害獣
モウー大陸
中央山岳地帯トルーガイナー山脈、トロール共同体
首都トルーガエラ市
グール侵攻より70年前
生まれたトロールは特異個体だった。
黒い髪、灰色の肌、大きな口以外、この世界の人間に近い外見をしていた。
生まれたての赤ん坊の母の祖先には間違いなく、人間がいたのは疑いの仕様がない。
「これは呪いの子じゃ!!」
赤ん坊を取り上げたトロールの産婆が悲鳴を上げた。
「すぐに長を呼んでくれ!!これは我が種族にとって不吉じゃ!!」
彼女の助手が部屋を出た。
数分後、長であるケオンとともに部屋に入ってきた。
「どういうこと?説明しろ、レン・イ・ナン婆!!」
長が怒鳴ってきた。
「呪いの子じゃ!!呪いの子じゃ!!人間の血が流れている呪いの子じゃ!!」
長が生まれたばかりのわが子を見た。
「落ち着け・・・」
「不吉じゃ、不吉じゃ!!・・・我が種族の破滅を招く呪いの子じゃ!!」
「リンよ・・・お前の祖先に人間がいたのか?」
汗だくの体でベッドに寝ていた長の側室のリン・ガ・ヤンが俯いた。
「はい・・・3世代前に人間の女がいた・・・」
側室が正直に申告した。
「母子とも、殺すべきじゃ!!殺すべきじゃ!!」
産婆が叫んだ。
長にはそれが百も承知だった。
トロールは人間を襲うが、それは本能のためであり、
恨みや残虐性によるものではない。
トロールと人間の混血には本能以外、高い知性と残虐性を持って生まれた個体がその残虐性を満たすため、無差別に同胞や他の種族を襲うのは知られている。
ケオンはそれを知っていた。殺さねばならないことも分かっていたが、
彼は側室を深く愛していた。
「レン・イ・ナン婆・・・落ち着け・・・」
「殺すべきじゃ!!殺すべきじゃ!!」
「燃えろ・・・」
恐怖で叫ぶ産婆の頭を片手でつかんだ後、マジックアイテムである指輪を使って、
産婆を一瞬で燃やした。灰も残さなかった。
産婆の助手が恐怖で固まったので彼女も一瞬で燃やされた。
「リンよ・・・お前は育てろ」
「分かりました・・我が主」
ケオンは別の指輪を外して、側室に渡した。
「幻影の魔法が使える指輪だ・・・この子の体に埋め込め・・・そうすればトロールらしい姿に変えてくれる・・・特異個体には見えるが、人間との混血は隠せるぞ・・・頼んだぞ」
「はい・・・分かりました」
「お前たちはオーガ王国に近い辺境の町、トロベリアへ行け・・・時折確認しに行く」
「はい」
「朝になる前に出発しろ、いいな?!」
「はい、我が主」
ケオンは部屋を出た。部屋の前に警備していたトロールを燃やした音が聞こえてきた。
第一側室のリン・ガ・ヤンが痛む体に鞭を打ち、泣きわめくわが子に指輪を埋め込んだ後、首都から逃げた。
滅亡した旧バネゾラ王国
モレカイポ湖沿い
世界最大魔石採掘場近辺。
最前線・連合軍モレカイポ基地
司令塔内
鮮血姫の到着より3日前
自動運転の共同体の飛行船が到着した。
下りてきたのはたった一人の特異個体のトロールだった。
彼はこの世界で最も有名な大量殺戮者であると同時、全ての国や地域で指名手配されていた。
基地の二人の司令官以外、50人の混合部隊が待機していた。
その若い特異個体のトロールは特別な行動制御首輪をしていたが、部隊の隊員の顔がこわばっていた。
「長から聞いたと思うが、貴様はこれから帰還のない任務に就く」
魔族の女性副司令官が憎しみを滲み出ている目で話した。
「分かっているさ・・・早く餌を寄こせ・・・グールだっけ?」
「貴様のコードネームは害獣だッ!」
人間の男性司令官が怒りの表情で話した。
「御託はいいから早くこの首輪を外せ!!」
「無理だ・・・戦地に着いたら自動的に外れる、それまで我慢しろ!!」
女性魔族が怒りのこもった声で怒鳴った。
「分かった、分かった・・・」
残虐性染みた皮肉の口調でトロールは笑顔を浮かべた。
全員揃いはじめる・・




