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最強魔王の推し活【裏】覇業  作者: 団田図


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第11話 自己紹介

~王都ファクトリオス・武器防具屋~


 ガシャンッ。

 金属音が店内に響いた。


「あいたっ!」


 商品に夢中になるあまり、アルミルが背後にいた客とぶつかってしまったのだ。

 俺は反射的に駆け寄ろうとしたが、それより早く、ぶつかられた相手が声をかけていた。


「……む。こちらこそ失礼つかまつった」


 凛とした声の主は、タイトな衣装に身を包んだ、背の高い美しい女性だった。

 ただの町娘ではない。立ち振る舞いから滲み出る気品。おそらく高貴な身分、貴族のお方だろう。

 彼女は優雅に扇子を閉じると、心配そうにアルミルを見下ろした。


「わらわも少々、考え事をしていて余所見をしていたものでな。……そなた、怪我は無いか?」


「は、はい。私、武器とか買うの初めてで、色々見ていたら周りが見えなくなってしまって……ごめんなさい」


 アルミルがペコペコと頭を下げる。

 女性客は、アルミルの手にあるものを見て、ふと眉をひそめた。


「そうだったのだな。大事無いようでよかった。……えっと、一言良いか? 今、そちが手に持っているその魔法の杖だが」


「はい! これ、マイクみたいでかわいいですよね!」


「いや、それは……音や視覚効果が派手に出るだけで、攻撃魔法の威力はほぼ無い、子供用のおもちゃの杖だぞ。縁日などで売られている類のな」


「えっ? そ、そうなのですか!?」


 アルミルが鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。


「私、今からレベルアップのために街の北側にある『黒影の森』へ狩りに行こうとしていまして……ちゃんと戦える装備品を買おうとしていたのです」


「黒影の森か。初心者の狩り場とはいえ、魔物が出る場所だ。おもちゃでは命を落とすぞ」


 女性客は呆れたように首を振ると、通路に置かれた傘立てのような木箱から、一本の細長い武器を抜き取ってアルミルに差し出した。


「だったら、この竹槍なんかどうだ? 安いし、軽いし、リーチもあるから初心者には扱いやすいぞ」


 ズイッ、と突き出された無骨な竹槍。

 アルミルはそれを受け取ろうともせず、困ったように眉を下げた。


「それはちょっと……かわいくないですね~」


「は?」


 女性客の動きが止まる。


「かわいくない?」


「はい。なんかこう、地味というか、質素というか……」


「……かわいい? 『かわいい』というのは、幼い子供や小動物を愛でる時に使う言葉ではないのか? 武器にそれを求める意味がわからぬ」


 女性客が本気で理解できないという顔をしている。

 無理もない。この世界に「Kawaii」という概念はおそらく浸透していない。機能美や実用性が全てだ。

 だが、アルミルは屈しない。


「確かに、そこから始まった言葉かもしれませんが、今はもっと広い意味なんですよ! 何となくわかりませんか? こう、キラキラーとか、フワフワーとか。持ってるだけでテンションが上がる、そんな感じのものですよ!」


