第47話 アパアポinプトルカン② ♪華咲か友さん
【開演1分前】
会場のトラブルは解決したが、楽屋の空気は重かった。
アルミル、パイン、アスナの3人は深刻な表情で顔を見合わせていた 。
心配事は山ほどあるが、何よりも重大な問題が一つ。
――ポームが、まだ来ていない。
戦場で別れてから、彼女とは連絡が取れていない。
シュラが「必ず連れてくる」と言って出て行ったきり、彼も戻ってきていない。
3人はギリギリまで待った。4人揃ってステージに立つという約束を信じて 。
しかし、開演時刻を告げる時計の針は無情にも進み、これ以上お客さんを待たせるわけにはいかなかった。
「……行きましょう」
アルミルが決意を固める。
現状を説明し、頭を下げよう。それでも、ライブはやらなければならない。
3人は硬い表情のまま、ステージへの階段を上った 。
スポットライトが3人を照らす。
わぁっ! と歓声と拍手が沸き起こるが、メンバーの表情に笑顔がないことに気づいた観客たちは、次第に静まり返り、ざわめき始めた 。
ステージ中央に立ったアルミルが、マイクを握りしめて語りかけた。
「今日は集まってくれて、本当にありがとうございます。
でも……申し訳ありません。まだ、メンバーが集まっていないんです」
会場が静まり返る。
「私たちの大切な仲間が、親友が、まだ来ていないんです。
もう少しだけ……あと少しだけ、待ってください。
彼女は、私たちにとってかけがえのない人なんです。私たちは4人でライブをすると決めたんです!
どうか、どうか皆さんも、彼女が来てくれることを信じて、一緒に待ってください! お願いします!」
アルミルの悲痛な叫びは、マイクを通さずとも会場の外にまで響くほどだった。
3人が深々と頭を下げる。
会場の誰もが息を呑み、その思いを受け止めた。
その時だった。
店の外。入り口のガラス窓の向こうに、人影が見えた。
仮面を付け、丈の長いコートを羽織った少女が、扉の前で立ちすくんでいる 。
入ろうか、戻ろうか。躊躇しているのが見て取れる。
ステージの反対側にある小窓から、その姿を見つけたアルミルが、ハッと顔を上げた。
来た!
ここで迷わせてはいけない。強引にでも引きずり込むしかない!
アルミルは後ろを振り返り、叫んだ。
「パインさん! はじめて!!」
唐突な振りにパインは一瞬たじろいだが、すぐに意図を理解した。
彼女はニヤリと笑うと、両手のスティックを高らかに打ち鳴らした。
カーン、カーン、カーン、カカッ!
♪『華咲か友さん』
説明もなしに、いきなりライブが始まった。
パインが叩き出す軽快でパワフルなドラムビート。それに重なるように、アスナが操る魔法シンセサイザーが、煌びやかでポップな電子音を奏でる 。
この世界には存在しなかった、アップテンポなバンドサウンド。
初めて聴く音楽に、観客は度肝を抜かれ、一瞬で沸き立った。
そこへ、アルミルの透き通った、しかし芯のある伸びやかな歌声が重なる 。
『土が違えど 種が違えど 栄養違えど
パッと咲かせてみせましょう!』
アルミルは歌いながら、アスナへ目配せを送った。「窓の外を見て!」と 。
アスナが気づく。外でたたずむ少女の姿に。
アスナは演奏を続けながら、片方の魔法杖を窓の外へ向けた。
「そこじゃー!!」
杖から発せられたまばゆい光線が、ガラスを透過して外の少女を直撃し、まるでピンスポットライトのように彼女を照らし出した 。
光の中に浮かび上がる、仮面の少女――ポーム。
観客の視線が一斉に窓の外へ向く。
ポームは驚いて身を固くしたが、そのすぐ背後に、商人の格好をした男――シュラが立っていた。
