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「シー様、起きてください。」
そんな声と共に誰かが私の体を揺さぶる。
「んぁーあと5分・・・・・・」
「シー様、もうそう仰られるの3回目でございます。さすがに起きていただきたいのですが・・・・。」
なんかお母さんにしては丁寧すぎる口調だなぁ・・・・。どうしたんだ?つーか娘に様付けって・・・・・・・。
「お母さーん、あと少し寝かせてよぉ・・・・・。」
「もうっシー様!起きてくださいませ!!!」
耳元でそう言われて私は慌てて飛び起きた。
「っ!!ごめんリーゼ!寝ぼけてた。」
「いえ、構いませんわ。おはようございますシー様。」
私が慌てて謝るとリーゼはそういいながら『侍女の嗜み』であるらしい完璧なお辞儀&完璧な微笑みで朝の挨拶をした。
「うん、おはよう!」
「ではシー様私は朝食の準備をしてきますので失礼させていただきますね。」
「了解です!じゃあ私は支度整えたら行くからー」
再びお辞儀をして出て行く彼女を見送ってから私は着替え始めた。
この部屋に来て1日目はリーゼが着替えからお風呂まで全部やってくれようとしたんだけど着替えとお風呂は断らせてもらった。一介の女子高生だった私にはそんな人様に全てやってもらうなんて耐えられん。なので今は髪のセットとメイク(これは私はやらなくていいといったけどぜひやらせてくれとリーゼが言うので一応毎日やっている)食事の支度などを彼女にやってもらっている。
これだけでも十分申し訳ないんだけどねー。でもやらなくて言いというと彼女が「それでは私お仕事がなくなってしまって給料泥棒と呼ばれてしまいますわ。どうか私のためだと思って働かさせてください。」と言うのでどうにも逆らえなくなってしまった。
「んーと今日もどうせ誰も来ないだろうしこのワンピースでいいや。」
そう呟きながらクローゼットから服をてきとうに取り出す。
この服たちは初日からクローゼットに入っていた。なぜかサイズがピッタリである意味恐ろしい。デザインは王道な感じのフッリフリドレスからシンプルなワンピースまであり私は後者ばっかり着ている。もちろん今日もそっちである。
適当に選んだ淡い黄色のシンプルなワンピースに身を包み顔を洗ってから食事をする部屋に向かう。
「シー様、丁度支度が調いましたよ。」
「うんいつもありがとう。ごめんね。」
「とんでもございませんわ。さ、どうぞ温かいうちにお食べください。」
そう促されて私は食事を始める。一応魔法で毒が入ってないかを確かめてから焼き立てでおいしそうなパンを口に運ぶ。ふんわりとしていて濃厚なバターの味が口内に広がる。
「んー!相変わらすここの食事はおいしいなぁ。」
まあアネットさんの料理には及ばないが、と心で付け足す。
アネットさんの料理はもはや兵器だからね。あれがあればもう何もいらないって思えるから。
ああ、なんだかアネットさんの料理が食べたくなっちゃったなぁ。つーかフェーンに帰りたくなった。ホームシックってヤツかね?これは。
「シー様、お手が止まってますけどそのスープお気に召しませんでしたか?」
リーゼが心配そうにこちらを伺っている。
「ううん!すっごくおいしいよ。今はちょっと考え事してただけだから。でも食べ終わってから考えるねー。」
そうして私は止まっていた手を再び動かした。
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「シー様そろそろお茶でも飲まれますか?」
午後3刻ちょうどに私はそうリーゼに声をかけられて読んでいた本から顔をあげた。
「うんそうだね。そろそろのども渇いてたしそうしようかな?」
「かしこまりましたわ。今すぐ用意いたします。」
私は彼女がお茶を用意している間に本を本棚に戻しティータイム用のソファに移動した。
「シー様、今日はちょっと話したいことがあるんですがかまいませんか?」
リーゼは自分が席に座った途端に急いで話を切り出した。
「うん?全然いいけど・・・・・。なんかあった?」
「シー様昨夜どこかに出かけていらっしゃいましたよね?あ、正直に答えてくださいませ。嘘をついても無駄ですからね?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エ?絵?江?ええ!?
な、何でかしらないけどばれてるぅぅぅぅぅぅ!?
え、うそ何でばれてるの?
つーかリーゼさっきから顔は笑ってるけど全然目が笑ってないんだけど!昨日のルーカスさんみたいなんだけど!!怖すぎるんだけどぉぉぉぉぉぉ!!!チキン肌なんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
「シー様?何黙ってるのかしら?・・・・・・・早く言った方が身のためよ?」
「スイマセンッ!勝手に出かけてました!!」
テーブルに頭をぶつける勢いで謝罪する。それくらいリーゼの最後のセリフが怖かった。このセリフの時だけ声がいつもより数倍低かったもん!
「はぁー・・・・・・・・。やっぱり出かけてたんですね。」
「あのーなんで分かったの?」
結界をミスしたとは思えないんだけどな?
「ふふ、侍女の勘ですわ。」
「さ、さようですか・・・・・・・・・・。」
怖い!あの笑顔怖い!!なんかもう軽く涙目だよ!!!つーか侍女の勘って何!?
「ふぅ、シー様ここに軟禁されていて外に出たくなるのも分かりますわ。だから本当は駄目ですけど抜け出すなとは言いません。でも黙って抜け出すのはやめてください。昨日シー様がいないと分かったときはもう本当に心臓が止まるかと思いましたわ・・・・。」
すごく真剣な目で言われて私はようやく気づく。心配されるなんて思ってなかったからとはいえリーゼに何も言わないで行くなんてリーゼを信用していないのと同じだ。
「ごめんなさいリーゼ。今度からはリーゼにだけは知らせていくわ。」
「分かってくれればよろしいですわ。それで今夜はどうなさりますの?」
「あ・・・・・・出かけさせていただきます・・・・・・・・・・。」
思わず小声になっても仕方ないよね!?だって怒られそうで怖かったんだもん!!2日連続って駄目かなぁ・・・・?
「そうですか。分かりましたわ。さてじゃあそろそろいつものティータイムにしましょう!ここからは敬語もやめさせてもらうわ。」
「あ、そういえばなんでお茶会なのに敬語だったのさっきまで?」
そう聞くと彼女はきょとんとした顔でこう答えた。
「え?だって敬語のほうが恐ろしいでしょう?」
・・・・・・・・・この世で最強なのは本当は侍女なんじゃないかって思った瞬間。
最終結論、リーゼが最強ってお話でした。