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最強魔王の推し活【裏】覇業  作者: 団田図


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第45話 託された思い

 あれから2日が経った。

 今日はついに、俺の推しであるアルミルの異世界初ライブ当日だ!


 先日の魔人サミットでは、参加していた多数の魔人幹部たちから、大魔王であるはずの俺へ散々皮肉を聞かされ、胃に穴が開く思いをした。

 しかし、そんな拷問のような時間を耐え抜くことができたのは、ひとえにこの日のため。この楽しみが予定されていたからだ。


 生きていてよかった~。

 いや、一度死んで異世界へ転生しているから、「死んでよかった~」と言うべきか。

 そんな細かいことはどうでもいい。

 問題は、一つだけ気がかりなことがあるということだ。


 あれから、ポームの姿が見当たらないのだ。


 アルミルとアスナさんは、あの激戦の後、聖獣コナッツオに乗って相手国のシルバへ赴き、見事な手腕で停戦合意を取り付けて王都ファクトリオスへ帰還した。

 その後、俺とパインさんは二人から戦場での出来事の詳細を聞かされた。ポームが魔族とのハーフであることをカミングアウトし、魔族軍を率いて去っていったことも。

 ちなみに、「俺とポームが種違いの異父兄妹である」という設定については、俺がポームに指示した嘘設定なので、話を聞いた時は「ええっ!? そうだったのか!?」と全力で驚く演技をしておいた。アカデミー賞ものの演技だったと自負している。


