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最強魔王の推し活【裏】覇業  作者: 団田図


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第12話 農夫 ♪林道レイン

~王都ファクトリオス周辺・街道~


 装備を整えた俺たち3人は、レベルアップのための狩りを行うべく街を出た。

 石造りの城壁を背に、どこまでも続く乾いた街道を歩く。


 ふと、新しい短剣『シャンフー』を腰に差したアルミルが、歩調を合わせて話しかけてきた。


「そういえば、ねぇシュラさん。ポームちゃんに声をかけなくてよかったんですか? 一緒に行きたいって言っていたのに」


 純粋な瞳が俺を射抜く。

 確かにポームは俺の護衛を強く望んでいた。だが、あいつがいると「兄上」だの「大魔王様」だのボロが出そうで気が気じゃないのだ。


「いいのいいの。あいつを連れてきても、過保護すぎて小言がうるさいだけだしね。それに……」


 俺は商人の笑顔で力説した。


「いざとなったら、《《街の外》》なら、俺でもアルミルさんを守れるから」


「え? 《《街の外》》なら? どういう意味ですか?」


 アルミルが首を傾げる。

 しまった! ついうっかり口が滑ってしまった!

 「街の外(結界の外)なら、俺は大魔王本来の力が使えるから無敵だ」という意味だったのだが、ただの商人が言うセリフじゃない。


「あ、あの、その! ふ、深い意味はないよ! ほら、街の中だと衛兵とかいて派手な道具は使いにくいけど、外なら俺の道具袋に入っている『魔物の気を引いて逃げるための便利アイテム』を遠慮なく使えるからさ! ははは!」


 苦しい言い訳だ。冷や汗が流れる。

 俺は話題を逸らすべく、前を歩く貴婦人(自称・冒険者)に声をかけた。


「と、ところでアスナさん。目的地はまだですか?」


 アスナさんは優雅に扇子で前方を指し示した。


「うむ。目的の『黒影の森』は、あちらの方向へもう少し行ったところだ。あそこなら弱い魔物しか出ないから、そなたらのような初心者には安心して狩りができるぞ」


 どうやらアスナさんは、この辺りの地理に相当詳しいようだ。

 舗装された街道から外れ、土埃の舞う農道へと入っていく。


 しばらく歩いていると、道の脇で畑仕事をしていた農夫が、くわの手を休めてこちらを見た。

 そして、アスナさんの顔を見るなり、驚いたように目を見開いた。


「ん? おや……? あんた! どこかで見た顔だな……もしや」


 農夫が指をさす。

 アスナさんの肩がビクッと跳ねた。


「えっ? あっ、ひっ、人違いだろう! わ、わらわはただの冒険者だ。どこにでもよくある顔だ、気にするな!」


 明らかに狼狽うろたえている。扇子で顔を隠す手つきが高速だ。

 やはりこの人、ただの貴族じゃなくて、もっと「顔が知られている」立場の人なんじゃないか?


 そんな不審な空気などお構いなしに、アルミルが農夫に近づいて話しかけた。


「おじさん、こんにちは! ……あれ? 作物が枯れちゃってますけど、お水はあげないんですか?」


 アルミルの視線の先には、葉が茶色く変色し、萎れた野菜たちが広がっていた。


 農夫は深いため息をついた。


「掛けるも何も……こう何日も雨が降らねぇと、井戸がカラッカラなんだわさ」


 言われて改めて周囲を見渡すと、事態は深刻だった。

 草木は枯れ、畑の土には地割れのようなヒビが入るほど乾燥している。街の中は水路が整備されていて気づかなかったが、一歩外に出ると、ここのところ続いているという大干ばつの爪痕がくっきりと残っていた。


