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最強魔王の推し活【裏】覇業  作者: 団田図


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第38話 無茶ぶり ♪マジッキプリッキ

「シンセ?」


 定食屋プトルカンの店内で、アスナさんの素っ頓狂な声が響いた。

 無理もない。この異世界において「シンセサイザー」なんて単語を知っているのは、俺と、転生者であるアルミルくらいのものだ。


 アルミルは、アスナさんにプレゼントした子供用のおもちゃの魔法杖を指さし、目をキラキラさせて説明を続けた。


「そうです! 私の歌に合わせて、色々な魔法をバンバン打ってほしいんです。魔法って、種類によって出る音が違うでしょう? 炎なら『ボッ』とか、氷なら『キーン』とか。

 それを組み合わせて、素敵な伴奏……つまり『シンセ』にしてほしいんです!」


 なるほど。俺は腕を組みながら感心した。

 この世界でアスナさんが放つ魔法は多彩で、確かにそれぞれ特有の効果音(SE)を伴う。アルミルはそこに目を付けたのか。

 物理的な破壊力は皆無だが、音と光の演出だけは派手なこの「おもちゃの杖」を使えば、安全かつド派手な「魔法演奏」が可能になるというわけだ。

 発想が斜め上すぎるが、理論上は可能だ。


 しかし、当のアスナさんはまだピンときていない様子だ。

 自分の愛用しているヴィンテージ物の子供杖を握りしめ、首を傾げている。


「バシバシ打てと言われてもだなぁ……。魔法は呼吸と所作、そして精神統一が必要な繊細なものであって、そんな楽器のように扱うなど……」


「難しく考えないでください! こういう時は実践あるのみです!

 パインさーん!! ちょっといいですかーー!!」


 アルミルは言うが早いか、体を反転させて厨房の奥に向かって大声を張り上げた。

 行動力がカンストしている。


「はいよー、どうしたんだいアルちゃん?」


 濡れた手をエプロンで拭きながら、女将のパインさんが顔を出した。

 アルミルはパインさんに駆け寄り、矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「パインさん、ドラムお願いします! 始めは軽快な8ビートで入って、少しグラマラスな感じで進めます。中盤からは私の合図で16ビートに変更して、リムショットを多用したヘビィーな音でお願いします!」


「これからかい? もうすぐ開店時間だってのに、人使いが荒いねぇ~」


 パインさんは呆れたように笑ったが、その目は楽しそうだ。


「あいよっ! ただし、一回だけだよ!」


 えっ!?

 俺は耳を疑った。今の専門用語交じりの指示だけで理解したのか?

 パインさんはこの世界の住人だが、アルミルの影響でドラムに目覚め、メキメキと腕を上げているとは聞いていた。だが、ここまでとは。

 きっと、彼女自身がこの新しい遊びを心から楽しんでいるからこそ、吸収が早いのだろう。


 パインさんが即席ドラムセットの前に座り、スティックを構える。

 アスナさんも、訳が分からないなりに二本の子供杖を両手に持ち、覚悟を決めたようだ。


 そもそも、何の曲をやるつもりなんだ?

 俺とポーム、そして聖獣コナッツオは、特等席であるカウンターで固唾を飲んで見守った。


 アルミルがマイク代わりの大きなスプーンを握り、アスナさんに向き直った。


「今から《《歌わせていただく》》曲はですね……アスナさんのお屋敷で私に見せていただいた、子供の頃の日記です」


「なっ!?」


 アスナさんが顔を赤らめる。


「あの日記に書かれていた言葉には、当時のアスナさんの『魔法が大好き』っていう純粋な思いが溢れていました。それを読んで感動したので、勝手ながらメロディに乗せて歌わせてもらいます!

 アスナさんは思うがまま杖を振って、音を鳴らして入ってきてくださいね!」


 アスナさんの日記が歌詞!?

 ってことは……シャー! 新曲だーー!!

 俺のオタク魂が燃え上がる。前回はトラブルで途中までしか聞けなかったが、今は開店前の静かな時間。たっぷりと堪能させてもらおう!


 アルミルが一度目を閉じ、深く息を吸い込む。

 そしてゆっくりと瞼を開け、パインさんに視線を送った。


 カーン、カーン、カーン、カカッ!

 パインさんがスティックを打ち鳴らし、カウントを取る。


 セッションが始まった。


---


♪新曲:マジッキプリッキ


歌:アルミル

ドラム:パイン

魔法シンセ:アスナ


(軽快な8ビートのドラムに乗せ、アルミルの透明感のある歌声が響き渡る)


 ぶわっとお空の画用紙 広さは十分

 今日も自由にぬりつぶす うきうきレッツマジック

 フッテ フッテ パッ・ポン・ペン!

 まあるがホワンと はじけたよ


(アスナさんが恐る恐る杖を振る。「ポン!」という可愛い破裂音がリズムに重なる)


 こんどは成功させるよ 年長さんまでに

 キリンの 雲さんに わたしからのプレゼント

 シマウマ 雲さんまで 飛んでいけ


 今日の お味はいかがよ どうですか?

 お次は お星さまさ いま行くよ!


(サビ前、ドラムの手数が増える。アスナさんもリズムを掴んできたのか、杖を振るタイミングが合ってくる)


 ゾクセイ? タイセイ? なんなのさ 知らなくっても杖ふれる 

 お部屋の勉強飛び出して にぎにぎフィールドワーク

 フッテ フッテ パッ・ポン・ペン!