 だが、それ以来ポームの行方が知れない。

 昨日の夜、俺が大魔王の姿で魔王軍の情報網を使っても、彼女の居場所は掴めなかった。

 まさか、本当に魔族として生きる決意をして、どこか遠くへ行ってしまったのだろうか。


---


~王都ファクトリオス 定食屋プトルカン~


 ライブ当日の朝。

 カランコロン、とドアベルを鳴らして店に入る。


 店内はすでにライブ仕様に模様替えが進んでいた。普段のテーブルは端に寄せられ、奥には即席のステージが組まれている。

 パインさんが忙しそうに動き回っていた。


「おはようございます、パインさん」

「あら、シュラ君おはよう。早いね」


「いよいよ今日ですね。……聞きましたよ、出兵していたご主人が、今日帰ってくるそうじゃないですか」

「そうなのよ! まったくタイミングが良いんだか悪いんだかね。あはははっ」


 パインさんは豪快に笑うが、その表情は明るい。夫の無事な帰還は何よりの朗報だ。ライブと合わせてダブルでおめでたい日になりそうだ。


 すると、店の奥からアルミルが飛び出してきた。

「シュラさん! ポームちゃんから連絡はありましたか!?」


 彼女の目は必死だった。寝ていないのか、少し隈ができている。

 俺は痛む胸を押さえて、首を横に振った。


「それが……まだなんです。こちらへも戻っていませんか?」

「はい……。昨日も街中を探したんですけど、どこにもいなくて……」


 アルミルが肩を落とす。

 ポームがいないままライブを迎えるなんて、彼女にとっては考えられないことだろう。


「まったく、どこへ行ったんだか。俺はもう一度、街の外れの方まで探してきますよ」

 俺がそう言って店を出ようとした時だった。


「シュラ殿! 待ってくだされ!」


 厨房からアスナさんが駆け寄ってきた。手には奇麗に包装された包みを持っている。


「これを、これをポームさんへ渡してくだされ」


 さらに、パインさんも追いかけてきて、別の包みを俺に手渡してきた。

「もし会えたらさ、これをポームちゃんへ渡しておくれ」


 二人は真剣な眼差しで、それぞれの「託し物」と「伝言」を俺に授けた。

 その重みを感じ取り、俺は力強く頷いた。


「わかりました。必ず見つけて、これらを渡して、ここへ連れてきます。

 だから皆さんは、最高のライブができるように準備をお願いします!」


「はい! 信じてますから!」

 アルミルの笑顔に見送られ、俺は店を後にした。


 さて、アテはある。

 俺は人目のつかない路地裏へ入り、転移魔法を発動させた。

 目指すは魔王城だ。


---


~魔王城 玉座の間~


 一瞬で玉座の間へと帰還した俺(大魔王モード)は、すぐに側近のビニルを呼び出した。

 ポームは俺の前から姿を消したわけではない。彼女が頼れる場所は限られている。


「ビニルよ。ポームを最近見かけないが、心当たりはあるか?」


 俺が玉座から問うと、ビニルはきょとんとして瞬きをした。


「えっ? 私が転移魔法で戦場へ送り出してからは見かけておりませんが……。

 あの後、王都ファクトリオスで大魔王様と合流されたのではなかったのですか?」


「……うむ。まあ、そうなんだが、ちょっとはぐれてしまってな」


「はぐれた!? 行方不明ということですか!?」


 ビニルの顔色が激変した。

 爬虫類のような冷徹な瞳が、今はただの心配性の祖父の目になっている。


「だとしたら大変なことですぞ! あの後、勝ち確の戦場で何かあったということか!?

 まさか暴走した魔獣に襲われたのでは……いや、人間の英雄に討たれたのでは……!

 ああ、可愛い我が孫娘の身に何かあれば、私は生きていけませぬ! どうしたものか、どうしたものか!」


 ビニルが頭を抱えて右往左往し始めた。

 急に取り乱すな、爺さん。

 俺はアルミルから話を聞いているから、ポームが無事に戦場を離脱したことは知っている。だが、その情報源を明かすわけにはいかない。

 ここは上手く誘導尋問をするしかない。


「ビニルよ、案ずるな。ポームは無事じゃ。余にはわかる」

「本当ですか!? 大魔王様にはポームの気配が感じ取れるのですか!?」

「う、うむ。微かにな。

 そこでだ、冷静になって考えてみろ。ポームが落ち込んだ時や、一人になりたい時、よく行くような場所はないか?」


 ビニルは涙目で考え込んだ。

「落ち込んだ時……。あの子は強がりですから、あまり弱音を吐きませんが……。

 ん-ん-ん-。そうじゃ!」


 ビニルがポンと手を叩いた。


「あの子は昔から、先輩魔人に稽古で負かされた時など、よく裏の墓地へ行っておりました。

 私のせがれ……つまりポームの父親の墓石の前で、隠れて泣いておったのです。

 もしかしたら、そこにおるかもしれませぬ!」


 ビンゴだ。

 魔王城の敷地内なら、俺の探索網にも引っかからなかった理由がわかる。灯台下暗しというやつだ。


「早速参りましょう! 魔王城の裏手に墓地がございます! こちらへ!」


---


~魔王城 裏 魔人墓地~


 冷たい風が吹き抜ける、石造りの墓地。

 戦いで散っていった歴代の魔人たちが眠るその場所は、薄暗く、静寂に包まれていた。


 走るビニルの背中を追いかけ、奥へと進む。

 やがて、一番奥にある古びた大きな墓石の前で、小さくうずくまる人影を見つけた。


 ポームだ。

 膝を抱え、震えている。


 俺たちは足音を忍ばせて近づいた。

 ビニルが耐え切れずに声をかける。


「ポームや……。無事か? おお、無事でよかった……!」


 ポームの肩がビクッと跳ねた。

 彼女はゆっくりと顔を上げたが、その目は赤く腫れあがっていた。


「おじい様……」


「ワシはそなたが無事ならそれでよい。

 ……どうした、引き継いだ戦争に負けて落ち込んでおるのか?

