表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年の恋  作者: 春風
2/5

交わる日々

回復までの数日は、まるで夢のようだった。


リュシアの住む小屋は、森の奥にひっそりと建っていた。自然と調和したつくりで、木々に囲まれたその場所は、外の世界とはまるで別の時間が流れているようだった。


朝は鳥のさえずりで目覚め、昼は木漏れ日の中でリュシアと薬草を摘んだ。夜は焚き火を囲んで、彼女の語る森の話に耳を傾けた。


「この森にはね、“精霊”が住んでいるの。目に見えないけど、風の音や木のざわめき、光の揺らぎ……全部、彼らの声なの」


「……人間には聞こえない声か」


「でも、あなたは聞こうとしてる。だから、きっと少しずつ届いてる」


リュシアはそう言って、木の幹にそっと手を当てた。その表情は、まるで親しい友人に触れるような優しさに満ちていた。


不思議なことに、彼女といると、時間の感覚が薄れていった。何日経ったのか、何時間話したのかも分からなくなる。ただ、リュシアの隣にいる。それだけで、心が満たされた。



ある夜、焚き火の灯りの中で、俺はふと尋ねた。


「リュシア。どうして、この森から出ないんだ?」


彼女は少し黙ったあと、静かに答えた。


「私たちエルフは、森と契約しているの。この地を守る代わりに、命を与えられた。だから、森を離れることは許されていないの」


「まるで、牢獄みたいだな……」


「いいえ。私はこの森が好き。木々も、風も、精霊たちも……全部、私の家族だから」


彼女の笑顔は澄んでいた。でも、どこか孤独を滲ませていた。


「……それでも、寂しくないか?」


 俺の問いに、リュシアは小さく首を振った。


「寂しいなんて、思ったことなかった。……あなたに会うまでは」


その言葉に、俺は息を呑んだ。彼女の頬がわずかに赤く染まっているのが、焚き火の明かりのせいだけではないと、すぐにわかった。


「……リュシア。俺も……」


「言わないで」


そっと、彼女が指を俺の唇に当てた。


「今は、ただ……この静けさを大事にしたいの。あなたと話せることが、うれしいの」


その夜、俺たちは火が消えるまで語り合った。言葉にできない想いが、焚き火のはぜる音にまぎれて空へと消えていった。



やがて傷が癒え、俺は森を出る日を迎えた。


リュシアは変わらぬ微笑みで見送ってくれた。だが、俺は振り返り、彼女に言った。


「また来てもいいか?」


リュシアは少し驚いたような顔をして、それから、うれしそうに頷いた。


「雪が降る季節に……また、来て」


それが、俺たちの約束となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