シュラはニカっと笑うと、ポームの背中に手を当て、力いっぱいドンッ! と押した 。
「行ってこい!」
つんのめるように店内に押し出されるポーム。
その拍子に、羽織っていたコートがバサリと地面へ落ちる。
その下から現れたのは、ステージ上の3人とお揃いの、華やかなステージ衣装だった 。
もう、後戻りはできない。
耳に飛び込んでくるのは、仲間たちが奏でるビート。
ポームの中で、何かが吹っ切れた。
彼女はその場でリズムを取り始めた。
最初は小さく、小刻みに。
しかし、ビートが体に馴染むにつれ、動きは大きく、しなやかに変化していく 。
彼女の体から溢れ出すグルーヴは、まるで音が可視化されてこぼれ落ちるかのようだ。
ポームは踊りながら、観客の視線を釘付けにしたまま、ゆっくりと店の中へと進んでいく 。
フロアを埋め尽くしていた観客たちが、彼女の気迫と美しさに圧倒され、モーゼの海割れのように左右へ道を開ける。
入口からステージへと続く、一本の「花道」が出来上がった 。
ポームは踊りながら花道を駆け抜ける。
そして、ステージの手前までたどり着いた。
見上げれば、そこには満面の笑みを浮かべたアルミル、パイン、アスナが待っていた 。
「「「おかえり!!」」」
アルミルとアスナが手を差し出す。
ポームは迷わずその両手を掴んだ。
二人が引き上げ、ポームの体がふわりと浮き、ステージの上へと降り立つ 。
4人が揃った。
ポームは仮面の下で、涙を流しながら笑った。
「……ただいま!」
その瞬間、曲のテンポがさらに一段階上がった。
パインのドラムが激しさを増し、心臓を叩くような重低音を響かせる。
アスナは「イルミネーション魔法」を全開にし、会場全体を七色の光で包み込む 。
そしてポームは、水を得た魚のようにステージ上を躍動し、キレのあるダンスでオーディエンスを煽りまくる 。
会場のボルテージは限界突破。
演者と観客の魂が一つになり、プトルカンは熱狂の坩堝と化した。
『君との違いが埋まった時こそ
もっとも近くに感じる瞬間!』
4人のハーモニーが響き渡り、最高のフィナーレを迎えて1曲目が終わった 。
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~ 華咲か友さん ~
歌:アルミル ドラム:パイン 魔法シンセ:アスナ ダンス:ポーム
土が違えど 種が違えど 栄養違えど
パッと咲かせてみせましょう
風土違えど 歴史違えど 世界違えど
パッと咲かせてもらいましょう
いてあたりまえの そんな君
横にいないだけで 不安になる
知ってる君も 同じ気持ち
存在だけで強くなり合う
枯れ気に華を咲かせましょう
元気の源 ハイ!撒くよ~!
ココ惚れ ワンワン ワンダルフル
ほれぼれ キュンキュン キュートYOU
君とならどこへも行ける 星屑切り裂き スプラッシュ
体格違えど 髪色違えど 性別違えど
パッと咲かせてみせましょう
言葉違えど 民族違えど 信仰違えど
パッと咲かせてもらいましょう
君の興味が私の興味
私の世界を広げてくれる
君との違いが埋まった時こそ
もっとも近くに感じる瞬間
枯れ気に華を咲かせましょう
元気の源 ハイ!撒くよ~!
カンフル フルフル ソウルフル
チャンチキ チキチキ 知己ちゅき
一緒に瞬こう ヒカリを突き抜け ニューフラッシュ
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◇
大歓声の中、アルミルが肩で息をしながらマイクを握る。
「みなさん! 今日は集まってくれて本当にありがとうございます!
