Lost1.0 始まりの日
(注意)この作品は『たった一人の英雄伝説~14日間のデスゲーム~』を前提に書かれた作品となっております。内容をご理解いただくためにも、是非こちらの作品を先に読むことをお勧めします。(というか読んで欲しいなぁ~ってせこいこと思ってます)
[7/21 15:00] アンセムカイン城城下町
『Lost World Onlineよりお知らせがあります。日本時間七月二十一日十五時よりマザークエスト『眠れる神の再誕』が開始されます。このクエスト開始以降、全プレイヤーはゲームクリアまで特定の行動権限を失効いたします。詳細に関しましては各プレイヤーのクエスト欄にてご参照ください。喪失の地に残された英雄の皆さまのご健闘をお祈りいたします』
「おい、これどーゆーことだよ!?」
「なっなにこれ?やめてよ!何の悪ふざけなの!?」
「くそっ!!運営は一体何してんだよ!?」
城下町に溢れるプレイヤーたち。彼らは思い思いに叫んでいるが、その内容は一貫して一つの事を指していた。
『ログアウト不能』
その言葉の意味はこのVR-MMOにとってある意味一つの都市伝説の様についてまわる現象だった・・・が、今はそれが現実に起きてしまっている。まるで技術の突然変異でも起こしたかのように突如世間に姿を現したVR技術とそれに対応した世界初のVR-MMOタイトル『Lost World Online』。その存在に多くのゲームファンたちが歓喜し、その日を待ちわびた・・・しかし、その歓喜はサービス開始から僅か数時間で不安と恐怖の声に塗りつぶされてしまった。
その場に居る全てのプレイヤーがあるはずのコマンドを必死に探す。だが、誰ひとりとしてそのコマンドを見つけ現実に帰ることが叶ったものはいなかった。そして彼らの不安と恐怖に一つの答えを出したのは運営ではなく機械的なアナウンスと絶望的な現実を突きつけるクエスト内容だけだった・・・
クエスト名『眠れる神の再誕』
クリア条件:規定クエスト達成
追加条件
1.マザークエストを含む全てのクエストはプレイヤー共通
2.システム権限『ログアウト』の使用権限の失効
3.プレイヤーの死亡カウントシステム追加
4.死亡カウント100を超えるプレイヤーは脱落となる
規定クエスト一覧
クエスト名『弱き者たちの集い』 クリア条件:オークキング討伐
クエスト名『???』クリア条件:???
クエスト名『???』クリア条件:???
クエスト名『???』クリア条件:???
・・・
・・・
「・・・ログアウト・・・できない・・・か」
俺は多くのプレイヤーたちが怯えながらもクリアを目指そうと集い始める中で一つの考えに・・・「自分を変えるチャンスが来た」と感じていた。現実から目を背けこの世界に逃げて来た俺は今、命の危機・・・世界の危機を目の当たりにして・・・英雄になりたいと願っていた。
誰にも関われず誰にも見られる事のなかった俺がその世界に名を知らしめる可能性が巡ってきたのだ。自分を鍛え強くなりゲームクリアを目指す・・・ゆくゆくはゲームクリアに導いた英雄として自分という存在を知ってもらうことができる可能性。そう・・・怖気づくことなんてないんだ!今ここに居るのは独りぼっちで無価値なダメ人間の俺じゃない・・・無限の可能性を秘めた未来の英雄・・・スペルガンナーの『ベイル』なんだ。
「そうと決まれば仲間を探さなきゃ!」
人と話すことが苦手だった俺だが、それでも変わろうという強い意志を持って積極的に声をかけて回った。それは自分にとって非常に勇気が必要で非常に辛い事だった・・・それでも俺は変わろうという想いを胸に必死に声をかける。
・・・だけど
「・・・スペルガンナー?ごめんちょっと入れられない」
「はぁ?スペルガンナーとかまじねーよ!!」
「ないわースペルガンナーな上に選択属性が風と闇とか・・・ないわー」
etc...
ものの一時間で意志は折れてしまった。
「スペルガンナーだからってなんであそこまで言われなきゃならないんだよ・・・」
クローズドβテストには参加していなかったし、楽しみを減らさないようにと『LWO』に関する情報を見るのを避けていた弊害で、俺は今の今までスペルガンナーが地雷職だと言われている事を知らなかった。
クローズドβ時代にはかなりの数のスペルガンナーがいたらしい。その理由は銃の他に攻撃魔法・回復魔法まで使える万能職として有望視されていたためだった。しかし、いざプレイしてみると銃による攻撃は同じ銃装備可能の職に劣り、攻撃魔法は専門職に勝てるわけもなく・・・回復もしかり。高い機動性や魔法の発動スピードなど利点はあるものの魔法職並みの防御力低さの所為で防御性能の評価も悪い。結局『何でもできる万能職』ではなく『中途半端な地雷職』というレッテルをはられる事となったのだ。後で知ることになったのだが、3万近くのプレイヤーの中でスペルガンナーだったのは僅か500人ほどという少なさはそういったところに起因していた。
そんなこんなでどこのPTにも入ることができなかったベイルだが・・・そこで諦めなかった。PTに入れないのはスペルガンナーが有用な職と認められていないから・・・自分が強くなり役立つ職だと認めされることができれば・・・そんな考えのもと、ソロプレイヤーとしての道を歩み出した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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