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異世界恋愛

憧れの王子様は侯爵令嬢よりも料理上手な城内食堂の看板娘を溺愛するようです


 リカルド王子が発した大胆な言葉に、謁見の間に集まっていた官僚たちが(ざわ)めいた。



「私の伴侶……王妃となる女性は、私が選びたいと思います」


 いっそ、何かの冗談であって欲しかった。目の前にいるのは、本当に自分の息子なのか?


 モンテルノ国の王は、玉座の上で頭を抱えてしまっていた。


 いま目の前で片膝で跪いている我が息子の両の眼は、射貫くようにこちらを向いている。間違いない。あれ(リカルド)は至って真面目なのだ。


 勘弁してくれと叫びたくなる衝動を抑えつつ、リカルドに真意を(たず)ねることにした。


「リカルドよ。それは、自分の立場を十分に理解した上での言葉なのか?」

「はい。父上」


 迷いが微塵(みじん)も感じられない、完璧な即答だった。


 堪えきれず、王は皆に聞こえるほどの大きな溜め息を吐いた。彼のその顔は、一気に老けたかのような濃い疲労の色が表れている。


 ――王妃。未来の王を産む国母。

 この国を導いていく王を、最も近い立場で支える大事な存在なのだ。平民がただ嫁を迎え入れるのとはわけが違う。理由が何であれ、この玉座を継ぐ者がそんな短慮な事を言うものではない。



(わし)は教育を間違ったのかのう……」


 これまでリカルドは問題なく育っていた、はずだった。

 国中からかき集めた優秀な教育者を(そば)につけ、政治のやり方から身体づくりまでイチから教え込ませた。


 そのお陰か、はたまた元々才能があったのかは知らないが、自分の息子とは思えないほどに良く育っている。そう、認識していたはずだったのだが……。



「もちろん、王妃選びの重要性は私も理解しております。しかし妻を自分で選べないような男が、果たして王として重要な判断を下せますでしょうか。数万人の民たちを、しっかりと導くことができるでしょうか」


「む、そう言われると……それもそうなのだが……」


「それに私にとって理想の女性とは、乳母のアイリなのです。彼女のような慈愛に満ちた女性が国母となり、(そば)で私を支えてほしいのです」


「アイリか……それは、まぁ……うむ、分かる」


 リカルドの実母――現王妃は、彼が生まれてすぐに亡くなってしまっていた。


 そんな母に代わって彼を育ててくれていたのが、乳母であるアイリだった。


 彼女は元々下位の貴族生まれの令嬢で、非常に(さと)く、かつ忠義に厚かった。だから王は彼女に信を置き、教育チームの一員として息子を任せていた。


 乳母と言えど、さすがに国政にかかわる事柄にまで口を挟むようなことはしなかったが、リカルドの情操教育に関しては彼女が最も影響を与えていたに違いない。


 もちろん、それは悪い意味での影響ではない。アイリにはかなり厳しくリカルドを躾けてもらっていた。


 今回の件だって、王は初めて息子が我が儘を言うのを聞いた。内容が内容だけに素直には受け止められないが、できることなら願いを聞いてやりたいというのが本音だった。



「うぅむ。しかしアイリには夫がいるであろう。はっ、まさかお前……」


「念のため断っておきますが、父上。決して熟女趣味に目覚めたわけでも、既婚の女性に惚れたわけでもありませんからね」


「そ、そうか。ならいいのだ……」


 王は心の中でホッと安堵の溜め息を吐いた。


 アイリ自身はすでに退職という形で王城から去っている。今頃はどこかの貴族家で幸せに過ごしていることだろう。

 もしリカルドが夫からアイリを取り上げると言ったら、アイリに代わって根性を叩き直す必要が生まれるところであった。



「しかし、アイリか……」


 一番間近で彼女を見て育ってきたのはリカルドだ。その本人がアイリのような女性が良いと言うのなら……まぁ、それも仕方があるまい。乳母が理想というのは、やや世間的に問題がある気もするが。

 モンテルノ王にも彼の気持ちは理解できてしまった手前、それ以上の異を唱えることはできなかった。



「して、リカルドはどうやって王妃を決めるつもりなのだ?」


 息子の主張は分かった。それならばどうするつもりなのか。


 王は改めて、リカルドに問うことにした。



「はい。候補者たちを集め、料理を作ってもらおうかと」

「……は?」


 思わず間抜けな声が出てしまった。


 聞き間違いかとも思ったが、周りを見渡すと重鎮たちもポカンと口を開けている。リカルドは何かを言い間違えたのか?


 ゴホンと咳払いをしてから、もう一度リカルドに聞くことにした。



「すまん。今、なんて?」


「父上、言葉遣いが乱れておりますよ?」


「いや待って待って? え? なに、料理って。今までのやり取りって、リカルド君の奥さんを誰にするかって話だったよね?」


 いったい何をどうしたら料理の話になるのか。


 息子や配下たちの前だというのに、モンテルノ王は普段から演じている王様キャラをブレにブレさせていた。だがしかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。



「アイリは料理が上手でした。なので私は、料理が上手な女性を伴侶としたいと思います」



 ◇


 そういうわけで、リカルド王子の嫁選びのための料理大会が始まった。


 開催場所は王城の中庭に設置した、特設会場となっている。ここに候補者を一堂に集め、一対一の勝ち抜き戦を行う。そして最後まで勝ち残った者が、この国の未来の王妃となるのだ。


