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最強魔王の推し活【裏】覇業  作者: 団田図


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第4話 再会 ♪公差ゼロの夢

 転移魔法の光が収束すると、そこは街道の林の中だった。

 木々の隙間から、石造りの巨大な城壁が見える。あれが西の王都、ファクトリオスか。


「……よし。まずは第一関門クリアだな」


 俺は自分の身体を見下ろした。

 紫色の肌も、ねじれた角も消えている。どこにでもいる、少し頼りなさげな商人の青年。それが今の俺だ。

 だが、中身はあくまで大魔王デールン・リ・ジュラゴンガ。体内で渦巻く膨大な闇の魔力を、意識の皮一枚で押さえ込んでいる状態だ。

 ビニルの話では、王都に張られた『聖女オイリーの結界』は、闇の魔力を感知すると自動迎撃システムのように聖なる雷を落とすらしい。

 つまり、俺は今、ニトログリセリンをポケットに入れて満員電車に乗るような緊張感の中にいる。


「兄上……いえ、お兄ちゃ…やっぱむりです」


 横からかけられた声に、ギクリと肩が跳ねた。

 振り向くと、そこには旅の娘姿に変装したポームが立っていた。平民風のチュニックに身を包んでいても、その銀髪と真紅の瞳から滲み出る気品は隠しきれていない。

 しかし、その表情はガチガチに緊張していた。


「あ、あの……このように、人種族の街へ潜入するなど、正気の沙汰とは思えませぬが……本当に大丈夫なのでありましょうか? もし兄上のお体に傷一つでもつけば、爺様が発狂して世界を灰にしてしまいます」


「だ、大丈夫だ。俺の勘だが、魔力出力を限りなくゼロに絞れば問題ないはずだ」


 俺は震える手でポームの頭をポンと撫でた(というより置いた)。

 設定は「旅の商人兄妹」だ。仲睦まじく振る舞わねば怪しまれる。


「行くぞ、ポーム。堂々としていればいい」

「は、はいっ! 承知つかまつ……わかったわ、兄上!」


 無理やり作った笑顔で頷くポームを連れ、俺たちは検問の列に並んだ。

 心臓が早鐘を打つ。

 門番の騎士が、魔力感知の水晶をかざしてくる。


(バレるなよ……絶対にバレるなよ……!)


 水晶が一瞬、曇ったように見えた気がしたが、すぐに透明な輝きを取り戻した。


「よし、通っていいぞ。次は――」


 通過許可が出た瞬間、俺は安堵のあまり膝から崩れ落ちそうになったのを、必死の「つまづいたフリ」で誤魔化した。

 門をくぐり抜けると、そこには別世界が広がっていた。


 活気だ。

 石畳の大通りを行き交う人々、呼び込みをする露天商の声、馬車の車輪が回る音。

 魔王城の陰鬱な静けさとは対極にある、生のエネルギーがそこにはあった。


「ほう……。なんと賑やかな街並みですこと」


 ポームが目を丸くして周囲を見回している。


「人種族はこれほどまでに豊かな生活をしているのですね。物心ついた時から魔王城の地下より外へ出たことが無かったもので、大変興味深いです」


 キョロキョロと首を動かす彼女の姿は、修学旅行で初めて竹下通りに来た田舎の女子高生のようだ。

 魔人と人間のハーフである彼女にとって、この光景はどう映るのだろうか。半分は自分の故郷とも言える場所だ。何か思うところがあるのかもしれない。


「いずれはこの地も、兄上のお力で滅ぼされる事になるというのに、呑気な人種族どもですね。ここで暮らす彼らが、業火に焼かれ苦しみもがく姿……想像するだけでゾクゾクしますわ。うふふ」


 ……訂正。

 完全に魔族としての英才教育が行き届いていらっしゃる。

 あの好戦的な爺さんの教育の賜物か。無邪気な笑顔で虐殺予告をするのはやめていただきたい。


 俺たちは、武器屋、雑貨屋、花屋などを冷やかしながら、街の様子を観察することにした。

 一見平和に見えるこの街だが、詳しく見ていくと、世界の歪みが見えてきた。

 武器屋では鉄の価格が高騰していると親父が嘆き、路地裏には怪我をして手足を失った元兵士らしき男たちが物乞いをしている。

 華やかな大通りの一本裏では、その日のパンにも困る子供たちが走り回っていた。


「隣国との戦争が長引いているそうだな」


 露店でリンゴを買いながら、店主に話を振ると、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「ああ。魔王がいなくなってから、どこの国も『我こそが覇権を握る』って躍起になっててな。資源や食料の奪い合いさ。昔の方が、魔王っていう共通の敵がいた分、人間同士はまとまってた気がするよ」


