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最強魔王の推し活【裏】覇業  作者: 団田図


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第22話 御産 ♪遠々々吠々々 裏ver.

 俺たちは、おつかいに来た村で、100年に一度と言われる聖獣の御産に立ち会うこととなった。


 工房の奥、藁が敷き詰められた部屋は、異様な緊張感に包まれている。

 皮職人のヒノキンは、自らを奮い立たせるかのように「おっしゃぁー! いつでもこいってんだぁ!」と大声を上げ、オリブの横に片膝をつき、広げた魚皮を両手で構えた。

 その周りを取り囲むように、心配そうに見守る村人たちからも声援が飛ぶ。


「がんばれー!!」


 俺たち3人もその場の空気に飲まれ、拳を握りしめて応援した。


「「「がんばれー!!」」」


 険しい顔で踏ん張るオリブ。その銀色に輝く毛並みが全身逆立ち、大気中の魔力が渦を巻く。新しい生命をこの世界に呼び寄せようとする、母の気迫だ。


「ぬらぁーーー!!!」


 裂帛の気合いと共に、光の塊が迸った。

 産まれた!!!


 広げられた稲わらの上に、濡れた子狼が産み落とされる。

 待ってましたとばかりに、ヒノキンが動いた。職人の早業だ。すぐさま『極巨胴旨鮫キングデリシャーク』の魚皮で優しく、かつ迅速に包み込み、頑丈な革ひもでグルグルと巻き上げた。

 初めての作業とは思えない手慣れた手つき。きっとこの瞬間のために、幾度となくシミュレーションを重ねてきたのだろう。


「やったー! やったぞーー!! オリブ様ーー!!」


 ヒノキンは産まれたばかりの子を抱きかかえ、おくるみからひょっこり出たその愛らしい顔をオリブに見せ、喜びを爆発させた。

 その感動的な瞬間に立ち会った村人たちは皆、手を取り合って涙し、拍手喝采を送っている。もちろん、俺たち3人もだ。


 聖獣オリブが、荒い息を整えながら産まれた我が子を愛おしそうに見つめた。


「今回で3度目となる出産であった……。この子を身籠ったときからお腹の中で暴れておったから、どうなるものかと思ったが、万事うまくいったようだな。感謝するぞヒノキン。村のみんな。そして旅の者たちよ」


 その場にいた全員が、安堵の息を漏らした。

 大仕事を終えた達成感と、新しい命への祝福。誰もが幸せな空気に浸っていた、その時だった。


 ヒノキンが抱えていた「おくるみ」が、モゾモゾと不穏な動きを見せた。


「おや? 元気だねぇ坊主。よしよs……」


 ヒノキンがあやそうとした、次の瞬間。

 ドンッ! という衝撃と共に、おくるみはヒノキンの手から大きく弾き飛ばされた。


「なっ!?」


 宙を舞う魚皮の塊。

 そして空中で、バチーーン!! という破裂音が響き渡った。


 な、なにっ?!

 頑丈なサメの皮を、内側から食い破っただと?!

 ヒノキンが言っていた「拘束具」としての機能が、数秒も持たなかったというのか!


 弾け飛んだ魚皮の中から現れたのは、親譲りのプラチナシルバーの毛並みを持つ子狼だった。

 そいつは着地と同時に四肢で踏ん張り、オロオロとするどころか、鋭い牙を剥き出しにして俺たちを睨みつけ、威嚇の唸り声を上げたのだ。


「グルルルルゥゥッ!!」


 一瞬の出来事であっけに取られていたが、その間にもお子は一回り大きくなり、しっかりとした立ち姿となり、歩き始め、次の瞬間には疾風のごとく走り始めた。

 恐ろしいほどの成長スピードだ。これぞ聖獣のポテンシャルか。


 横たわったままの聖獣オリブが、悲痛な声を上げた。


「しまっ……! やはりあのおくるみでも抑えきれなんだか! このままでは暴走してまずいことになる! 我輩は産後で動けん。誰か、誰かあの子を止めてくれ!」


 母親の悲鳴に、俺はとっさに反応した。


「ポーム! あの子を捕まえるんだ!」


「はいっ! 兄上!」


 俺の指令を受け、ポームが弾かれたように飛び出した。

 魔人の身体能力をもってすれば、産まれたての赤子など造作もないはずだ。

 だが――。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


 捕まえようと手を伸ばすポームを嘲笑うかのように、お子は部屋の中の棚から棚へと素早く飛び移り、天井の梁を蹴り、壁を走り、まるで遊んでいるかのような軽やかな動きで翻弄する。


「なっ……速い! ちょこまかと!」


 ポームが翻弄されている。

 やがてお子は部屋から飛び出し、窓を豪快に蹴破って外へ出て行ってしまった。


「待ちなさい!」


 俺たちも急いで外へ出たが、目に飛び込んできたのは惨状だった。

 村内はすでに大型の台風が去った後のように荒らされ、いくつかの家屋の壁には穴が開き、看板はへし折れ、畑の作物は食い散らかされている。

 たった一匹の赤ん坊がやったとは信じがたい破壊力だ。


 村の中央広場。

 暴れまわる子狼を取り囲むように、村人と俺たち、そして衰弱した体を引きずってオリブもやってきた。


「はぁ、はぁ……。村のみんな、我輩の子が迷惑をかけてすまぬ。このままでは我輩の体力が戻ったとて、太刀打ちできるかどうか……」


 オリブが絶望的な声を漏らす。

 魔人の中でも屈指のスピードを誇るポームですら、肩で息をして首を振った。


「兄上、とても手に負えるような代物ではございません。予測不能な動きに加え、あの底知れぬスタミナ……捕獲は困難です。いかがいたしましょう? 私の魔法で足を凍らせて……」


「いや、生まれたばかりの赤ん坊に攻撃魔法はまずい」


 仕方ない。これ以上放っておいてはこの村は壊滅してしまう。

 この俺が闇の力をほんの少しだけ開放して、威圧であの子を気絶させるしか方法は……。


 俺が覚悟を決めた、その時だった。


 タタタタッ!


