その5 異世界って不思議
誰かこの世界観を上手いこと使ってくれ、の気持ちで書き上げております。似たようなの既にあるよ、という場合はどうかその作品名をこの無知なる作者めに感想等を通じて教えてください。上手いこと使ってやるぜ、の場合も同様にお願いします。喜び勇んで読みに行きます。
ある日、異世界に落っこちた。
落ちた先は物語でよくある魔法と魔物の、冒険者ギルドとか冒険者ランクとかがあるファンタジー世界。
しかも、異世界人が落ちてくるのは珍しくないらしい。落ちた衝撃に目を白黒させているうちに、現地のおじさん(息子連れ)に導かれて交番みたいな場所に連れて行かれたかと思えば、保護施設にぶち込まれてかれこれ3年くらい一般常識と生活魔法の使い方を教わった。
保護施設での授業料その他生活費は奨学金の形で貸付けられ、就職の手伝いもしてくれる代わりに返済が義務付けられるのだそうだ。異世界も意外と世知辛かった。
しかしだ。就職サポートを最大限お願いして役所勤めになるのは、異世界転移者としてアリと言えるだろうか? 否。真面目な勤労よりファンタジー世界を味わい尽くすのが礼儀というもの。
ということで、保護施設で自分は魔法と体術と剣術を教わった。
就職サポートでは、中堅の冒険者パーティに依頼をしてもらって、今まさに全5階層の初心者向けダンジョンの中にいた。
「……っとまあ、普遍的な初心者向けダンジョンの注意点はこんなもんだ。何か質問は?」
「今は特には。丁寧に教えていただいているので、すっごい分かりやすいです。ありがとうございます先輩!」
冒険者歴5年目だという盗賊さんが、沈み込むタイル罠だとかを指さしながら解説してくれる。
ちなみにここで言う『盗賊』は、旅人を襲う盗賊じゃなく、ゲームのジョブの盗賊だ。宝箱や隠し部屋の鍵開けとか、ダンジョン内の罠の解除とか、ナイフ投げによる攻撃が得意な方。
冒険者になるための条件に犯罪歴が無い事があるから、他にも盗賊の上位職として暗殺者なんかもいるが、本物の『金で動く人殺し』を暗殺者とは呼ばない。
異世界転移で身についていた翻訳機能がどう働いているのかは分からないが、ジョブじゃない本業の方々は、シーフとかスカベンジャーとかバンディットとかアサシンとか、横文字的な呼び方になるらしい。
この翻訳の癖というか法則というかは、まだ把握しきれていない曖昧なところが多い。こっちの世界の固有名詞が地球で親しんでいた語彙の中にない時は、そのまま本来の発音が聞こえたり、口の動きとかけ離れて説明的で冗長な言葉に置き換えられていたりする。後者の場合は話し終わりを揃えたいのか、置き換えられる単語の部分が滅茶苦茶な早口になってしまいがちなので困りものだ。
「みなさん、3時の方向より魔物の接近を確認しました。この場で迎撃の準備を」
続く盗賊さんの解説にふむふむと相槌を打っていると、後方の僧侶さんが声をかけてくる。
ジョブとしての僧侶はいわゆるヒーラーとバッファーの兼任職で、ダンジョン内の小部屋で神に祈りを捧げて安全地帯を作ってくれたり、瞑想することで魔物の接近を事前に感知できたりもする。パーティに1人は欲しい人材だ。
「おっしゃ、しっかり見とけよ坊主!」
「はい! 網膜に焼き付けます!」
真っ先に気合を入れて得物を手にしたのは殿を務めていた剣士さん。ダンジョンに入る時に「奇襲で僧侶を最初に倒されると厄介だから」と、ダンジョンでのポジションについて抗議してくれた。
今回の最終目標はダンジョン内での戦闘を経験することだが、最初は手本を見せるから僧侶の隣に居るようにと指示されている。
「接敵まであと30秒で、数は3体! 四足歩行の獣型で……これは! ミノタウロスです!! ラッキーですね!」
「ミノタウロスがこんな浅層に!? 珍しいな!」
僧侶さんと剣士さんが声を弾ませる。
ミノタウロスと言うと、牛と人間を足して2で割ったような神話にも出てくるあの人喰いの怪物の事だろうか。記憶が正しければミノタウロスは二足歩行する牛頭の人間型モンスターだったはずだが、四足歩行の獣型ならこっちだとケンタウロスの牛バージョンだったり?
