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最強魔王の推し活【裏】覇業  作者: 団田図


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第21話 納品

~ 皮職人ヒノキンの工房 ~


 工房の中は静かで作業をしている様子はない。


「こんにちは~!」


 工房の重い扉を開け、中へ入ったアルミルが元気よく声を張り上げる。しかし、誰も出てこない。

 店内には、様々な革で作られた鞄や靴、民芸品が所狭しと並べられている。どれも実用的でありながら、職人のこだわりを感じさせる丁寧な仕事ぶりだ。


「こんにちは~! お届け物ですよ~!」


 アルミルが先ほどよりもさらにトーンを上げて挨拶をする。

 すると、奥の作業場から、ドタドタと慌ただしい足音が近づいてきた。


「はいはいはい! 何だ! 誰だ! 今取り込んでっから! 手短に! 誰? 何? ん?」


 現れたのは、革のエプロンをつけた小柄な初老の男性。おそらくヒノキンさんだ。

 眉間に深い皺を寄せ、明らかにイライラしている。職人気質の頑固親父といった風貌だ。

 普通なら怯むところだが、我が推しアルミルは違った。

 スッと姿勢を正し、キラキラとしたオーラを纏う。


「はい! 元気が(モットー!)愛を(モットー!) どんなに苦境でもサビたりしない。歌と踊りで(サービスたっぷり!) 異世界アイドル・アルミルーーーですっ!」


 ビシッ! とポーズを決める。

 パチパチパチパチ!

 俺は条件反射で合いの手を入れ、盛大な拍手を送った。

 素晴らしい。相手が急いでいようが不機嫌だろうがお構いなし。自分が何者かと問われれば、100%の笑顔で丁寧な自己紹介をキメる。これぞアイドルの鑑、アルミルのプロ意識の高さよ!


「……てやんでぃ! 冷やかしなら帰んな! こっちとらぁ、めっぽう忙しくて、てんてこ舞いなんだよ!」


 ヒノキンさんが怒鳴る。ですよねー。


「す、すみません! ついクセで……。あの、これ、王都の定食屋プトルカンの女将さんから頼まれた、魚の皮の納品に来ました!」


 アルミルが慌てて風呂敷包みを差し出す。

 すると、ヒノキンさんの表情が一変した。


「おぅおぅおぅ! それを早く言えってんだぁ! パインちゃんとこの小使いか!

 こっちとらぁ、お前さんが持っているそれを、今か今かと待っていたんだよ! 話は後だ! 奥ぇ入りな! ぼさっとしてんじゃねぇ! はよしろぃ!」


 言うが早いか、ヒノキンさんは俺たちを強引に工房の奥へと招き入れた。

 通された先は、工房というよりは巨大な倉庫のような部屋だった。天井が高く、床一面に柔らかなわらが敷き詰められている。

 そしてその中央に――見覚えのあるプラチナシルバーの毛並みを持つ巨大な生き物が、苦しそうに横たわっていた。


「オリブ様! 魚の皮が届きましたぜ!」


 やはり! 聖獣オリブだ!

 この村の守り神と言っていたから、ここにいてもおかしくはないが、昨晩の威厳ある姿とは打って変わって、荒い息を吐き、脂汗を流して苦悶の表情を浮かべている。

 昨日の俺のパンチ(の風圧)は当たっていないはずだ。精神的ショックで寝込んだのか? いや、それにしては様子がおかしい。


「おう! おめぇさん方! しかしまぁとんでもねぇ日に来やがったな!」


 ヒノキンさんが魚皮の包みを解きながら叫ぶ。

 アルミルがキョトンとして聞き返した。


「とんでもない日、ですか?」


「あぁそうよ! この村の守り神様の『お産』が今から始まるんだよ!」


「お産!?」


 俺とアルミルは声を揃えて驚いた。

 そうか、やはり!

 昨日戦った時、オリブが必死に腹部を庇っていた理由。そして俺が攻撃を止めた直感は正しかったのだ。ご懐妊中だったとは。


「あぁそうよ! なんてったって100年に一度だからな! そう簡単に拝めるもんじゃねぇ! おめぇさん方もしっかりと目に焼き付けときな!」


 100年に一度の出産イベントに立ち会えるとは。俺の強運もここまできたか。

 すると、横たわっていた聖獣オリブが、俺たちに気づいて薄く目を開けた。


「客人よ……ゼェ……魚皮を持ってきてくれてご苦労であった……ゼェ、感謝するぞ……ゼェ」


 息も絶え絶えだが、その声には気品がある。

 言葉を話す大きな狼に、アルミルが目を輝かせた。


「わぁ! お話ができるんですか? すごいですね! それにこの村の守り神さんなんですか? かっこいいですね!」


「ああそうだ……ゼェ、我輩はこの村を守るために400年生きながらえておる……ゼェ、そうそう申し遅れた。我輩の名はオリブ……ゼェ。人は皆、『銀繊懐狼シルバーフレンドリーウルフの聖獣オリブ』と呼ぶ。そもそも、我輩がこの村に住み着き、聖獣となったいきさつを説明しよう……ゼェ。

 そうあれは400年前。当時は名もない一匹狼だった我輩は……ゼェ……」


 おい! まずい!

