表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年の恋  作者: 春風
3/5

恋の確信

それから、毎年――雪が降る季節になると、俺はリュシアに会いに森を訪れた。


最初の年は、再会できるか不安だった。人の記憶と時間は移ろいやすい。けれど、あの森の奥で彼女は変わらず待っていてくれた。まるで、冬の精霊のように。


「……来てくれたのね」


白銀の世界の中に立つリュシアの姿は、どこか幻想的で、息を呑むほど美しかった。


「約束したからな」


俺はそう言って笑い、彼女に近づいた。


それから毎年、俺たちは冬の森で会った。人里から森までは長い道のりだったが、寒さも、吹雪も、すべて彼女に会うための試練に思えた。


時間は容赦なく過ぎていく。


五年、十年、十五年――


俺は少しずつ歳を重ね、髪に白いものが混ざるようになった。けれど、リュシアの姿は出会った時と何一つ変わらない。彼女の時間は、まるで止まったままのようだった。


「……老けたな、俺」


「そんなことないわ。あなたの目は、昔と同じ」


そう言ってリュシアは、俺の頬にそっと触れた。


その指先のぬくもりに、俺の心は大きく波打った。


「リュシア……俺は、君を……」


声が震えた。けれど、それでももう、抑えられなかった。


「……君を、愛してる」


沈黙が、森を包む。


雪が、音もなく降り続けていた。


やがて、リュシアが小さく囁いた。


「……言っては、いけなかったのよ。それは……私を苦しめる言葉」


「なぜだ? 本当の気持ちを伝えたのに、どうして……?」


「あなたは人間。私はエルフ。寿命が違う。生きる世界も違う。あなたが老いて死んでも、私は……変わらずこの森に生き続けるのよ」


彼女の瞳に、苦悩が浮かんでいた。


「私たちは、交わってはいけない存在なの。恋なんて、してはいけなかった……でも、あなたと過ごす時間が……あまりにも、あたたかくて」


「だったら……一緒にいよう。時間が違っても、今を生きることはできる」


「……それが、あなたを傷つける結果になっても?」


「それでも、いい。君を好きになったことに、後悔はない」


リュシアは泣いていた。けれどその瞳は、確かに俺を見ていた。


雪の中で、俺たちは言葉もなく抱きしめ合った。温もりを分かち合いながら、決して交わるはずのなかった二つの魂が、ひとつになった瞬間だった。



日常に戻った俺は、変わらぬ人の世で生き続けた。けれど、冬が来るたびにリュシアに会いに行った。どんなに歳を重ねても、足が動く限り、森を目指した。


そしてある年、とうとう膝が痛み、歩けなくなった。


そのとき初めて、俺は自分の「終わり」を意識した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