 皮肉な話だ。

 平和になった途端に内ゲバを始める。ビニルが言っていた「愚かな種族」という言葉が、重みを持って脳裏をよぎる。

 強欲で、身勝手で、争いをやめられない。

 もしかしたら、本当に俺が「恐怖の象徴」として君臨し、人間たちを管理した方が、世界全体としては幸せなのかもしれない。

 そんな「魔王思考」が頭をもたげ始めたとき、腹の虫が盛大に鳴った。


 グゥゥゥゥ――。


「……す、すみません兄上。はしたない音を」


 赤面して腹を押さえるポーム。いや、今のは俺の腹の音との二重奏だ。


「気にするな。俺も腹が減った。飯にしよう」


 目に入ったのは、『定食屋 プトルカン』という看板を掲げた古びた店だった。

 暖簾をくぐると、店内には香ばしい匂いが充満している。

 奥から、三角巾を被った恰幅のいい女性店員が出てきた。


「らっしゃい! 空いてる席に座ってよ。ここじゃ見ない顔だね、旅の商人さんかい?」


「あ、はい。……何かおすすめはありますか?」


「悪いねえ、今は戦争の影響でロクな食材が入ってこなくてさ。メニューは『日替わり定食』一本なんだ。今日は港で新鮮な魚が揚がったから、特製のナメロウ丼だよ」


「ナメロウ……!」


 前世の居酒屋を思い出し、俺は生唾を飲み込んだ。

 注文を済ませると、厨房からトントントントンと軽快な包丁の音が響いてくる。

 やがて運ばれてきたのは、丼飯の上にたっぷりと盛られた、味噌と薬味で叩かれた魚の身。そしてアラ汁。


 俺はスプーンで山盛りのナメロウをすくい、口へ運んだ。


「ん……っ!?」


 うまい。

 新鮮な魚の甘み、味噌のコク、そしてネギとショウガの爽やかな香り。それらが白米と混ざり合い、口の中で爆発する。


「兄上……モグ……これは実に……モグ、美味でございますな!」


 ポームが目を輝かせ、リスのように頬を膨らませている。


「魔王城で毎日食べていた『継ぎ足し百年昆虫煮込みリゾット』よりも、はるかに美味でございます!」


(あそこではそんなものを食べているのか。無理かも)


 戦慄しつつも、俺はスプーンを進めた。

 こんなに美味いものが作れる人間が、悪い奴らばかりのはずがない。

 女将さんの笑顔と、このナメロウの味は、俺の「魔王化計画」に待ったをかけるのに十分な説得力があった。


 ――ガシャンッ!!


 平穏なランチタイムを粉砕したのは、陶器が割れる音と、耳障りな罵声だった。


「おいコラァ! メシの中に髪の毛が入ってるじゃねーか! どうなってんだ衛生管理はよォ!?」


 見れば、隣のテーブル席に座っていた二人組の男が立ち上がっていた。

 一人は派手な服を着た痩せ男。もう一人はガラの悪い巨漢だ。

 女将さんが慌てて飛んでくる。


「申し訳ないね! でも、アタイはずっと帽子を被ってるし……」


「うるせぇ! 事実、ここに入ってんだよ! ほら見ろ、この白い毛を!」


 痩せ男が指さした皿には、確かに一本の長い毛が乗っている。

 だが、女将さんは毅然と言い返した。


「お客さん。アタイの髪は赤毛だよ。その白い毛は……あんたが着てる安物のファーの毛じゃないか?」


 図星だったのか、男の顔が赤くなる。だが、引くに引けないのか、さらに声を荒げた。


「なっ……口答えすんのか!? 俺を誰だと思ってやがる! この商店街組合長の息子、ペイパ様だぞ! 親父に言いつけて、こんな店、明日には更地にしてやることもできるんだぞ!」