 こんな緊急事態だというのに、またあの長い自分語りを始めようとしている!

 しかも苦しそうに! 今は体力を温存すべき時だろうが!


 仕方ない…。


「あっ、知ってます!大司教様に祝福を受けて聖獣となったですよね~。噂で聞きました。かっこいいですよね~。村人と聖獣の絆っていうんですか?いいですよね~」


「……む。そうか、知っておるか……ゼェ。話が早くて助かる……」


 オリブは少し残念そうだったが、安堵したように息をついた。

 ヒノキンさんが誇らしげに鼻をこする。


「おぅそうよ! オリブ様はなぁ、おいら達と固てぇ絆で結ばれているんだ! それに、めっぽう腕っぷしが強えぇってんで、魔人の一人や二人はちょちょいのちょいだ!

 昨晩なんて復活した『大魔王』とかいうのがこの村を襲いに来たんだが、オリブ様が退けてくれたんだ! オリブ様にかかれば大魔王も大したことねぇんだわ。はっはっはっ!」


 ギクリ。

 俺の背中に冷たい汗が流れる。

 大したことなくてすみません。退けられてすみません。

 横にいたポームから、絶対零度の視線が突き刺さるのを感じるが、俺は全力で気づかないふりをした。


「そ、そういえばヒノキンさん! 俺たちが持ってきた魚皮は何に使うんですか? 革製品の材料ですか?」


 俺は必死に話題を逸らした。

 ヒノキンさんは広げた魚皮を手に取り、真剣な眼差しで答えた。


「おぅ! そいつぁ、おいらから説明しよう。

 聖獣であられるオリブ様は100年周期でお子を宿すんだわ。ただ、産まれたお子はすぐに自我を持って、そのまま反抗期へ入って手が付けられなくなるらしいんだわ」


「産まれてすぐに反抗期!?」


「ああ。オリブ様も、産後すぐは体力もなく、そのお子の暴走を抑え込めるだけの力は無いそうな。

 そこで、おめぇさん方が持ってきてくれた巨大魚、極巨胴旨鮫キングデリシャークの皮を『おくるみ』として使うんだ」


 ヒノキンさんはザラザラとした鮫肌を撫でた。


「こいつの皮は、固い鱗で覆わたサメ肌でな、それにくるまれると、どんなに暴れる聖獣でも身動きが取れなくなるんだ。

 さらに、皮の内側にある豊富なコラーゲンが体を冷やして冷静にさせ、落ち着かせる効果があるんだそうだ」


 なるほど、物理的な拘束具兼、冷却シートみたいなものか。

 聖獣の子育て、ハードすぎるだろ。


「お子を包んで十日十晩、食事を与えずにただじっと見守るそうだ。

 その後、おくるみを剥がし、晴れて自由の身となるお子は、静かになり落ち着きさえしているが、すでに力は親と同等なほどに成長するんだそうだ」


「たった十日で親と同じ強さに……? さすが聖獣ですね」


「こっからがもっとも厄介なんだがな」


 ヒノキンさんの顔が少し曇る。


「親子共に強烈な縄張り意識があって、ひとっところに共存できねぇときたもんだ。

 力はあっても戦闘経験の浅いお子は親に勝ち目がねぇから、そのまま親の元を離れて、旅に出るんだとよ」


 ……なんと。

 俺がいた世界の狼といえば、群れを作り、家族愛が強く、縄張りは親子で共有しているものだという認識であったが、こちらの聖獣は違うらしい。

 産まれてすぐにおくるみで拘束され、十日後には親元を離れて独り立ち。

 あまりに孤独で、厳しい世界だ。


「親と子が一緒に居れねぇってのは寂しい気がするけどよ、そういう習性なら仕方ねぇわな。どうだぃ? 理解できたか?」


「はい……。なんだか、切ないですね」


 アルミルが悲しげに眉を下げる。

 その時だった。


「ぬぉー!! ぬぁーー!! うっ……産まれるーー!! 後は頼んだぞヒノキーン!!」


 オリブがのけ反り、絶叫を上げた。

 凄まじい魔力の波が部屋中に広がる。


「がってん承知の助よぉー!!」


 ヒノキンさんが魚皮を持って駆け寄る。

 いよいよだ。聖獣の出産が始まる。

 俺たちは固唾を飲んで、その神聖なる瞬間に立ち会うことになった。

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