序章1
「シチューできましたァ!!持ってってください!!!!」
私は大声で叫ぶ。
こんなにビックリマークつけてしゃべるのなんてこの時間以外はないよなーというどうでもいいことを頭の片隅で考えつつ次のメニューに取り掛かる。
ここはアネット食堂。
小さな町フェーンの隅にある小さな食堂だ。
小さな食堂だが味は確かなので連日客で大賑わい。よってお昼時となると殺人的な忙しさになる。
だって大賑わいなのに店員が私を含めて4人しかいないのだ。
今でさえ殺人的に忙しいのに私が拾ってもらう前は3人で切り盛りしていたというのだからその忙しさを考えると鳥肌が立つ。
1年前、私はこの世界にやってきた。
その日もいつもと同じように過ごしていたのだ。
訳あって高校生なのに一人暮らしをしていた私はそろそろご飯を作ろうかな~なんて考えながらだらだらとテレビを見ていた。
そして一瞬まばたきしたらこの世界だった。本当に一瞬で来てしまったのだ。
普通異世界トリップする時って神様が現れて~みたいなくだりがありそうだがそんなもん無くいきなりトリップである。要するに説明ゼロである。
しかもトリップした時間が最高に空気読めていなかった。
場所はアネットさんの家。そこはいいと思う。人の家だしよく小説に出てくる森とかじゃないし。
しかし!タイミングが悪かったのだ。その日はアネットさんの娘さんのお葬式の日だった。しかも弔いの儀という家族以外は絶対に立ち入ってはならない儀式の最中に。
空気を読めないにもほどがあると思う。
幸いといっていいのかはわからないがその時そこにいたのは娘さんの家族であるアネットさんとアネットさんの1人目の息子のドミニクさん、2人目の息子のアドルフくんしかいなかった。
その3人が本当にびっくりした顔をしていたのを覚えている。なんでも弔いの儀は家族以外は入れないように結界を張るらしい。なのに私が入ってきたからとんでもなく驚いたと後日言っていた。
まあ私もそれに負けないくらいびっくりしてたけどね!
でも驚きすぎた人間は逆に冷静になるようだ。
私はその例に漏れずものすごく落ち着いていた。普段でもこんなに落ち着いてねーよってくらい落ち着いていたのだ。なので周りを観察する余裕が生まれた。
そして余裕が生まれてしまった結果ある考えに至ってしまった。
これは私が好きな小説のジャンルのアレとまったく同じじゃないか?
あの違う世界にレッツゴー!なあのジャンル・・・
い、いやいやいやアレは小説の中だけだって!ありえないありえない
いやでも固まってる人たち目の色と髪の色がありえないくらいカラフルだし家の作りも日本と違う。さらに決定的なのはランプらしきものが浮いていたのだ。空中に、フワーッとワイヤーも無く・・・
そこまで考えて背中に汗がつたったのを今でも鮮明に覚えている。そして私は震えながら質問した。
「ここはどこですか?」
記憶喪失者かっ!ってツッコミが現実逃避のように脳内でとんだ。