「そうだそうだ! ペイパ坊ちゃんは今、闘淫鶏ギャンブルでスって機嫌が悪いんだ! 痛い目を見たくなければ、慰謝料として金庫の中身を全部よこしな!」


 典型的なチンピラだ。どこの世界にもいる、親の威光を傘に着たクズ。

 女将さんは気丈に振る舞っているが、その手は震えている。

 俺の中で、かつての「正義感」が頭をのぞかせた。

 前世の俺なら、ビビって何もできなかっただろう。

 だが、今の俺には力がある。指先一つでこいつらを吹き飛ばす力(魔力)が。


 しかし――。


『闇の魔力を感知すると、対象者を聖なる光で焼き殺す』


 ビニルの警告が脳裏に蘇る。

 ここで魔法を使えば、俺たちの正体がバレる。

 結界が発動し、俺だけでなく、ポームまで危険に晒すことになるかもしれない。


「ポーム。女将さんを助けてあげられるか?」


「え?恐れながら申し上げます兄上、本気ですか?私がやつらを蹴散らすのは造作もないことですが、人種族ごときのいざこざに介入するのですか?」


 確かに、ここであまり目立つのはよくない。それに、俺は魔王として生きていこうとしている。

 俺の中の善悪の判断や道徳心を変える必要があるのかもしれない。


 、、、、、、、、、


 ここはお代を机に置いて立ち去ろう。


「店を出よう、ポーム」


「はい、それが良きかと」


 傍若無人な男たちに必死で言い返す女将さんの声を背中で聞きながら店を出た。


 自分に言い聞かせるように呟く。

 俺は魔王だ。人間を救う義理はない。むしろ、人間たちの醜さを再確認できてよかったじゃないか。

 そう思うことにした。そう思わなければ、自己嫌悪で押しつぶされそうだった。


 もう帰ろう。

 魔王城に帰って、あの薄暗い玉座で膝を抱えていよう。俺にはそれがお似合いだ。


 重い足取りで裏通りを歩いていた、その時だった。


『♪キッチリ カッチリ 細かい性格なわけじゃない』


 風に乗って、微かな歌声が聞こえてきた。


「……え?」


 俺は足を止めた。

 空耳か? いや、確かに聞こえる。

 透明感のある、それでいて芯の強い、聴く者の心を震わせる歌声。


『♪ムッチリ モッチリ パンケーキが好き』


 おい、嘘だろ。

 その歌詞は。その独特なフレーズは。


『♪そんな私の描いた図面 誰にも 手直し させやしない』


 全身に鳥肌が立った。

 間違いない。俺が死ぬほど聴き込んだ曲だ。

 前世で俺が推していたアイドルグループ『メータルンバ』のアルバム収録曲、『公差ゼロの夢』!

 なぜ? なぜ異世界でこの歌が?


『♪決まった画角はみ出して 決まったルール取っ払って』


 俺は弾かれたように走り出していた。


「あ、兄上!? どちらへ!?」


 ポームの呼び止める声も耳に入らない。

 歌声は、広場の方から聞こえてくる。

 人混みを掻き分け、路地を抜け、音の源へとひた走る。


 心臓が破裂しそうだ。

 まさか。そんな奇跡があるわけがない。

 でも、この歌声のあるじを、俺は誰よりも知っている。

 辛い残業の夜も、理不尽な上司に怒鳴られた日も、この声が俺を支えてくれたんだ。


『♪百万分の1ミリだって 譲ったりなんかするもんか』


 現場に着いた。

 噴水の前に、人だかりができている。

 その中心で、一人の少女が歌っていた。


 ボロボロのローブを纏い、粗末なリュックを背負っている。

 だが、その輝きは隠せない。

 夕日を浴びてキラキラと輝く、ハニーブロンドのショートカット。

 意志の強さを宿した大きな瞳。

 そして、世界を祝福するかのような、圧倒的な歌唱力。


『♪偽りなく自分を信じて 公差ゼロの夢――』


 歌い終えた少女が、ニコリと微笑む。

 その笑顔を見た瞬間、俺の目から涙が溢れ出した。

 時空を超えても、種族が変わっても、見間違えるはずがない。


「あ、あ、あ……」


 喉が詰まって言葉にならない。

 そこにいたのは。


「アルミル……ッ!!??」


 俺の最推し、『メータルンバ』のメンバー、アルミルこと望木もちき彩都さいつちゃん、その人だったのだ。


=========


~公差ゼロの夢~

歌:メータルンバ


キッチリ カッチリ 細かい性格なわけじゃない

ムッチリ モッチリ パンケーキが好き

そんな私の描いた図面 誰にも 手直し させやしない


決まった画角はみ出して 決まったルール取っ払って

あみ出した記号をちりばめ これが私の描いた夢よ


百万分の1ミリだって 譲ったりなんかするもんか

かたくななワケじゃない これは信念

描いた夢をスイスイ推進する つまづいたってそれも描いてますから

偽りなく自分を信じて 公差ゼロの夢



クッキリ ポッキリ 折れた心

ガッツリ グッスリ 食って寝りゃ解決

単純明快 座右の銘です 雨がやんだら作図再開


空にかかる虹 図面に落とし込んで

億千星にたった一つ 私にしか描けないの創れないの


百万分の1ミリだって 譲ったりなんかするもんか

特採なんて認めない そうよ即答

難しい図面を生み出しちゃったけれど やる気が出るのはどうしてなんだろ

鍛えて磨いてそこに行くの 公差ゼロの夢

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