どちらにしろ図体が大きくて厄介そうな魔物に思えるのに、RPGのレアモンスターみたいな『おいしい獲物』扱いなのが気にかかる。
小首を傾げながらも、万が一に備えて腰に佩いている片手剣に手をかけた。
「うっし、先制いくぞ!」
「おう!」
曲がり角の奥から角っぽいものが見えた瞬間、剣士さんと盗賊さんが息を合わせて駆け出し、その横っ面をぶっ叩く。2人の奇襲をもろに喰らったミノタウロスは体勢を大きく崩し、たたらを踏むように後ずさった。
「……って、あれ?」
ようやく全貌が見えた魔物は、思い描いていたミノタウロスの姿をしていなかった。
小柄で茶と赤の縞模様の、角がデカめなただの牛。半人要素が皆無だった。
混乱しているうちに剣士さんたちの圧勝で戦闘は終わっていたようで、
「坊主、解体の様子見せてやるよ。ちょっとこっち来い」
と盗賊さんに手招きされる。
剣士さんの方は返り血で汚れた刀身の手入れを、僧侶さんは腰のホルダーから聖水を取り出してこのT字路を安全地帯に変えていた。
「こいつはフレイムブルホルンってんだ。このダンジョンの中じゃ結構換金率が良くて、オレも初心者の頃は血眼になって探してた。1番価値があるのはこの角だから、これだけでも根元から切り落として回収ておくことをオススメするぜ」
倒れ伏す魔物のすぐ傍まで近づいたのを確認して、盗賊さんが解説を始めてくれる。
しかし、さっきはミノタウロス呼びだったのに、今はフレイムホルンって……どういうことだろう。
「あの、じゃあさっきのミノタウロスってのは一体……?」
「ん? あ、ああそっか! お前さん異世界人なんだったな! じゃあ改めてちゃんと説明してやるよ。
正式名称の方は『フレイムブルホルン』で合ってるが、それとは別に俗称があってな。それが『ミノタウロス』だ。『タウロス』ってのが人間にとって可食種の魔物である、っつー意味で、まあ、犬種みたいなもんだと思ってくれ」
「じゃあ、『ミノ』っていうのは?」
「それはその魔物の中でいちばん美味い部位の事だ。ちなみに、スジさえ美味い最上級のタウロスを『腱タウロス』って呼ぶぞ。一方で、何処もかしこも食えたもんじゃねぇってタウロスは『嫌タウロス』、全体的に微妙だが特にタンが不味いってタウロスを『嫌タンタウロス』と言う」
音だけ聞くと腱タウロスも嫌も同じに聞こえるのに、脳内で勝手にルビが振られるようにすんなり違いが理解できる。なんとも不思議な感覚だった。
しっかし、ケンタンタウロスって食われる側なのに健啖家みたいな印象になって面白い呼び名だな。
「正式名称は特徴を分かりやすく捉えたものを偉い学者が考えてるらしいが、俗っぽい分かりやすさを求めた結果として分類名を文字った俗称が生まれたんだ。ハラミタウロスとか山ほどいるし、正しい情報伝達のためにも優先して覚えた方がいいのは正式名称の方なんだがな」
しかし、外の世界から来た人間として思うが、図書館に通い詰めて図鑑を見漁った感じ、この世界の名づけ方は少々特殊だ。トゲアリトゲナシトゲトゲみたいなのがイヌやネコより普通の扱いを受ける、と言えば分かってもらえるだろうか。
例えば、黄色地に黒の斑点模様をした、毒牙を持つ双頭の蛇の魔物がいるとしよう。そいつの正式名称は、
『ジョーヌ ブラックスポット ヴェノム ファング デュオサーペント』
になる。
言語混ざってるのがキショいし、何よりクソ長い。ここ数年で遠方の秘境にて発見されたらしいが、発見が近年になればなるほど名前が伸びている傾向にあった。心が痒くなるくらいの厨二病チック全開でいいから、せめてもっと捻ってほしい。せめてヴェノムデュオファングくらいに縮めてくれ。覚えられない。
まあ、正式名称の違和感は異世界人特有のものだとして、長くて覚えづらいというのはこの世界に生まれ育った人達の中でも共通認識になるらしい。
「最悪、地域やダンジョンごとに魔物の分布は違ってるし、共通認識として通じるならタウロス呼びでも問題は無いさ。さっきもミノタウロスで通じてたの見たろ?」
との事だった。
しかしそれはそれとして、もうひとつ気になることがある。
「ハラミタウロスとか山ほどいる、ってお話しでしたけど、同じダンジョンにハラミタウロスが二種類以上居た時はどうしてらっしゃるんですか?」
「そん時ゃ、『角ありハラミタウロス』ってな具合に外見の特徴を付け加えたり、『サンダーハラミタウロス』みてぇに魔物が使ってくる魔法の属性を付け加えたりして差別化してるぞ。要は、伝わればいいだけだしな」
「そっか、それもそうですね。勉強になります」
そうして解体ショーさながらの手捌きを見ながら、ふと思う。
こういうところも含めて、この異世界は面白いから最高だな、と。




