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千年の恋  作者: 春風
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別れと再会

春が来ても、リュシアは森へ戻らなかった。


彼女は静かに人の村にとどまり、俺の墓のそばに、ひとつの小屋を建てた。

人々は最初こそ異形を恐れたが、彼女の穏やかさと不思議な力に触れるうち、いつしか“森の聖女”と呼ぶようになった。


それでも彼女は、笑わなかった。


あの冬から、彼女の時間は止まったままだった。



――それから、長い長い年月が流れた。


村は町になり、町は国になり、時代が移り変わっても、リュシアは変わらなかった。


そしてある年、森の奥に雪が降った。


季節外れの雪。


それは、彼女の寿命が尽きる“徴”だった。


「やっと……行けるのね」


千年という時を越えてなお、彼女の心は、あの冬に留まり続けていた。


最後の朝、リュシアは白い服を身にまとい、ひとり森を歩いた。


あの雪の日と同じように。


静かに、倒木の前に腰を下ろし、空を見上げる。


雪が舞っていた。まるで、誰かが迎えに来るように。


「……あなたに会いたい」


その声と共に、リュシアの身体が光に包まれる。


精霊たちの囁きが聞こえた。


 ――「ありがとう」

 ――「よく、待ったね」

 ――「さあ、行きなさい。愛のもとへ」


そのとき、彼女の視界に、一人の男の姿が浮かんだ。


白い髪、しわのない顔。けれど、その瞳は間違いなく、あの冬の男――


「……君、なの?」


「おかえり。長かったな、リュシア」


彼は笑っていた。やさしく、あたたかく、何もかも包み込むような笑顔で。


「これからは、時間なんていらない。君と、ずっと一緒にいられる」


リュシアは、ただ静かに頷いた。


ふたりの手が触れた瞬間、雪が陽光に溶け、まばゆい光が森を包み込む。


それは、千年越しの恋が結ばれた瞬間だった。



数百年後――


森に迷い込んだひとりの旅人が、語った。


「銀髪の男女が、雪の中で手を取り合っていた。まるで、恋人たちが永遠のダンスを踊っているみたいだった」


その伝説は、今でも“雪の精霊たちの物語”として語り継がれている。

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