出逢いは億千万の胸騒ぎ1
「……なあ、今、なんて言った?」
俺、天堂 勇麒の平穏な日常は、親友による非情な告白によって砕け散ろうとしていた。
「すまん。オレだって、悪いと思ってるんだ。けど……わかるだろ」
後ろめたさがあるせいか、唯一無二だった友は視線を逸らして俯いた。
「ぜんぜん、わかんねえよ」
「勇麒……」
「ちゃんと俺をわからせたかったら、もっぺん言ってみろよ」
「そうだな。もう一度だけ言う。両耳にイカもタコも引っ提げて、しっかりきっかり聞いてくれ」
向き合ったことのない真剣な表情に俺も覚悟を決めて真正面に立ち、友は小さく頷いてから息を深く吸い込み言った。
「ごっめーん。俺、彼女できたから、今日からお昼一緒できないんだや。なんかぁ、彼女がぁ、俺のために朝からお弁当作ってくれたって言うからさーあー」
そこには親友の自分でさえも見たことのない、デレッデレのだらしない顔面があった。
「あ、ゲン君めっけ。もうっ。うち、すっごく探したんだからね」
「ごめん、ごめん。用は済んだから、今からは二人っきりだよ」
「うちが作ったお弁当、残さず食べてくれる?」
「もちろんだよ。ハニー♡」
「じゃ、許してあげるぅ」
おい、お前ら。
二人きりじゃないからな。
まだ俺もいるからな。
透過能力とか持ってないし、隠密スキルを発動させて気配を断ってるわけでもねーからな。
てか、せめて、せめて、紹介くらいしていけや。
一生もんの友情だって宣言してたのは、どこのドイツ人だよ、ばかやろー!
文句は後から後から脳内に噴き出してくるけど、どれも口に出す前にスキップスキップらんらんらん♪ な勢いでバカップル転生を果たした友人はフェードアウトしてくれやがった。
所詮、男の絆なんて、こんなもんだよ。
はははーん、泣いてなんかないやい。
終わったことを嘆いていたって仕方ないから、俺は孤独な弁当を持って廊下に出た。
「どうしたもんかな」
アイツがいなけりゃ、イケメンでも成金でもない俺は、どこかのグループに入れてもらう勇気なんて勇麒だけどない。
あ、これ、鉄板の自虐ネタね。
「はあ。あんな風に友情を裏切るくらいなら、俺は彼女なんていらないや」
渡り廊下の空を見上げて、ぽつりと呟いてみる。
やけに青が胸に沁みる。
つーか、眩しくて目に突き刺さる。
いい子のみんなは太陽を直接見ちゃいけませんでした。
「って!! 嘘だよ、う・そ。嘘に決まってるんじゃん! めちゃくちゃ彼女ほしーし、あんなこといいな、できたらいいなだよ。神様仏様猫型青色ロボット様、この際、地獄の閻魔様でもいいから、哀れなオイラに可愛い彼女をおーくれ!! 叶えてくれるなら、七つのボールでもなんでも全力で捧げてみせますっ!!」
ノリと気分で涙目で大空に祈ってみたけど、返ってくるのは遠い青春の賑やかさと右に曲がるトラックの案内音くらい。
ふふふ、余計に虚しくなることくらい、わかってたけどね。
叫ばないとやってられな――
「言ったわね」
「はえ?」
勝ち気そうな女の子の声が聞こえた気が……。
それも、頭の上から。
なんのフラグ??
確認しようと見上げてみたら、冗談でもなんでもなく、本当に上になんかがいたらしくて黒い影が落ちてきた。
但し、飛行石を所持してなかったらしく、ものすっごい重力任せに腹部に豪快アタックをかまされた。
「ぐふっ!!」
そりゃ、こっちは非力な軟弱高校生だから、お姫様だっこで受け止める自信なんてありゃしないけど、さすがに、これはなくない?
マジで痛いと、人間は呻き声すら出せなくなるらしい。
てか、ものっすごく苦しい。
ああ、俺ってば、彼女もできないままで死んじゃうのかなぁ。
未練しか残らないから、絶対に化けて出る自信はあるのに。
てか、うちの学校に七つの怪談とかあったけ?
…………つーか、さっきから、ずっと息苦しいまんまなんだけど。
ってことは、俺、実はめっちゃ生きてる!?
我に返って、なけなしの腹筋を使って上半身を起こしたら、お腹の辺りから何か気持ちよく転がり落ちていった。
「痛いわね。最近の子は思いやりが足りないってホントね」
なんてババくさいことを言いながら、俺のお股の間で埃を払って立ち上がったのは、巫女コスをした真ピンクのブタさんだった。