第60話「魔法が使えないおにーさんに、勝ち目はあるかな?」
「その勾玉はとある古代遺跡から出土した、世界でただ一つしか存在しない唯一無二のアイテムですわ」
「そりゃまたえらくレアなアイテムを持ち出したもんだな」
「といっても、その効果は一時的に武具召喚を阻害して武器を失わせるだけですけど」
「一時的に武具召喚を阻害だって?」
「ええ、ただそれだけですわ。対象にできるのも至近距離の1つだけ。効果時間も極めて短く、時間が経てば再召喚もされてしまいます。もちろん決勝戦の間は十分にもつでしょうけど」
「短時間だろうが武具召喚に干渉するなんて、下手をしたらSSランクだろ。そんなアイテムを用意するとは、さすがは姫騎士の中でも群を抜いてお金持ちのリリィホワイト家だな」
「これくらい別に大したことありませんわ。せいぜい20億といったところですので」
「に、20億だと……!!!!!!!」
20億もあれば人生何周もできるんだが?
最高の推し活ライフを送れるんだが?
それをまるではした金みたいにいうの止めてくれないかなぁ!
1割(=2億)でいいから分けてくれ!
「本来、姫騎士にとって武具召喚によって召喚した武器は、象徴の意味合いしかありませんわ。無くても特に困ることもありません」
「まぁ、そうだよな」
例えばアリエッタならレイピア『炎の牙ティンカーベル』を武具召喚によって召喚するが、それで斬ったり刺したりするのが主目的なわけではない。
武具召喚することで契約精霊との繋がりが強化され、魔法の発動が早く、そして強力になる。
そのために武具召喚をする。
(といってもわずかな差なのだが、高次元の戦いにおいては、そのわずかな差が勝敗を分けることもある)
「ですがユウタ・カガヤ、あなたのその剣は違いますよね? 自身の契約精霊とは別のルーツを持つ剣です。Aランク以下の魔法を触れるだけで無効化するという、極めて強力な効果を保持しているので、敢えて使っているのでしょう?」
「つまり俺の神龍剣レクイエムを、ピンポイントで封じにきたってことか」
「そういうことですわ」
なるほどと、納得がいったところで、
「ちょっと待ちなさいよ」
アリエッタが話に割り込んできた。
ちなみになんだけど、この2人は今もなおハイレベルな撃ち合いの真っ最中である。
ながら作業で魔法の打ち合いしながら会話をするとか、わりとマジでこの2人ってすごいよな。
「あらなんですの、アリエッタ・ローゼンベルク」
「なんですのじゃないわ。そもそもアイテムの持ち込みは禁止されているでしょ。そのアイテムを使った時点で反則じゃないの。はい論破」
「たしかにアイテムは持ち込めません。ですが、武器は一つまで持ち込めますわ。あなたの『炎の牙ティンカーベル』や、わたくしの『凍てつく息吹ブリザーディア』のように、武具召喚する武器として。はい、論破返しですわ」
「ちっ、そういうことね」
「ご察しの通り、この『ヤサカニノ勾玉』もキララの武器として申請してあるので、反則にはなりませんのよ」
「ああ、そっか。そもそも精霊と同化して戦うキララは武具召喚そのものをしてないから、その分フリーで1個アイテムが使えちゃうわけか」
「そういうことですわ。男の癖になかなか理解が早いじゃないですのユウタ・カガヤ。改めて見直して差し上げますわよ」
うわーい!
ユリーナに改めて見直されちゃったー!
「ふふーん、キララ知ってるんだもんねー」
と、そこで今度はキララが口を挟んできた。
「知ってるって何をだ?」
「もちろん、その不思議な剣がないと、おにーさんは魔法を使えないってこと! 模擬戦でつい口を滑らせちゃったでしょ?」
「え? あー、アリエッタに話した時のか」
「魔法が使えない、つまりもうさっきみたいに光の矢は撃てないおにーさんに、勝ち目はあるかな?」
キララが不敵な笑みを浮かべながら戦闘態勢を取った。
どうやら一連の全ては、事前に俺への対策として用意していたことらしい。
「あー、まー、その、なんだ。せっかく長々と説明してくれたところ申し訳ないんだけどさ――」
「問答無用! 勾玉のタイムリミット前に、残りの防御加護も削り取っちゃうんだから! せいやー!」
俺の言葉を遮るように、キララが攻撃を再開した。




