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☆第一夜、そして終章「メルヒェン」

 パパとママといっしょに、大好きなニンジンとジャガイモとカボチャのシチューを食べているとき、家の中にオバケオオカミがあらわれた。


 オオカミはパパに向かって言った。

「おい、父ブタ。どちらかを選べ。家族三人、仲よくオレさまに食われるか、おまえだけ食われるか」


「ど、どうか! 妻と子どもは、助けてくれ」

 それを聞いたオオカミは、パパをがぶりと食べると、笑いながら消えてしまったんだ。


 それから三ヶ月。

 ママとお買いものから帰る途中、またオバケオオカミがあらわれて、ママに向かって言った。

「おい、母ブタ。どちらかを選べ。親子仲よくオレさまに食われるか、お前だけ食われるか」


「ど、どうか! この子だけは助けて。お願い」

 それを聞いたオオカミは、ママをがぶりと食べると、笑いながら消えてしまったんだ。


 それから三ヶ月。

 ぼくは一人。森の中で食べられそうなキノコを探していると、またオバケオオカミがあらわれた。


「おい、子ブタ。どちらかを選べ。オレさまに食われて楽になるか、このまま一人で苦しんで生きていくか」


ぼくは悲しくて悔しくて、泣きながらオオカミに言ったんだ。

「おまえは、ウソつきだ。パパを食べちゃったとき、ママとボクは助けるといったのに。ママを食べちゃっとき、ボクを助けるといったのに。結局、また食べにきたじゃないか!」


「オレさまは、また食べに来ないなんて約束はしとらん。ただ、すべてが不条理なだけだ。……そうだな。ではこうしよう。もし、オレさまに食われることを選んだら、一つだけ願いをかなえることを約束しよう。ウソは言わん。さあ、どうする?」


 ぼくは、フジョウリという言葉の意味はわからなかったけど、迷わず食べられる方を選んだ。

 オオカミはがぶりとボクにかみついた。


 その瞬間「もういちどあのメガネの男の子に会いたい、あの子の悩みを聞いてあげたい」と願った。


そして、ぼくは、「夢先案内ぶた」になって、人間の夢の中を旅している。


 ここは、ぼくの夢の中だ。

 大きくてけわしい山の入口に、道しるべが立っている。


 メガネをかけた男の子がその道しるべを見上げている。

ぼくは、この子を知っている。


 見つけた。


 メガネの子がふり返る。


「やあ。きみは、あの時のぶたさんだね。久しぶり」

「うん、そうだよ……ずっと探していたんだ」

「そうなの。ありがとう。また会えて、すごくうれしい」


 その子はにっこり笑った。

 それからもう一度、道しるべを見上げる。

「ところで、あそこには何て書いてあるのかな? ボク、目が悪いからよく見えないんだ」


 ぼくは、その子の代わりに読んであげた。

 「こう書いてあるよ。『目の手術をする』『目の手術をしない』」


 男の子はメガネごしに、じっとぼくの顔を見た。

 ぼくは聞く。

 「手術、まよってるの?」


 その子は少し考えてから、きっぱりと言った。


 「ううん。いま、決めた」 

 「いま?」

 「そう。ボクはきみの顔をもっとちゃんと見たいから、手術するよ」

 

 そう言って、ぼくの手をとった。

 そう。

 ぼくたちはいっしょに、道しるべの先に進むんだ。


 

  (了)

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