私たち、『アパアポ』です!!」
ワァァァァァァ!! と割れんばかりの拍手。
「1曲目に歌わせていただいた『華咲か友さん』は、私の大好きな親友を思って書きました」
アルミルはポームの方を見て、優しく微笑んだ。
「実は私、こことは違う、遠く遠く離れたところから、この街へやって来ました。突然、知らない世界に放り出された迷子のように」
アルミルの言葉に、会場が静かに聞き入る。
「新しい土地、新しいルール。慣れるのは大変でした。でも、自分の夢――歌うことだけは、絶対に曲げないって決めていました。
そうしたら、本当に素晴らしい人たちと出会えました。助けてもらいました。そして、大切な親友もできました」
彼女の視線が、パイン、アスナ、ポーム、そして会場の奥にいるであろうシュラへと向けられる。
「どんなに離れていても、立場が違っても、必ず心は繋がっている。
今日は特に、そんな絆を強く感じました。
この後も、私たちのライブを最後まで楽しんでいってください!」
会場から「いいぞー!」「最高だぞー!」と声援が飛ぶ。
アルミルは元気よくメンバー紹介を始めた。
「それではメンバーを紹介します!
オン・ドラムス! 頼れるみんなの母ちゃん、パイン!」
「あいよー!」パインが豪快なフィルインを叩く。
「オン・シンセ&イルミ! 光と音の魔術師、アスナ!」
「ごきげんよう!」アスナが優雅に杖を振り、星屑を降らせる。
「そして……ダンサー! 最高の相棒、ポーム!」
ポームが照れくさそうに、でも誇らしげにポーズを決める。
その時、ステージ最前列にいたクスノ王子が、興奮を抑えきれずに叫んだ。
「素晴らしい! そして、君はいったい誰なんだ!?」
待ってましたとばかりに、アルミルがマイクを構える。
「はい!
元気がモットー、愛をモットー!
どんなに苦境でもサビたりしない!
歌と踊りでサービスたっぷり!
異世界アイドル・アルミルーーーですっ!!」
バチコーン! とウィンクが決まる。
ズキュン。
クスノ王子のハートが撃ち抜かれる音が聞こえた気がした。これでまた一人、熱狂的なファン(権力者)が誕生したようだ 。
◇
――そして、俺、商人シュラこと大魔王デールン・リ・ジュラゴンガは今、人生で、いや魔王生で一番の最高な気分を味わっていた。
なぜなら、アルミルの異世界初ライブを、最前列のかぶりつきで見ることができているからだ!
店の前でポームが「やっぱり入れない」と尻込みした時はどうなることかと思ったが、俺が物理的に背中を押して(ちょっと強めに)送り出したのは正解だった。
そしてポームが花道を作ってくれたおかげで、俺もドサクサに紛れて腰を低くして後をつけながら移動し、この特等席を確保することに成功したのだ 。
ライブは怒涛の勢いで進んでいく。
『公差ゼロの夢』で職人たちの心を掴み、『林道レイン』でしっとりと聴かせ、『遠々々吠々々 裏ver.』では客席とのコールアンドレスポンスを成功させる。
ポームのダンスが加わったことで、ステージの華やかさは段違いだ。
最高だ。
最高だぜ、アルミル!
あなたは本当に、この世界でも輝いている!
俺は周りの目も気にせず、サイリウム代わりの魔導ライトを両手に持ち、全力でオタ芸を打ち続けた 。
大魔王としての威厳? 知ったことか。今はただの一人のファン、シュラでいい。
前世では何をやってもダメで、うだつの上がらないサラリーマンだった俺。
そんな俺に、生きる喜びを、輝きを教えてくれたのは彼女だった。
彼女が異世界でも夢を追い続けるなら、俺はその道を切り開き、支え続ける。それが俺の生きる意味だ。
ステージ上のアルミルと目が合った気がした。
彼女は汗まみれの笑顔で、誰よりも楽しそうに歌っている。
この身が朽ちるまで。
我が魔王生、推しに捧げる!!
第1章 了
最後までお読みいただきありがとうございました。
区切りが良いここで、一旦締めさせていただきます。
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物語の続きは思考中です。




