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☆序章「真夏の昼の夢」

 お空、真っ青。トンボがすいすい。

 カラスが一羽、二羽、ぼくの真上の木の枝にとまった。

 もうすぐ、オオカミもやってくるかな。

 でも、立ちあがれない。逃げられない。

 ぼくは、あんまり風が気持ちよくて、おさまがまぶしくて、嬉しくて。つい、はしゃぎすぎちゃった。

 ママから、木の切り株には、気をつけなさいと言われていたのに。後足がひっかかって、すってんころりん。

 おうちに帰りたい。でも、こうやってひっくりかえったまま、動けない。もうママにもパパにも会えないのかな。

 もう一度、起き上がろうとしたけど、だめ。

痛い。力が入らない。お空を見上げる。涙で青色が滲む。こんな空なんか、もう見たくない。ぼくは目を閉じる。


「どうしたのかな」


 急に影がさして、声が聞こえた。目をあけると、顔がほとんど隠れそうな黒ぶちのメガネをかけた男の子が見えた。人間の子だ。


「きみは、ぶたさんだね」

 男の子は、しゃがんで顔を近づけ、ぼくを見つめる。

「ごめん、ボクはあまり目がよくないんだ。けがをしているの?」

「うん、走ってトンボを追いかけていたら、切り株にひっかかって、ころんじゃった」


 一瞬、その子の顔が消えた。でもすぐに、また現れた。

「ほんとだ。これは痛そう。歩くのは難しそうだね。これで血は止まるかな」

けがをした足がぎゅっとなってちょっと痛かった。

「ハンカチを巻いてみたよ。痛いかな」

「うん、ちょっとだけ。ありがとう」


 男の子は立ちあがって、まわりをキョロキョロ見まわす。

「おうちは近いの?」

「あっちのほうに歩いて五分くらい」

  メガネの子は、そっとぼくの背中をおこし、それからぼくに背を向け、「肩につかまって」と言った。

  ぼくは精一杯力をこめて、しがみついた。

「よし、立ちあがるよ。うううううん!」

 少しよろっとしたけど、男の子はぼくをおんぶして立った。

「だいじょうぶ? ぼくは、子ぶただけど、ぶただから重いでしょ?」

「だいじょうぶ。何とかなりそう」

 男の子は、ゆっくりと歩きはじめる。

「おうちまでの道案内してくれる? あとボク、目がわるいから、何かにぶつかりそうになったら教えてね」

 その子は、ふんふんとふんばって、野原の道を歩く。背負ったぼくのことを気にしながら。


 メガネの子は一人言みたいにぼくに話しかける。

「ぼくの目は、どんどん悪くなってる。だから手術をしようかってお父さんとお母さんが言ってるんだ。

でも、失敗して目が見えなくなることもあるって。どうしようか迷ってるんだ」

 ぼくは、その子の首筋に汗が流れるのを見ながら、ふうんと聞いてるしかなかった。


「着いたよ。ここ、ぼくのおうち」

 ぼくたちは、木にぶつかることもなく、石につまづいて転ぶこともなく、無事に着いた。

「ふー、ここか。よかった」

 男の子は、ぼくをおぶったまま、ごめんください、とドアにむかってよびかける。

 パパとママが出てきた。ぼくたちを見て、パパがあわてて駆けよってくる。パパは、男の子の背中からぼくを受けとめ、何度も何度も、ありがとうと言った。


「じゃ、帰るね」

「うん。ほんとうに、ありがとう」

 男の子は大きいメガネをきちんとかけ直してボクを見つめる。

「またキミに会えるといいな」

「うん、会えるといいね」


 メガネの子はバイバイと、手をふると、くるっと背中をむけて走りだし、あっというまに見えなくなった。

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