表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫の恋路を応援したい契約妻は騎士団長の溺愛に気づかない  作者: 月雅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第10話 誓いの夜と尊い未来


割れんばかりの拍手が、石造りの玄関ホールを震わせていた。


「おかえりなさいませ、奥様! 団長!」


レオン君をはじめとする騎士たち、そして使用人たちが一列に並び、満面の笑みで迎えてくれる。

その温かさに、私はクラウス様の腕の中で小さくなった。

恥ずかしさと、それ以上の嬉しさで胸がいっぱいだ。


「……騒がしいぞ、お前たち」


クラウス様が苦笑しながらも、その表情はかつてないほど柔らかい。

彼は私の肩をしっかりと抱き寄せ、皆に向かって宣言した。


「紹介するまでもないが。……俺の最愛の妻、リリアナだ。これからは契約ではなく、オルステッド家の女主人として敬うように」


「ヒュー! 団長、熱い!」

「ご馳走様です!」


冷やかしの声が飛ぶ中、アイザック様が優雅に進み出てきた。


「やれやれ。やっと素直になれたみたいだね。おかげで僕も、これでお邪魔虫を卒業できるよ」

「うるさい。……だが、礼は言う」


クラウス様が短く告げると、アイザック様は満足げに微笑み、私にウインクをした。


「お幸せに、リリアナ。君がこの屋敷に来てくれて、本当に良かった」


その言葉に、私は深く頷いた。

ここが私の帰る場所。

もう、迷うことはない。


          ◇


その夜。

私はこれまで使っていた客室ではなく、主寝室の大きなベッドに座っていた。


心臓の音がうるさい。

お風呂上がりの体が火照っている。

これから行われるのは、契約上の「形式」ではない。

本当の意味での「初夜」だ。


(落ち着くのよ、リリアナ。貴女には膨大な知識があるじゃない)


私は自分に言い聞かせた。

長年読み漁ってきた小説の数々。

そこにはあらゆる愛の営みが描かれていたはずだ。

シミュレーションは完璧。

どんな展開が来ても、淑女として優雅に対応してみせる。


ガチャリ。

扉が開き、クラウス様が入ってきた。

湯上がりの髪が少し濡れ、緩いシャツの胸元から覗く鎖骨が色っぽい。

その姿を見た瞬間、私の理論武装は半分崩壊した。


「……待たせたな」


彼がベッドに腰を下ろす。

沈み込むマットの感触。

近い。

石鹸の香りと、彼特有の男らしい匂いが鼻をくすぐる。


「リリアナ」


名前を呼ばれ、顎をすくい上げられる。

灰色の瞳が、溶けるほど甘く私を見つめていた。

そこには、いつもの鋭い光はない。

ただひたすらに、愛おしさを訴える熱だけがある。


「俺は、君を愛している。……もう、離さない」


唇が重なる。

優しい、けれど逃げ場のない口づけ。


「ん……っ」


私の脳内データベースなど、何の役にも立たなかった。

本物の愛撫は、文字で読むより遥かに甘く、そして激しい。

無骨なはずの手が、壊れ物を扱うように私に触れるたび、思考が白く染まっていく。


「だ、旦那様……クラウス、様……」

「名前で呼んでくれ。……もっと」


彼は私の耳元で囁き、首筋にキスを落とした。

私はもう、彼の背中にしがみつくことしかできない。

推しを愛でる余裕なんてどこへやら。

完全に「愛される妻」として、彼に翻弄され、そして満たされていった。


「白い結婚」は、甘くとろけるような「極彩色の夜」へと塗り替えられたのだった。


          ◇


それから、数年の月日が流れた。


「パパ! たかいたかーい!」


庭に、元気な子供の声が響く。

クラウス様が、黒髪の男の子を軽々と抱き上げ、空高く持ち上げた。

右頬の古傷も気にせず、彼は目尻を下げて破顔している。


「よし、アレン。次は肩車だ」

「わーい! ぼく、パパよりおおきいぞ!」


その足元では、少し年老いた茶トラ猫が、日向ぼっこをしながら欠伸をしている。


私はサンルームで紅茶を飲みながら、その光景を眺めていた。

幸せな午後だ。

平和すぎて、涙が出そうになるくらい。


「相変わらず、彼は親バカだね」


向かいの席で、アイザック様がクスクスと笑った。

彼もまた、変わらず我が家の良き友人として、頻繁に遊びに来てくれている。


「ふふ。アイザック様がいらっしゃると、アレンも喜びますわ。……それに、クラウス様も」

「おや、まだその視点は健在かい?」


アイザック様が楽しげに私を見る。

私は口元を扇子で隠し、秘密めいた笑みを返した。


「もちろんです。私の『推し活』は生涯現役ですから」


もちろん、今は最愛の夫として彼を愛している。

けれど、ふとした瞬間に見せるクラウス様とアイザック様の信頼関係や、部下たちとの絆を見ると、やっぱり「尊い!」と心が踊ってしまうのは、不治の病のようなものだ。


庭では、クラウス様がアレンを下ろし、こちらに手を振った。

その笑顔は、かつての「氷の公爵」の面影など微塵もない。

愛を知り、守るものを得た、一人の幸せな男の顔だ。


「リリアナ! アイザック! 茶ばかり飲んでないで、こっちへ来ないか!」


夫が呼んでいる。

私の、世界で一番かっこよくて可愛い、最高の推しが。


「はい、今行きます!」


私はカップを置き、ドレスの裾を翻して庭へと駆け出した。

春の風が、私の赤い髪を揺らす。


愛されない妻?

契約結婚?

そんな言葉は、もう遠い過去の物語。


今の私は、愛する夫と家族、そして尊い萌えに囲まれた、世界一幸せな「推し活妻」なのだから。


(完)


最後までお読みいただきありがとうございます!


↓の★★★★★を押していただけると

すごく励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