「参ったもんだよ。昔はよぉ、こんな時はよぉ、伝説の『天響詠喚師てんきょうえいかんし』様が来てくれて、『雨乞いの歌』ですぐに雨を降らせてくれたもんだったよ」


「テンキョウ……エイカンシ様?」


 聞いたことのない言葉に、アルミルがコテンと首を傾げる。

 すると、農夫から顔を背け続けていたアスナさんが、ボソリと解説を始めた。


「……天響詠喚師というのは、高レベル冒険者がいくつもの魔法スキルと歌唱スキルを極めて、ようやくたどり着ける伝説の特級職業ハイクラスジョブよ」


「へぇー! 歌うお仕事なんですか?」


「ええ。中でも『雨乞いの歌』は、水の精霊に加護を受けたごくわずかな天響詠喚師だけが使える秘儀。自然の中に流れる『気』の流れを読み取り、歌声の共鳴で大気を振動させ、雨雲を強制的に作り出して雨を降らせる超高難度スキルなの」


 アスナさんの説明に熱がこもる。やはり博識だ。


「ただし、それを行うには代々受け継がれる『特別な装飾品』を身に纏う必要があると言われているわ。最後の目撃談は70年前……私も王宮の……ゴホン、古い文献でしか知らないわ」


 農夫が頷いた。


「んだ。オラぁ子供のころに、一度だけ見たことあるだよ。不思議な色をした首輪っかを付けた女の人がよぉ、それはそれは奇麗な歌声でよぉ。歌詞は覚えてねぇけど、とにかく悲しい、胸が張り裂けそうな歌だっだよ。きっと、お天道様を泣かせれば雨が降るんだべよ」


「悲しい歌……そう、なんだ」


 アルミルが呟き、乾いた大地と、枯れかけた作物をじっと見つめる。

 彼女の中で、何かのスイッチが入ったのが分かった。

 アイドルとして、困っている人を見過ごせない。そして「歌」で解決できるかもしれないなら、挑戦せずにはいられない。それがアルミルだ。


 アルミルがおもむろに畑の前に立ち、胸の前で両手を組んだ。

 スッと息を吸い込み、うつむく。


 くるぞ。

 俺は全神経を集中させた。

 「悲しい歌」で「雨」に関連する曲。

 『メータルンバ』の楽曲データベースが俺の脳内で高速検索される。

 まさか、あの曲か?


♪林道レイン 滅入る 誰もかれも♪


 ――ッ!!

 全身に電流が走った。

 こ、この歌は!

 とある理由からライブでの歌唱を封印された、メータルンバ伝説のバラード曲!


 『林道レイン』だ!


 歌詞の暗さ、メロディの重厚さ、そして何よりその歌唱法により、「聴く者の精神を揺さぶりすぎる」としてセットリストから外された幻の曲。

 落ち込んだ時、心細く辛い「今」を乗り越えた先には、必ず希望や夢があることを教えてくれる応援歌。

 今の俺たちの状況に、これほどぴったりな曲はない!

 ああ、サイリウムをゆっくりと左右に振りたいぜ……!


 そして何よりもこの歌の真骨頂は、歌詞全ての「ラ行」を、凶悪なまでの「巻き舌」で歌うところにあるんだ!


「♪林道ゥルレイン ゥルルゥ暗く 凍えてゥルゥ」


 きたぁぁぁぁ!!

 アルミルの巻き舌ァァァ!!


 彼女の可憐な見た目からは想像もつかない、ドスの効いた低音ボイス。

 アルミルの歌唱力はメンバーの中でも群を抜いて上手い。その理由は、前世で演歌歌手だった祖父から、幼いころより徹底的な指導(コブシの回し方、ビブラート、巻き舌)を受けていたからだ。

 その甲斐あってか、この曲ではヤクザ映画の親分も裸足で逃げ出すほどの、恐怖すら感じる巻き舌が炸裂する。


「♪ペコゥル メンタル ワレが 蹴ったゥル!」

「♪いずれ 晴れ 陽が出づゥル!」


 すごい。空気が震えている。

 物理的にビリビリきている。


「♪林道ゥルレイン 転ぶ 詰まるかったゥル!」

「♪林道ゥルレイン がれき ブロックされゥル!」


 かつてライブでこの曲が披露された時、ファンが大合唱した結果、数千人の巻き舌の共鳴で会場の酸素が薄くなり、脳への刺激が強すぎて脳震盪のうしんとうを起こす者が続出したという伝説がある。

 それ以来封印された禁断の歌を、まさか異世界の畑のど真ん中で聴けるとは!