 カラダで覚えるタイプです

 センスだけで成長 しています


(ここだ! アスナさんの表情が変わった。迷いが消え、楽しそうな笑顔が浮かぶ)


 火の用心 赤くユラユラ 炎の魔法

 (ボウッ! 赤い光と熱を帯びた音が鳴る)


 カチコッチ 氷の魔法で シャインブルー

 (キィーン! 涼やかな音と共に青い粒子が舞う)


 風魔法 緑く光って ピューピューヒュルリ

 (ヒュオォ! 爽やかな風が店内を吹き抜ける)

 

 大発見! 三色同時で白くなる!


(三つの音が重なり、光が弾ける! すげぇ! これが魔法シンセか!)


 ママが言ったスナップ大事 パパが言った腹から声出せ

 形なんか私にいらない はみ出してもイッツマイウェイ

 フッテ フッテ パッ・ポン・ペン!

 強いだけじゃ物足りない

 プリティー キュートな魔法使いが いいんです


(パインさんのドラムが16ビートに変化! 重厚なリズムが空間を支配する)


 髪結って お化粧パンパン 魔法の尾にハート

 知ってるよ いつかはこの街守るのを

 それまでは わがままに 杖をふらせて

 そのレール 戻って来るから その時まで ねぇおねがい!


(ラスト、アスナさんが両手の杖を乱れ打ち! 光のシャワーが三人を取り囲み、幻想的なフィナーレを飾る!)


 ジャンッ!!


 最後の音が消え、静寂が戻る。

 俺は……震えていた。


 イッツアメイジング!!

 ダブル!スティック!マジック!

 ダブル!スティック!ファンタスティック!


 す、すごいものを見せてもらった。前世で死ぬ直前に見たライブの感動が、鮮やかに蘇る。いや、それを超えているかもしれない。

 魔法と音楽の融合。この世界でしかありえない、新しいエンターテインメントの誕生だ。


 演者の三人は、肩で息をしながらお互いの顔を見合わせ、弾けるような笑顔で称え合っている。

 言葉はいらない。今のセッションで心が通じ合ったのだ。


 目の前で見ていた俺とポームとコナッツオは、全身で賞賛を表した拍手し、ただただこの場にいられた奇跡に感謝していた。


 一息ついたパインさんが、汗をぬぐいながら叫んだ。

「凄いじゃないアスナちゃん! 魔法ってあんなにリズミカルなもんだったのかい!

 アルちゃんも、よくもまーこんな面白いことを考えついたわね。最高だよ! もう一回やろ! ねっ、もう一回!」


 興奮冷めやらぬ様子のパインさんを、アルミルが苦笑いで制した。

「パインさん、気持ちはわかりますけど……開店の時間ですよ! ほら、お客さんが外で待ってますから。ポームちゃん、オープンしよ!」


「は、はい!」


 アルミルに背中を押され、パインさんが名残惜しそうに厨房へと戻っていく。ポームも慌てて接客モードに切り替え、のれんを出しに走る。


 店内には、まだ魔法の光の残滓ざんしがキラキラと漂っていた。

 その中で、アスナさんだけが呆然と立ち尽くしていた。

 手には二本の子供杖。目は虚空を見つめ、魂が抜けたようになっている。


 ポームが心配そうに声をかけた。

「アスナさん、凄くかっこよかったよ。それに、元気になってよかった。……あの、お腹空いてない? この前食べ損ねたパインさんの定食、食べていってよ」


「え? ああ……そうさせていただくわ……」


 アスナさんは上の空で返事をし、ふらふらと客席に座った。

 運ばれてきた定食を、機械的に口に運ぶ。

 その間、店内はランチタイムの活気に包まれていたが、俺とコナッツオは、アスナさんの様子が気になって食事どころではなかった。


 大丈夫か? あまりの刺激にショートしてしまったんじゃないか?


 やがて、定食をきれいに平らげたアスナさんが、ゆっくりと顔を上げた。

 そして、忙しく動き回るアルミルとポームを目で追い、小さな声で呼んだ。


「……みんな」


 二人が気づいて駆け寄る。


「ありがとう……」


 アスナさんの大きな瞳から、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。

 一度溢れた涙は止まらず、次から次へと頬を伝っていく。


「えっ、アスナさん!?」


 アルミルが慌てて背中をさする。ポームがハンカチを差し出し、コナッツオが心配そうに身を寄せる。

 アスナさんは、しゃくり上げながら、途切れ途切れに言葉を紡いだ。


「違うのじゃ……悲しいのではない……。

 盗られた物を探してくれた事が嬉しかったし……あんなに楽しい演奏をさせてもらえたことも嬉しかったし……ご飯も美味しかったし……

 いろんな感情が一気に押し寄せてきて、ワラワはこの感動を処理しきれぬのじゃ……!

 この胸いっぱいの気持ちを、言葉でうまく伝えられなくて……悔しいのじゃ……ううっ……」


 俺は安堵のため息をついた。

 どうやら、時間差で特大の感動が押し寄せてきただけらしい。感受性が豊かな彼女らしい反応だ。


 号泣するアスナさんを、アルミルが優しく抱きしめる。


「よしよし。言葉にならなくていいですよ。音で伝わりましたから。

 また一緒に演奏しましょ? 今度ここでライブするから、一緒にステージに立ちましょ。練習して、もっともっと凄いの見せてやりましょ!」


 アスナさんは、子供のように顔をくしゃくしゃにしながら、コクコクと何度も頷いた。


 その光景を見ていたポームが、厨房に向かって明るい声で叫んだ。


「パインさーん!

 アスナさんがゴハン美味しいって泣いてるよーーん!!」


 カン! カン! カン! カン!


 奥の厨房から、フライパンをリズミカルに叩いて返事をしたパインさん。

 それはまるで、「了解! おかわりもあるよ!」というドラムのビートのように聞こえた。

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