 アルミルが身振り手振りで「かわいい」を力説する。


「そ、そうか……? まだわからぬが、なんとなく熱意は伝わった……」


 戸惑いつつも、気圧されて頷く女性客。

 ふっ、甘いな。

 アルミルには、常人には理解しがたい独自のセンスが備わっているのだ。


 俺は脳内で深く頷いた。

 前世のアイドルグループ『メータルンバ』の奇抜なステージ衣装や、幾何学的な振り付けは、実はアルミルが主導して作り上げてきたものだ。

 最初は「なんだこれ?」と困惑するが、見れば見るほど癖になる。噛めば噛むほど味が変わるグミのように、俺を含め多くのファンがその中毒性にやられ、虜になったのだ。

 この女性客は今まさに、その「アルミル・ワールド」の片鱗に触れようとしている。


 すると、店内を物色していたアルミルが、背伸びをして棚の高いところに飾られていた一振りの短剣を指さした。


「あっ! これ! これなんかすごくかわいいです!」


 店員に頼んで取ってもらったその短剣を、アルミルは嬉しそうに胸に抱いた。


「見てください! 短くて手に馴染む感じで、グリップのところにハートのマークもついてますよ。ほらっ、かわいいー!」


 アルミルがニコッと満面の笑みを向ける。

 ああ、尊い。武器より君がかわいいよ。

 だが、横から覗き込んだ女性客の顔色がサッと変わった。


「ん? ……キラキラでもフワフワでもないが、これも『かわいい』なのか? まあよい。だが娘よ、目が高いな」


 女性客の声のトーンが落ちる。


「それは伝説の鍛冶屋サークラクが、晩年に孫娘のために鍛えし至極の一点物。『懐剣かいけんシャンフー』だ」


「懐剣シャンフー?」


「うむ。ミスリル銀を幾重にも鍛え上げ、破邪の加護が施された秘宝クラスの業物だぞ。初心者でも扱えないことはないが、武器が持つポテンシャルを引き出すには相当な鍛錬が必要だろう。……何より」


 彼女は値札を扇子で指し示した。


「一般人が手を出せるような価格ではなかろうに」


 俺は値札を見た。

 そこには『300,000ゴールド』と書かれている。


 30万ゴールド……!

 俺の脳内計算機が高速回転を始める。

 昨日の定食屋プトルカンで食べた「日替わり定食」が一食5ゴールドだった。

 日本円換算で定食を500円と仮定すると、1ゴールド=100円。

 つまり、30万ゴールドは……3000万円!?


 さんぜんまんえん!!

 家が買える! 高級車なら数台買える!

 レベル1の初心者に持たせる武器の値段じゃねぇ!


 だが――。

 俺は懐を探った。

 ビニルが「路銀」として渡してくれた革袋には、確か100万ゴールド入っていたはずだ。

 100万ゴールド=1億円。


 ……買える。

 余裕で買える。

 さすが大魔王。お小遣いの桁がバグっている。ビニルよ、お前は国家予算でも持ち出したのか。


「うぅ……お高いのですね。やっぱり、かわいいものはお値段もかわいくないんですね」


 アルミルがしょんぼりと肩を落とし、短剣を棚に戻そうとしている。

 その悲しげな横顔を見た瞬間、俺の迷いは消し飛んだ。

 3000万? それがどうした。

 推しの笑顔が曇るくらいなら、金など紙切れ同然だ!

 全ては推しのために! 推し活とは、見返りを求めず愛(と金)を注ぐことなり!


「アルミルさーん。オッケーでーす」


 俺は軽い口調で声をかけた。


「それ、買っちゃいましょう。包んでもらってください」


「えっ?!」


 アルミルが目を丸くする。

 それ以上に驚いたのは、隣にいた女性客だ。


「か、買うだと?! 正気か?! 豪華な屋敷を一軒買えるほどの金額を、迷いもなく即決だと?!」


 彼女は俺とアルミルを交互に見比べる。


「そなたら、何者だ? ただの旅人ではあるまい?」


 鋭い眼光。

 まずい、怪しまれた。大魔王の資金力がアダになったか。

 俺は商人の営業スマイルを貼り付け、必死に取り繕った。


「お、俺はただの行商人、シュラといいます。ちょ、ちょうどさっき、とてつもなく大きな商談が決まったところでして! 懐が温かったもので、つい気が大きくなってしまいまして、はい! 友人への先行投資です!」


 冷や汗が背中を伝う。

 この女性客、勘がいい。

 なんとか誤魔化せたか……?


 俺が様子を窺っていると、おや?

 アルミルがスッと姿勢を正し、先ほどまでの「しょんぼり」を消し去って、満面のアイドルスマイルを作っているではないか。

 スイッチが入った!


「はいっ! ありがとうございますシュラさん! では改めまして自己紹介させていただきます!」


 アルミルが店の中央で、可憐なポーズを決めた。


「元気がモットー、愛をモットー! どんなに苦境でもサビたりしない! 歌と踊りでサービスたっぷり! 異世界アイドル・アルミルーーーですっ!」


 ビシッ!

 最後にウインクを決める。


 ……パチパチパチパチ!


 俺の手が勝手に拍手をしていた。

 か、かわいい……!

 さすがアルミル。自己紹介キャッチフレーズを、すでに「異世界バージョン」で仕上げてきた!