 俺は感動で涙が止まらない。


「♪てんぱゥル 漏れゥル 弱音吐露ゥル!」

「♪おんどりゃ いずれ ブレイクすゥル!」


 すごい迫力だ。農夫のおじさんが白目をむきかけている。アスナさんも扇子を取り落としそうだ。

 だが待てよ?

 なんだか、肌にまとわりつく湿度が上がってきているような……?

 まさか。

 本当に雨が降るのか?

 アルミルの歌声が、大気を振動させ、自然の摂理すらねじ曲げようとしているのか?!


「♪林道ゥルレイン……林道ゥルレイン……」


 アルミルが最後のフレーズを歌い上げ、天に祈るように両手を広げた。


「♪Weら ALLに ヒカリ あれぇぇぇぇぇ……」


 余韻が響き渡る。

 静寂。

 俺たちは固唾を飲んで空を見上げた。


 ……。

 …………。


 雲一つない、突き抜けるような青空が広がっていた。

 太陽がジリジリと照りつけている。


「……てんでダメでした。えへっ」


 アルミルがペロリと舌を出して、おどけてみせた。

 かわいい。反則級のかわいさだ。

 雨は一滴も降らなかったが、俺の心の渇きは完全に潤された。


「……ふぅ。聞きなれないメロディーと、独特すぎる発音だったが……」


 アスナさんが気を取り直したように扇子を拾い上げた。


「雨こそ降らなかったが、ソチの歌声には確かに『力』があるように感じたぞ。空気が変わった。わらわは……嫌いではないぞ」


「うんだな。あんた、大したもんだ。オラぁ胸にジンときて、ちびりそうになっただよ。何モンだ? あんた」


 農夫よ、よくぞ聞いてくれた!

 その質問を待っていた!

 俺はすかさずアルミルに目配せをする。

 アルミルがスッと姿勢を正し、農道の真ん中をステージに変えた。


「はい! 元気が(モットー!)愛を(モットー!)」


 俺の合いの手が炸裂する。完璧なタイミングだ!


「どんなに苦境でもサビたりしない。歌と踊りで(サービスたっぷり!)」


 ビシッ!

 アルミルがポーズを決める。


「異世界アイドル・アルミルーーーですっ!」


 パチパチパチパチ!


 俺は渾身の拍手を送った。

 よし! 今回はバッチリ決まった。ファンとの共同作業、これぞライブの醍醐味。

 農夫もアスナさんも、圧倒されながらも拍手をしてくれている。

 これでアルミルのファンが2名追加されたことは間違いない。あの『林道レイン』を聴いてファンにならない人間などいないのだから。


「近々、そこの定食屋プトルカンでライブしますから、農夫さんもぜひ来てくださいね」


 ニコッ、と微笑みながら、アルミルは農夫の泥まみれの手を両手で包み込んだ。


「えっ、あ、オラの手は泥だらけで……」


「働き者の素敵な手です。絶対に来てくださいね!」


 泥を厭わず、真っ直ぐに相手の目を見て握手をする。

 なんて健気なんだ。これが「神対応」。これがアルミルのアイドル魂だ。

 農夫の顔が赤く染まっている。チョロいぜ、おっさん。お前も今日から「熱処理班」の仲間入りだ。


 俺たちは新たなファンを獲得し、再び黒影の森へと歩き出した。

 空は晴天のままだが、俺たちの足取りは雨上がりのように軽やかだった。


=========


~林道レイン~

歌:メータルンバ


林道レイン 滅入る 誰もかれも

林道レイン 暗く 凍えてる


ペコる メンタル ワレが 蹴ったる

いずれ 晴れ 陽が出づる


林道レイン 転ぶ 詰まるかったる

林道レイン がれき ブロックされる 


てんぱる 漏れる 弱音吐露る

おんどりゃ いずれ ブレイクする


林道レイン

林道レイン


Weら ALLに ヒカリ あれ


=========


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