その2 死んだ親友の墓参り
今回の舞台は異世界です。多分、文化レベルは中世ヨーロッパ。
一応死人が出てますので、ご注意ください。
前半に、ざっくりとしたキャラ設定や、このシーンに辿り着くまでのストーリーが書いてあります。気が向いたら読んでくださると、より理解が深まって楽しめると思います。
死ねない呪いにかかっていた少女の、親友兼小姑予定だった女の子視点
呪われ少女の詳細
→悲しめの過去(ご想像に以下略)を持ち、別の人物(身内想定)への戒めや罰としてかけられるはずだった呪いを肩代わりすることになった。
時代毎のたくさんの友人が自分を置いて亡くなってしまう事に絶望し、自暴自棄になった時に訳ありで天涯孤独の少年と出会う。
少年と共に暮らし始め、仲良くなって呪いについても全て教え、「俺が絶対解いてみせる!」って感じに発展したが結局少年のその人生では解けなかった。少年は死に際に、「絶対忘れないから、忘れても思い出してみせるから、俺の事探して」とある種の呪いを遺す。
何度か探して解けなくて再会を誓って……を繰り返し、とうとう少年側が思い出せなくなる。
少女は諦めて「人違いでした」って離れようとするけど、やっぱり紆余曲折あって恋仲まで進展して、呪いが解ける。
幸せを感じつつ、初代少年への裏切りのような心地が抜けず、物思いにふけっていた為に反応が遅れて事故死した。
少年(呪い解いた方)の詳細
→初めは何も覚えてなかったけど、呪われ少女が事故死したのを知って全部思い出した。
悪い人でも空気読めない人でもないけど、絶妙に間が悪かったり手遅れになってから解決案思いついたりするタイプ。
両親が流行病で亡くなっていて、妹が唯一の血縁者。料理上手で家庭的なお兄ちゃん。初代少年の頃から絶望的に音楽方面の才能が無い。
呪われ少女に最初に話しかけられた時、外見年齢が妹と同じくらいだったので重ねて見ていた。
小姑予定だった少女の詳細
→外見年齢は呪われ少女とほぼ一緒。大体18歳想定だけど童顔で16歳くらいに見えてる。
思春期前に両親が亡くなり、学校で虐められたりした時に支えてくれたのが5歳年上の兄だけだったので、家族という概念への執着がやや強め。当然だが、兄に向けているのは恋愛感情では無い。兄の幸せをちゃんと祝える子なので、親友と兄の結婚を素直に喜んでいた。
結婚適齢期に入って早々に彼氏を婚約者として兄に紹介し、その日の夜に「さすがに早すぎませんか?」と居酒屋で酔いつぶれる兄がいたとかいなかったとか。
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そうして彼女は、奇跡的に死に至った。
自分が死ぬ為だけに尽力して、長すぎる時を過ごしたらしい彼女の過去を思い出し、祝福するべきだろうかと考える。
白い花に囲まれて棺に納まっている彼女は、薄らと笑みを浮かべている。苦しみから開放されたような、爽やかささえ感じる笑みを。
しかし、彼女の棺に縋り付いて泣きじゃくる兄を見る限り、どうにもそれを表に出すのは不正解のようだ。
そもそも、死ねないはずの彼女が死ねたのは、兄と思いが通じあったから。私の後押しがその一助となっていて、喜んで良いのか尚更分からなくなった。
恋人を失った兄と悲願を叶えた親友。私の内心は果たしてどちらに寄るべきなんだろうか。
好きな人と両思いになったら解けるなんて、随分とロマンチックな呪いね、なんて2人で笑った日が懐かしい。
類稀なる不死性を持っていた彼女だけど、ただ仲良く話している分には同年代の女の子と何も変わらなく思えた。
ちょっぴり引っ込み思案で、運動が苦手で、兄さんより上手くなりたいって料理を練習中の女の子。一途で恋に臆病な、揶揄い甲斐のある大親友。
悩んで悩んで、とうとう一年も経ってしまった。
お葬式ではどっちつかずで、結局泣きそびれてしまったな、と今になって思い出す。
お墓にそっと花を供えて、呟いた。
「……遅くなってごめんね」
そこからしばらくは、彼女と共通の友人の近況を報告したり、最近彼氏と結婚に向けて準備中だと伝えたりした。
「貴女に、結婚式に出て欲しかったな。……ううん、貴女の結婚式に出たかった。そこでブーケトスを私が取って、『もう結婚決まってるんだから譲ってよ』って他の友達に叱られたかった。『喧嘩したらいつでもいらっしゃい』って言って、逆に惚気られたかった。
……また、女子会しようねって約束したのに。『お義姉ちゃん』って呼んでみたかったのに」
和やかに、祝福で締めくくるはずだった。
それなのに、私の口は勝手に悲嘆を零し始めた。
「想いが通じあって幸せそうなのに、1人になった時に暗い顔してたのがずっと気になってた。次の女子会で問いつめるつもりだった。……なんで、それまで待ってくれなかったの。
貴女なら、暴走した馬車なんて簡単に避けられたはずでしょ?轢かれそうな子供と一緒に、助かることくらい出来たでしょ?なんで、生きようとしてくれなかったの」
悲嘆はだんだん非難になって、聞き取りづらく音が濁っていく。
「『自殺したら転生できないらしいから』って、抜け殻みたいに生きてたの。『次は俺が探さないと』って、いなくなっちゃったの。私の、血の繋がった家族、誰もいなくなっちゃった」
墓に刻まれた彼女の名前は、すっかり滲んで見えなくなってしまった。
地面が、雨が降ったように色を変えていく。
「ごめんね。こんな事言いに来た訳じゃないのに……。
次こそ、ちゃんと前みたいに楽しくお話できるようになるから、もうちょっと待ってて。今度こそ、待っててよ」
……『なんなら、私の娘として、そっちから来てくれても良いよ』なんて事も、いつもなら軽口として叩けたはずなのに。
今だと、言えない。冗談以上の意味を持つから。親友を使って、私の家族を元に戻そうとしちゃうから。
来年こそ、彼女の遺志に沿える私になれますように。
ありがとうございました。