400年に一度の救済
初投稿、新シリーズです。
「フレーリア様。そろそろ支度を願います。」
「おや、もうそんな時間か。ありがとう、スヴィナ。」
「いえ。必要であればいつなりと。」
彼女の名はフレーリア・ミルアネド。
そしてその傍らの名はスヴィナ・ルミナベル。
……ここは遠い宇宙。
地球からはとても観測できない果てに存在する星だ。
そしてこの星には魔法が存在している。
そのおかげか、地球より科学も発展している。
地球からは観測できなくともこちらからは観測できる……見事な一方通行だ。
ここにいる人なる者は人なのか、と思う方もいるだろう。
数百年ほど前、地球に突如として魔法が使える人物が現れた。
そしてその人は魔法の誤作動により遥か遠い小さな星に飛ばされてしまった……。
つまり我々は人だ。
意外にもこの星は魔法のおかげで科学も異常なほど進歩したというだけでまだまだ歴史が浅いのである。
そして彼女達は今この星の重要都市、ミルアネド領の魔法都市にいる。
そう、フレーリアは専属メイド付きの立派なお嬢様だ。
スヴィナは幼少の頃から座学や家事、作法に加えて武術を叩き込まれたフレーリア専属のメイドだ。
唯一の難があるとすれば魔法があまり使えない事くらいだろうか。
フレーリアは座学、作法、武術などの基本的な教養のほか、魔法に関しては世界一を語っても決して大言壮語ではない。
主人のフレーリアが更にハイスペックなのは当然であり必然である。
……が故に目立ってしまうというもの。
「さて、今回行くのは地球だ!! しばらくスヴィナもこちらには戻れなくなってしまうが本当について来て良いのか?」
「はい。フレーリア様に忠誠を誓った身です、自分が可愛いばっかりにフレーリア様を危険に晒す訳にはいきません。」
「ほう? それはとても有り難いお言葉だな」
……このお嬢様らしからぬ口の利き方が。
最早これではお嬢様というよりどこぞの男爵のようではないか。
「あの、フレーリア様」
「どうした?」
「その……地球でも魔法って使えるのでしょうか?」
「そうだな、先代は皆使えていたと思うぞ」
ミルアネド家は代々400年に一度、地球で一斉に発生する大規模な天変地異の被害をなるべく食い止める、という役割がある。
例えそれでミルアネド家の者が死んだとしても。
他の家にも役割があり、隕石の軌道を逸らす家系や、マグマの温度を調節する家系など様々だ。
だが、普段我々が自然に手を貸しているせいでその反発は少しずつ蓄積していく。
だから時として我々では手に負えなくなった地震が起きたり火山の噴火が起きたりするのだ。
「さて、そろそろ行かねばな。早く行かねば父上に叱られてしまう」
「そうですね」
そう言って2人はふっと笑う。
地球に行くのも帰るのもとても簡単だ。
座標を地球に移すだけで簡単に行くことができる。
「ところでフレーリア様、地球での拠点はどうされますか?」
「そうだな……先代と同じく我々も地震の発生率の高い『ニホン』に滞在しようかと考えている。」
「そうですか……地震に限れば『チュウゴク』のほうが発生率が高いと存じますが……」
「いや、地震の発生率上位3位には既に他の家の者が滞在している。そちらに任せれば良いだろう。」
「承知致しました。お父君に報告して参ります」
そう言い残してスヴィナがバタバタと去っていく。
「もし、この任務で死んでしまったら……もしかしたらこれが最初の大仕事にして最後の任務になるのかもな」
独りになった途端に思考が暗くなる。
もしこうなったら……こうだったとしたら……という有りもしない未来について悶々と考えてしまう。
ミルアネド家に現在母はいない。
数年前……フレーリアが12歳の時に亡き人となった。
今は16歳なので大体四年前だろうか。
母は魔法師だった。
魔法を職業としている魔法使いのことだ。
フレーリアにとって母は偉大で、尊敬すべき魔法師だった。
いつか自分も魔法師として生きたい……そう願っていた。
でも運命とは残酷で、偉大な母も、優しい母も、全て消えてしまった。
発作による病死だった。
その時以来、フレーリアはふとした時に考える。
「もし私がもっと役に立てる人間であれば。」
……と。
それは誰かの為に尽くすことができるフレーリアの優しさでもあり、時に重たい鎖の枷でもあった。
「誰が【偽善者】だよ……くそが」
優しさ故に着いてしまったあだ名。
でも偽善だとしても良い。
そんなことは些細なことだ。
それで誰かが救われるなら偽善者にだってなってやる。
「もし、この任務で死んでしまったら……もしかしたらこれが最初の大仕事にして最後の任務になるのかもな」
先程の言葉が思い起こされる。
「いや、そんな事はどうでも良い。私の命一つで何億というヒトが救えるのなら……」
そんなことを悶々と考えているうちに報告を終えたスヴィナが戻ってくる。
「お、お待たせ致しました、!」
新たな地に行く楽しみからなのか、晴々しい笑みを浮かべて駆け寄ってくるスヴィナを見ていると先程までの暗い思考も嘘のように消し飛ぶ。
「準備はいいか?」
私が例え偽善だとしても、この慕ってくれるメイドの笑顔が嬉しい。
「それでは、行くぞ!」
「はい!」
地球というある種の魔境に足を踏み入れればもう二度とここに帰れないかもしれない。
それでも。
「「 転送魔法 」」
私は彼女と共に戦う。
そこで死んでも後悔なんかしない。
初めまして、良都と申します。
いかがでしたでしょうか。
ところでこの作品は果たして本当にハイファンタジーを名乗って良いのか疑問です。
よくよく考えるとローファンタジーな気がしてきました……。
いやでも今話に限れば舞台は異世界なるもので間違いないですし…うーん。
作者がとんでもないポンコツですが是非今後とも本作をよろしくお願いします
٩( ᐛ )و