出逢いは億千万の胸騒ぎ8
「碓かに、碓かに、ハーレムには男の夢と希望とロマンスが詰まった聖地だ。それは人類の誰であっても否定はできない。しかし、最上の幸せかと問われたら、俺は違うと答えたい。少なくとも、俺は違うと思っている」
「何を言うかと思えば。まあ、この生徒会が完成された楽園かと聞かiれたら、まだ主要な属性を網羅したとは到底言えない有様だ。だが、ハーレムという概念自体は、それだけで完璧な幸福の象徴に決まっているだろう」
「いいや。少なくとも、俺の幸せはハーレムにはない」
「なら、聞かせてみろ。貴様の言う、幸せとやらを」
「いいだろう。聞いて驚愕しろ。俺の幸せとは、すぐにアレコレ目移りしちゃう心底駄目ダメ男なのに、どんなしょうもないことを繰り返してもプンスカ怒って、ヤキモチ焼いて、それでも最後には可愛く笑って全てを許してくれる、この世で唯一のとびっきりなベタ惚れをしてくれる彼女がいることと見つけたり!」
「ふっ、何かと思えば、それならハーレムでも叶うだろう。むしろ、多くのお花が自分を取り合って尽くしてくれるハーレムの方が許されている」
「会長、それは深い愛を育めるのか」
「何?」
「ハーレムシスターズは全力で会長のことを愛してくれているかもしれない。しかし、会長はどうなんだ」
「俺……?」
「そうだ。ハーレムは気分次第でイチャつく女の子を選び放題の、飽きることがない天国だ。だけど、その分、愛情が広く浅くなるのは必然じゃないのか。誰かを贔屓すれば、途端に修羅場と化し、たちまち成立しなくなるのもハーレムだ。つまり、いくら情熱を注いだとしても、深められるのは酒池肉林という、身も蓋もないシステムが存在するだけだ。可愛い女の子なら誰でもいいなら、ある意味、誰もいないのと同じことだろう」
「な……そんな、そんな馬鹿な。ハーレムの何が悪い? みんなが俺を好きでいてくれる幸せのお花畑だ。そこに愛が足りないなんてことは、あるはずがない。ありえないんだ」
「だったら、きっちり反論してみろよ」
哀れみさえ浮かんでくる堂々たる俺に対し、わなわなと震える紫劉は何度か熱弁をふるうおうとしたけれど、結果としては白旗を上げるしかなかったように項垂れた。
「わかったろ。これがハーレムの限界さ」
「はは、自分でも信じられなことに、君を説得できるだけの反論が出てこない。まさか、数多の男共が屈服してきた絶対無敵のハーレム理論が打ち破られる日が訪れようとは、夢にも思わなかったよ」
会長はゆるゆると首を振り、苦々しさの混じった笑いをこぼした。
けれども、次に顔を上げた時には妙にすっきりして見えた。
「どうしてだろうな。これほど大敗したというに、どこか清々しい気分でいるのは。天堂 勇麒、君の幸せに俺は乾杯で乾杯だ」
どこからともなく用意されていたワイングラスを掲げて、会長は潔く敗北を認めた。
「こちらこそ、いい勝負をさせてもらった。こんな達成感は初めてかもしれないな、会長さん。いや、奉甫 紫劉先輩」
「紫劉でいいよ、勇麒君」
男同士で分かり合えたら、後は熱い握手を交わすだけだ。
熱い熱い握手を交わして、おもいっきり褒めてもらおうとハイテンションでりんごさんに振り返ったら、一生かかっても通じ合わない深い溝を感じる絶壁ができあがっていた。
いや、そんな気がする顔つきだったって意味だけど。
「ねえ、あんた達。本気で、こんなのがいいわけ?」
「やめてよ、りんご。胡桃はともかく、私はビジネスな関係でしかないわよ」
ツンツン麗美の本気で本気なローテンションに続いて、桜子とるるタンも右に同じの低めな声で否定した。
もしや、生徒会長って、俺が思うほどモテないんだろうか。
なんだか嬉しいような悲しいような……。
自分じゃなくてもいいから、モテモテ男子って実存していてもらいたいよな。
「ってことは、胡桃はあんなのがタイプなわけね」
「まあね。何事も完璧な人間よりは、おバカなところがある方がときめくって思ってたんだけど、同じレベルが揃って並んだら、ちょっと考え直したくなったわ。てか、そっちこそ、協力者がアレでよかったの?」
「まさか。心底深く後悔してるのに、チェンジシステムがないから諦めてるだけ。いっそのこと、存在からごっそり抹消して、最初からなかったことにしてやればいいのか考えてるところよ」
いや、え?
ハーレムシスターズの冷っこい気配も堪えるけれども、それより、りんごさん。
存在からごっそり抹消って冗談ですよね、ね?