星の巡り合わせ
第1話10円と、私………。
秋の午後、19歳のりおは公園のベンチでがっくりとうなだれていた。財布を開けると、中には10円玉が一つと、5円玉、1円玉が三つだけ。アルバイトを辞めたばかりで、次の仕事も決まっていない。長く伸びた髪は美容院にも行けず、身に着けているのは家着のジャージだけ。お茶を買うお金もなく、水飲み場で水を飲むのが精一杯だった。
「お金がないから、こまったな…」
ため息をついていると、突然、優しい声が背後から聞こえた。
「突然ですまないが、10円いただけないですか?」
振り向くと、アジア系の老紳士が立っていた。焦ったように話し続ける。
「先程、財布を開けているのを見たので…10円だけ下さい。アナタの10円が、欲しくてなりません。こう見えても、コインコレクターなんです。昨日、日本に来て、このコインを故郷のブラジルに持ち帰りたいのです」
りおは少し迷ったが、結局、大切な10円玉を老紳士に手渡した。すると老紳士は、にっこり笑って言った。
「お礼をしなければ。これはブランドのドレスです。胸元が目立つデザインですが、きっとあなたに似合うでしょう」
受け取ったドレスは、確かに高級そうだった。りおは「これを売れば少しはお金になるかも」と考えながら、公園を後にした。
帰り道、高級車がそばに止まった。窓から顔を出したおしゃれな女性が、りおの持つドレスに目を留める。
「まあ!リーネルの限定ドレスじゃない!ねえ、お礼するからそのドレスを譲ってくれない?見る限り、かなりの価値があるわ」
女性は杉原留美と名乗り、ドレスを受け取ると、りおの事情を聞き出した。
「無職なのね。だったら、本の会社を紹介するわ。私はデザインに関わっていて、顔がきくの。明日からカドシタ書店に来てもいいって伝えておくから」
そう言って杉原は交通費まで渡し、車で去っていった。
翌日、思いがけない電話がかかってきた。カドシタ書店の蒼井という男性社員からだった。
「実は…社員の枠を一つ譲ってもらえないでしょうか?高い条件での就職になるのですが、コネでも無理なので…」
りおは呆気にとられた。世の中、そんなにうまくいくはずがない。敷居が高そうな会社だし、自分には荷が重すぎる。結局、就職の機会を蒼井に譲ることにした。
「お礼に、大手作家が所有している別荘を差し上げましょう」
蒼井の言葉に、りおは目を丸くした。まさか別荘が手に入るなんて。
5日後、不動産会社の人に案内されて別荘を訪ねると、そこは木のぬくもりを感じる素敵な家だった。庭いじりもでき、システムキッチンはピカピカ。洋間作りでおしゃれな造りに、りおは思わず笑みがこぼれた。
こうして、りおは貧乏生活から一転、別荘に引っ越すことになった。親と一緒に暮らし、おしゃれもできるようになった。仕事は、蒼井の紹介で新聞会社が経営する市の広報誌配り。毎朝、新鮮な空気を吸いながら地域を回るのは、意外と気持ちがいい。
ある日、配達中に公園の前を通りかかった。ベンチには、財布を開けて困っている別の若者が座っていた。りおは思わず足を止め、懐から10円玉を取り出した。
「突然ですまないが、この10円、どうぞ」
若者が驚いた顔で振り向くと、りおはにっこり笑って言った。
「もしかしたら、何かいいことが起こるかもよ」
秋風がそっと髪をなでながら、10円玉は新たな物語の始まりを告げていた。