 軽い足音が響き、一人の少女が村の中央に設置された、聖獣を象った石像のオブジェによじ登り始めた。

 アルミルだ!

 あんな高いところへ、いったい何を?!


 頂上に到達すると、彼女は四つん這いになって腰を落とし、広場を見下ろした。

 その瞳は、獲物を狙う獣のように鋭い。


「ワ”~ ワ”~ ワ”~ 」


 んっ? 唸っている?

 こんな緊急時にアルミルはどうかしてしまったのか? 恐怖で錯乱したのか?

 いや待てよ。

 この独特なイントロの唸り声は、もしかして、もしかするのか?


♪ワ”~ ワ”~ ワ”~ ワオォォォーーーン!!♪


 やはりそうだ!

 我らが『メータルンバ』の隠れた名曲にして問題作、『遠々々《とおとおとお》吠々々《ぼえぼえぼえ》』だ!!

 そ、それも、この喉を潰さんばかりのデスボイス交じりの歌い出しは……伝説の『裏ver.(フェスバージョン)』だ!!


 16ビートの疾走感あふれるテンポに、『ワオン』『キャン』『ワオーン』といった犬の鳴き声(擬音)だけの歌詞をひたすら綴った、一見ふざけているかのようなシンプルな楽曲。

 本来この楽曲は、メータルンバのメンバー同士が犬耳をつけてワチャワチャキャッキャした様を、ファンにかわいく見せるためだけに製作された「萌えソング」であった。


 だが、ある日を境に、この曲は変貌を遂げたんだ。


 そのある日以来、彼女たちの歌声は可愛さをかなぐり捨て、人の持つ原始的な本能を直接刺激する「咆哮」へと昇華された。

 オーディエンスもつられて叫び出し、会場全体が野生の獣の群れと化す、ある意味「儀式」に近い楽曲となったのだ。


 日頃のうっ憤を晴らすかのように本能をむき出しにして叫び続け、メンバー、バンド、観客それぞれが魂と魂をぶつかり合わせるパワフルソング。

 俺の血も騒ぐ! 今すぐ大空に向けてサイリウムを掲げ、叫びたいぜ!!


=========


~ 遠々々吠々々 裏ver.(フェスバージョン) ~

歌:メータルンバ


ワ”~ワ”~ワ”~ ワオォォォーーーン!!

(アルミルの喉から、可憐な少女のものとは思えない野太い咆哮が迸る。 それは歌というよりも、魂の叫び。広場の空気がビリビリと震える!)


ワオォーン! ワン ワン ワン ワオォーン!

ワ ワ ワ ワオォーン!

ワオォーン! ワン ワン ワン ワオォーン!

ワ ワ ワ ワオォーン!

ワオォォォーーーン!! ワオォォォーーーン!!

(その場の空気が一変する。暴れまわっていた聖獣の子が、ピタリと足を止めた。その瞳が、オブジェの上のアルミルに釘付けになる。圧倒的な音圧に気圧されているのだ!)


ワオォーン! ワン ワン ワン ワオォーン!

ワ ワ ワ ワオォーン!

ワオォーン! ワン ワン ワン ワオォーン!

ワ ワ ワ ワオォーン!

ワオォォォーーーン!! ワオォォォーーーン!!


(さあ、ここからが真骨頂だ! 俺は心の中でリズムを刻む。くるぞ、くるぞ、高速連打のセクションが!)


ワン ワン ワン ワン ワン ワン ワン ワン

ワン ワン ワン ワン ワン ワン ワン ワン

ワン ワン ワン ワン ワン ワン ワン ワン

ワン ワン ワン ワン ワン ワン ワン ワン


(息継ぎなしの超高速シャウト! アルミルの髪が乱れ、汗が飛び散る。その姿はまさに、群れを率いる孤高の狼!)


ワオオオオォォォォォォォーーーーーーーーン!!!!!!!

(腹の底に響く重低音のロングトーン。空気が爆ぜるような残響。思わず拳を握りしめる。これだ。これこそがメータルンバの真骨頂!)


=========


 ワ”~ ワ”~ ワ”~……。

 最後の余韻が消え、広場に静寂が戻った。


 はっ!

 歌が終わったのに、アルミルの世界観に溺れてしまっていた。危ない、戻ってこれなくなるところだった。

 俺はハッとして我に返り、周囲を見渡した。

 村人たちも、ポームも、そしてあのオリブさえも、ポカンと口を開けて石像の上のアルミルを見上げている。


 そして、肝心の「暴れん坊」は――。

 石像の下で、ちょこんとお座りをして、キラキラした目でアルミルを見つめていた。

 その尻尾は、ちぎれんばかりにブンブンと振られている。

 完全に魅了されている! 野生の本能レベルで「ボス」だと認識したのか?!


 そもそも、この楽曲がこれほどの破壊力を持つに至ったのには、ある有名な逸話がある。

 俺の脳裏に、あの日の光景が鮮やかに蘇る。


 そう、あれは『遠々々吠々々』をリリースしてから間もなくした頃に参加した、野外イベント『富士山2合目フェス』での出来事だった。

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