 気にするな。誰にだって初めての事はある。それが失敗したとて、次に頑張ればよいのじゃ。

 兵隊など、大魔王様がいくらでも新たにクリエイトしてくださる。

 だから、なっ。元気を出して、城へ戻ってこい」


 ビニルは優しく語り掛けるが、完全に的外れだ。

 ポームが泣いているのは、戦争に負けたからじゃない。友達と別れたからだ。

 俺も声をかけてやりたいが、今は大魔王の姿。それに、大きく勘違いをしているビニルにこれ以上聞かせたくない話もある。


「ビニルよ。後は余が話をする。そなたは下がっておれ」

「し、しかし……」

「よいから下がれ。これは命令じゃ」


「……はっ。わかりました。何卒よろしくお願いいたします」


 ビニルは名残惜しそうに何度もポームを振り返りながら、その場から離れていった。


 二人きりになる。

 ポームは再び膝に顔を埋め、背中を向けたまま、ぽつりと呟いた。


「兄う……いえ、大魔王様」


 彼女は俺の正体を知っている。だが、今は魔族としてのケジメをつけるために、あえて「大魔王様」と呼んだのだろう。


「私は……私はやはり、これからは魔族として生きていきます。

 あの日、アルは戻って来いと言ってくれましたが……やはり、アスナさんには受け入れられなかったようです。

 彼女は、何も言いませんでした。ただ、黙って私を見ていただけでした」


 ポームの声が震える。


「うっ……うっ……。

 みんなと別れるのがこんなに苦しいのなら……音楽など、ダンスなど、友など、知らなければよかった。

 最初から、ただの魔人として生きていれば、こんな思いをせずに済んだのに……。

 うっうっうっ……」


 嗚咽が漏れる。

 あれから二日間、彼女はずっとここで泣いていたのだろうか。

 誰よりも真面目で、誰よりも仲間思いな彼女だからこそ、その喪失感は計り知れない。


 だがな、ポーム。

 お前も、ビニルと同じで勘違いをしているぞ。


 俺は懐から、アスナさんとパインさんから預かった二つの包みを取り出した。


「ポームよ。顔を上げろ」


 俺は彼女の隣にしゃがみ込み、包みを差し出した。


「これは、アスナさんからの預かりものだ」


 ポームが驚いて顔を上げる。


「アスナさんが……私に?」


「ああ。余が受け取った時、彼女はこう言っていた。

 『シュラ殿、待ってくだされ。これを、ポームさんへ渡してくだされ。

 これは、ライブで着用する衣装と、ワラワとお揃いのマスクじゃ』とな」


「マスク……?」


「そうだ。アスナさんは貴族という立場上、表立ってライブには出られない。だからマスクをして出演する。

 そしてお前も、戦場で魔人であることを名乗った以上、素顔で出るのはリスクがあるだろうと気を使ってくれたんだ。

 『顔を隠して、一緒にステージへ上がろう』と、そう伝えてくれと頼まれた」


 ポームが震える手で包みを開ける。

 中から出てきたのは、きらびやかなステージ衣装と、美しい装飾が施された仮面だった。


「そして、アスナさんは最後にこうも言っていたぞ。

 『そなたは、種族を超越した親友である』と」


 ポームの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

 アスナさんは拒絶したんじゃない。突然のカミングアウトと、魔人として去っていくポームの覚悟に圧倒され、言葉が出なかっただけなのだ。そして、一度持ち帰って考え、出した答えがこれだ。

 「魔人でもいい。顔を隠してでも一緒にやろう」という、彼女なりの最大限の譲歩と愛情だ。


「そして、こっちはパインさんからの預かり物だ」


 もう一つの包み――少し温かいそれを渡す。

 ずっしりと重い。


「『もし会えたらさ、これをポームちゃんへ渡しておくれ。特製のお弁当だよ。あの子、すぐにお腹がすくだろ? ちゃんと食べてるか心配なんだよ』

 ……だそうだ」


 ポームが包みを抱きしめる。母のような温かさが、そこにはあった。


「パインさんの伝言はまだあるぞ。

 『アルちゃんの歌についてこられるダンサーは、ポームちゃんしかいないって言っといてよ』

 ……だとさ」


 嬉しいじゃないか。

 誰もポームを責めていない。誰もポームを仲間外れにしていない。

 みんな、お前が必要なんだ。


「ここに置いていくから、弁当を食べ終わったら俺の所に来い。

 一緒に戻ろう」


 俺はそう言って立ち上がり、背を向けた。

 これ以上、俺がいると泣きづらいだろうからな。


 俺が数歩歩き出したところで、背後から堰を切ったような号泣が聞こえてきた。


「う”あ”あ”あ”あ”あ”ーー!! ぐすっ、う”う”ーー!!」


 子供のような泣き声。

 それは悲しみの涙ではなく、安堵と喜びの涙だとわかっている。


 俺はニヤリと笑い、振り返らずに手を振った。

 さあ、急いで戻って準備をしないとな。

 最高のライブが、もうすぐ始まるのだから。

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