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深夜城にいるほとんどの人が寝静まった頃、シーは寝たふりをやめてベッドから起き上がった。
リーゼが侍女用の部屋に戻ってからもう2刻は経った。さすがにいくら気配に敏い彼女でも大丈夫だろう。そう判断し早速脱走(一時的)の準備を始める。いやまあ準備と言っても昼間荷造りした麻袋を背負えばいいだけなんだけどね。ちなみに麻袋の中にはカッターとペンと紙を入れてある。荷物が少ないのは城を探索しているときに何か頂戴する物があったら入れられるようにだ。ま、今のところそんな予定はないけど念のためだ。
「さてと、結界張りますか。」
小声でそう呟いて部屋に結界を張った。この結界を通して室内を見るとあら不思議!部屋の中で私が寝ているように見えるのだ。幻術と結界を混ぜ合わせた術で難易度は高いらしい。前の脱走のときもこれを使った。
「次はーっと、浮遊」
結界を張り終えた私は今度は自分に足音対策として浮遊術をかける。浮遊の術も実は難易度が高いので一応詠唱を言った。まあ詠唱と言っても単語だけどね。すると私の体が地面から10センチくらい浮いた。今回は10センチだと浮きすぎなので1センチくらいに調節をした後に窓を開けて(窓にかかってた結界は勝手に少しいじっておいた)そこから飛び降りた。結構な勢いで落ちていったが浮遊の術がかかっているので私の体は地面より1センチのところで止まることができた。
「あ、安全って分かってても怖いものね・・・・・。」
地面に降りた(浮いてるけど)安心感から思わず呟く。淡々と作業していたけど実は飛び降りた時ものすごい怖かった。悲鳴を上げなかった自分を褒めてやりたい。
グッジョブ!!よくがんばった私!!なんて心で自分を自画自賛しつつ辺りを見回す。どうやらここは庭のようだった。色とりどりの様々な花が咲いている。花に見とれつつ歩みを進めていたらとっても大事なことに気がついた。
「光学迷彩の魔法かけてない・・・!」
なんて重大なミスを犯していたのだろう!私は慌てて光学迷彩の魔法をかけた。そして完全に透明になったことを確認してから城のほうへ歩くのを再開した。
いっやーにしても危なかったなぁ・・・。なんて重大なことを忘れてたのだろう。姿が見えてたら即つかまるに決まってんじゃん。反省反省。
その様な事をグダグダ考えながら歩いていたらようやくお城の入り口にたどり着いた。正門ではなく裏門っぽいところだ。周りに騎士らしき人も見えなかったので懐から針金を取り出してピッキングをする。この技術は冒険者であり私の好敵手のフィルドに教えてもらった。使うときなんてないって思ってたんだけどねぇ。予想外のところで活躍してるよ。フィルドありがとう!
1分くらいカチャカチャやっていたら扉は開いた。予想外にあっさり開いてびっくりしたがとりあえず中に入ってみる。きちんと扉を閉めて鍵もかけ直した後に周りを見渡すとそこは使用人用の棟みたいだった。なるほど、警備が杜撰なのもちょっと頷ける。
一人で納得しながら足早に使用人棟を去っていく。ここも見てみたかったけど今回の目的は情報収集なので危険かもしれないが王様とかがいるところに向かおうと思っている。王様の顔も確認しておきたいしね。
使用人棟を抜けたら今度は一気に豪華な雰囲気の廊下に出た。その廊下をてきとうに突き進む。
実はさっき王様のところを目指すぜ!っていったけどぶっちゃけ王様の居場所が全く分からない。リーゼに聞くの忘れちゃった、テヘッ☆
・・・・・・・・・・・・うん、すっごい自己嫌悪だ。テヘッ☆とか気持ち悪いよ自分。5秒前の自分は忘れることにしよう。
とにかく全然分からないので王様がいそうなところを探す。
私的に王様とかはやっぱり高いところにいそうなんだよねー。はっきりいって勝手なイメージだけど。でもまあ他に情報がないので自分のイメージを信じて階段を上ることにした。
大体5階分くらい階段を上ったところだろうか?どこかの部屋からボソボソと話し声がした。
なんだろう?と思い階段を上ろうとしていた体に急ブレーキをかけて声のするほうに向かった。
声は階段から近いある一室から聞こえてきた。その部屋から明かりは漏れていない。光学迷彩の魔法がかかっていて誰にも見えてないのが分かってはいるが周りをキョロキョロ見回し、誰もいないことを確認してから扉に近づいた。真っ暗なところで話すなんて貴族達の密談とかかなぁ?なんて考えつつ聞き耳を立てる。
「ですが巫女姫をあのままにしていてよろしいのですか?陛下」
「・・・・・っ!」
思わず声をあげる前に自分で自分の口をふさいだ私の右手のを褒めてあげて欲しい。
というか、いきなりヒットかよっ!!