恋の確信
それから、毎年――雪が降る季節になると、俺はリュシアに会いに森を訪れた。
最初の年は、再会できるか不安だった。人の記憶と時間は移ろいやすい。けれど、あの森の奥で彼女は変わらず待っていてくれた。まるで、冬の精霊のように。
「……来てくれたのね」
白銀の世界の中に立つリュシアの姿は、どこか幻想的で、息を呑むほど美しかった。
「約束したからな」
俺はそう言って笑い、彼女に近づいた。
それから毎年、俺たちは冬の森で会った。人里から森までは長い道のりだったが、寒さも、吹雪も、すべて彼女に会うための試練に思えた。
時間は容赦なく過ぎていく。
五年、十年、十五年――
俺は少しずつ歳を重ね、髪に白いものが混ざるようになった。けれど、リュシアの姿は出会った時と何一つ変わらない。彼女の時間は、まるで止まったままのようだった。
「……老けたな、俺」
「そんなことないわ。あなたの目は、昔と同じ」
そう言ってリュシアは、俺の頬にそっと触れた。
その指先のぬくもりに、俺の心は大きく波打った。
「リュシア……俺は、君を……」
声が震えた。けれど、それでももう、抑えられなかった。
「……君を、愛してる」
沈黙が、森を包む。
雪が、音もなく降り続けていた。
やがて、リュシアが小さく囁いた。
「……言っては、いけなかったのよ。それは……私を苦しめる言葉」
「なぜだ? 本当の気持ちを伝えたのに、どうして……?」
「あなたは人間。私はエルフ。寿命が違う。生きる世界も違う。あなたが老いて死んでも、私は……変わらずこの森に生き続けるのよ」
彼女の瞳に、苦悩が浮かんでいた。
「私たちは、交わってはいけない存在なの。恋なんて、してはいけなかった……でも、あなたと過ごす時間が……あまりにも、あたたかくて」
「だったら……一緒にいよう。時間が違っても、今を生きることはできる」
「……それが、あなたを傷つける結果になっても?」
「それでも、いい。君を好きになったことに、後悔はない」
リュシアは泣いていた。けれどその瞳は、確かに俺を見ていた。
雪の中で、俺たちは言葉もなく抱きしめ合った。温もりを分かち合いながら、決して交わるはずのなかった二つの魂が、ひとつになった瞬間だった。
*
日常に戻った俺は、変わらぬ人の世で生き続けた。けれど、冬が来るたびにリュシアに会いに行った。どんなに歳を重ねても、足が動く限り、森を目指した。
そしてある年、とうとう膝が痛み、歩けなくなった。
そのとき初めて、俺は自分の「終わり」を意識した。