 「サビたりしない」というフレーズに、のど飴のCMに出ていた頃の小ネタを挟んでくるとは、なんて芸が細かいんだ。

 思わず感動で涙が出そうになる。

 合いの手は”モットー”と”サービスたっぷり”のところで入れるのが正解だな。こういうのはファンとの阿吽の呼吸、共同作業なんだ。次からは完璧に合わせてみせる。


 一方、女性客はポカンと口を開けていた。


「あ、あいどる……? そ、そうか。ずいぶん長い名前のようだが……アルミルでいいのか?」


「はい! アルミルです! お姉さんのお名前は?」


 屈託のない笑顔を向けられ、女性客は少し赤面しながら、咳払いをした。


「……まあよい。ワラワは……ただの冒険者、アスナと申す。よろしく頼む」


 目を逸らし、長い髪をかき上げながら自己紹介するアスナさん。

 「ワラワ」と言いかけて、慌てて咳払いをするあたり、何かを隠しているのは明白だ。

 「ただの冒険者」ねぇ。その衣装、どう見てもオーダーメイドの高級品ですが。

 まあいい。詮索は野暮というものだ。通りすがりのお客さんだし、挨拶もそこそこに、おいとましよう。


 俺がそう思った矢先、コミュ力お化けのアルミルが爆弾を投下した。


「えー! アスナさんって、冒険者さんなんですね! すごーい!」


「う、うむ。まあな」


「だったら、魔物の倒し方とか、いっぱい知ってたりしますよね? あの、もしお時間あったら……一緒にどうです? 一狩ひとかり!」


 軽い! ランチに誘うノリで狩りに誘った!


「い、一緒にか? ワラワとか?」


「はい! だって、シュラさんは商人さんだし、私はド素人の初心者だしで、森に行くのめっちゃ不安だったんですよ~! 経験者さんがいてくれたら百人力です!」


 頼りがいのない商人でごめんよアルミル。

 でも安心してくれ。いざとなったら、この国ごと消し炭にできる大魔王の本性を出してでも、全力で君を守るから。


 アスナさんは少し困惑した様子だったが、アルミルの期待に満ちたキラキラお目々攻撃を受け、ため息交じりに扇子を閉じた。


「……ふぅ。まあ、少しの時間ならいいが。ただし、ワラワは魔法使い故、剣術の指南はできぬぞ?」


「魔法使い! かっこいい! 全然オッケーです! ありがとうございます!」


 なんと。アスナさんがパーティに加わった!

 ……ってか、せっかくのアルミルとの二人きりのデート(仮)時間は、ここまでか。

 少し残念だが、仕方ない。アルミルは「みんなのアイドル」だ。俺一人が独占していいわけがない。

 それに、魔法使いの護衛が増えるのは安全面でもありがたい。


「じゃあ、あとは防具ですね! 私、さっきかわいいの見つけてたんです!」


 そうこうしているうちに、アルミルは防具選びも終え、試着室から出てきた。


「じゃーん! 防具もかわいさ重視で選んでみました! えへっ」


 カーテンが開いた瞬間、俺は鼻血が出そうになるのを必死でこらえた。


 白い革をベースに、ピンクのリボンがあしらわれた軽装鎧。

 動きやすさを重視したのか、スカート丈は短く、太ももが眩しい。

 防御力? 知らん。

 だが、実にかわいらしい。このままステージに立ってライブをしても違和感のない、まさに「戦うアイドル」の正装だ。


「ど、どうですか、シュラさん?」


「……最高です。よく似合ってます」


「よかったぁ。アスナさんはどう思います?」


「……露出が多くないか? 防御の観点からは不安が残るが……まあ、そなたには妙に似合っておるな」


 アスナさんも呆れつつも認めてくれたようだ。


 会計を済ませる。

 短剣30万G、防具一式5万G。しめて35万ゴールド(約3500万円)。

 店主の手が震えていたが、俺は涼しい顔で支払った。

 安いもんだ。推しの安全と、このビジュアルが手に入るなら。


「よし! 装備もバッチリ! 行きましょう、黒影の森へ!」


 新しい短剣『シャンフー』を腰に差したアルミルが、意気揚々と店のドアを開ける。

 俺たちは奇妙な三人組パーティを結成し、初心者レベルアップの聖地へと足を踏み出すのだった。

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