつかりながらもその相手に謝ることも相手を見ることもせずにただ必死で走り続けた。あいつらの嘲笑から逃げるために・・・
[12/31 9:23] 静寂の平原
「っ・・・はぁ・・・はぁ・・・はっ・・・」
がむしゃらに走ること1時間。どこをどういう風に走ったのかもわからなかった俺がたどり着いた場所は『静寂の平原』という敵が一切いない特殊なフィールドで、いくら風が吹いても草のさざめきが聞こえないこの平原はプレイヤーたちに気味悪がられてあまり立ち入らない場所だった。
「はぁ・・・はっ・・・はぐっ・・・えぐぅ・・・」
平原のど真ん中で立ち止まった俺の口からは息継ぎに嗚咽が混じりはじめていた。目から涙がボロボロと流れ始める・・・止めたくて手でいくら拭っても余計あふれだす一方だった。
あの場で受けた仕打ちは俺の心をどれだけ揺さぶっただろう・・・どれだけ抉っただろう・・・他人が恐ろしく感じてしまった。今まではただ自分を見ないだけだった・・・だから自分を見て欲しいと願った。だけど今は自分が見られることすら恐れた・・・見られることを・・・笑われる事を・・・
変わりたい・・・それだけは今も確かに思っている・・・だけど変われない現実・・・
「あっいたいた。おーい!」
「ひぐっ!?」
泣きじゃくっている俺の背後から唐突にだけかに呼びかけられる。その声に悪意は感じない・・・だけど体が強張って思い通りに動かない。誰ともわからぬ声の主はそのままゆっくり俺の方に歩み寄りながら話を続ける。
「えーっと、大丈夫・・・か?さっきの酒場の・・・」
「っ!!」
酒場・・・たったそのワンフレーズだけでも十分だった。またあの男たちの嘲笑が聞こえて来た気がした・・・それだけで俺はもう耐えられなくなり、また逃げるようにして走り出してしまった。そんな俺の背後から声をかけて来た誰かが俺を引きとめようと追いかけている様な気がしたが気にせず走り続けた。