 さらにはリカルド王子の提案で、観客を呼ぶことになった。国中に在籍している貴族や、王都に住む民衆たちをまとめて招待したのである。


 どうしてそんな事をわざわざするのかと王が(たず)ねれば、リカルドいわく――



「料理にはその人の性格が如実(にょじつ)に表れます。権謀術数が入り乱れる貴族界の令嬢ならば、その場で取り繕うことなぞ、いくらでも可能でしょう。ならば大勢の視線に晒される場で料理をさせれば、その者の本質というのが多少なりとも見えてくるでしょうから」


 なのだそうだ。


 たしかに社交界に一歩でも踏み入れていれば、貴族と言う生き物が如何(いか)に裏の顔を持っているものなのか、否が応でも理解してしまう。


 相手に気に入られようと自分を嘘で着飾り、他人を蹴落とそうと笑顔で(ののし)り合う。そんなことも容易(たやす)いだろう。貴族のトップに君臨するモンテルノ王でさえ、相手の腹の内を完全に知ることは不可能だと分かっていた。



 まぁそう言うのであれば、それでも良い。

 出場者はあらかじめ、こちらで配下に素性を調べ上げさせ、怪しい者や不適格な者はふるいにかけておけば良いだけの話なのだ。

 リカルドもその中から自分で選ぶのであれば、何も不満はないだろう。


 それに今回は宰相や騎士団長たちにも審査員をさせることになっている。彼ら大物貴族を王妃選びに貢献させれば、後から文句を出されることもあるまい。


 おぉ、まさに一石二鳥だ。我ながら良い考えではないか。



「そう、思ったんだがなぁ……」


 モンテルノ王は眼前で大盛り上がりを見せている会場を見ながら、口元を引き()らせていた。


 予選までは特に大きな問題も無く、順調に大会は進行していた。


 国中から集まった候補者により、様々な趣向を凝らした料理を楽しむことができたのだ。


 全力を尽くしたものの、惜しくも敗者となってしまった女性たちは悔し涙を流しながら去っていった。だがそれもまた観客たちの感動を大いに誘い、盛り上がりの要因となっていた。


 まぁ、一部で明らかに男だと思われる出場者が居たのは予想外だったが……。


 ちなみにその者は料理に媚薬を特盛りで仕込み、危うく大惨事になるところだった。可哀想に、毒味役の兵士がひと口食べて失神。治療所に運ばれる結果となってしまった。

 当然ながらその出場者は反則負けとなり、罪人として捕らえられた。



 そんなハプニングはともかく。二十人ほどが参加した勝ち抜き戦も、今は佳境を迎えていた。熱い戦いの連続と審査員の言葉巧みなリアクションに、会場は熱狂が最高潮(ピーク)となっていた。



「それがどうして……よりによって、あの二人が残ってしまったのか」


 モンテルノ王の内心を表すとしたら、『こんなはずではなかった』のひと言であろう。


 いったいどうして? それは決勝戦まで残った二人の候補者が原因だった。


 ――彼女たちの癖が、あまりにも強過ぎたのだ。



 二人のうち、片方の名をアリーチェ=マイスといった。


 王国軍の元帥を(にな)うマイス侯爵家の御令嬢で、十六歳のうら若き乙女である。


 金髪碧眼で目はパッチリ、鼻はシュッとしていて、まるで人形のようだ。若干化粧が濃い気もするが、貴族令嬢のほぼ全員が厚化粧なので気にすることではない。肩書きや容姿は王の目から見ても完璧だ。


 しかし残念ながら、彼女の性格にやや難があった。



「うふふふっ!! 如何(いかが)ですか、このわたくしが全国から集めさせた、ありとあらゆる高級食材の数々は!!」


 アリーチェは会場に設置されたキッチンで高笑いを上げながら、せっせと食材を運ぶ調理師たちを(あご)で使っていた。


 料理の腕を競う大会であるというのに、これまでの予選でアリーチェがやったことといえば、本職(プロ)の調理師が準備した具材を炒めたり、出来上がったものを皿に盛りつけたり。素人でもできる、簡単なことばかりだった。


 当然、もうひとりの出場者はこれを見てブチキレた。



「汚いですわよ、アリーチェ様!! 調理の殆どをプロにさせるだなんて!」


 隣りのキッチンに居るアリーチェに向けながらそう叫ぶのは、赤髪をしたグレタ=フリコ嬢だ。


 彼女は王城にある食堂で働く、唯一の女性調理師である。そして年齢はリカルド王子と同じ、十八歳。


 アリーチェとは違い、現場で叩きあげた彼女の料理の腕前は紛れもなく本物だ。口ではアリーチェを(ののりし)りながらも、包丁を握る手は一切止まっていない。



「あら、なんのことですの? 今大会のルールは各候補者が二品分の料理を用意し、審査員にどちらの料理がより王妃として相応(ふさわ)しいかを選んでもらうことのみ。つまり、わたくしのしていることは別にルール違反ではないわ」


「だっ、だからってプロを雇うなんて! そんなの、いくらなんでもズル過ぎるわよ!!」


「悔しいのであれば、グレタさんもそうすれば良かったではないですか。さぁて、会場にいらっしゃった皆様がた!! 我がマイス侯爵家の超!優秀な調理師たちによる魅惑のグルメを、どうぞご堪能くださいまし~!」


 ギャーギャー、ワーワーとステージで(ののし)り合う候補者の二人。これが王妃を決める大事な大会だということをまるで分かっていない様子だ。



「はぁあ……どうして、こんなことに……」


 実は決勝戦が始まってからというもの、彼女たちはずっとこの調子だった。


 王がこれはと思った令嬢は、予選の段階ですでに全員落とされてしまっていた。これは興に乗った審査員どもが、本来の王妃選別の役目を忘れ、本当に味だけで審査を始めてしまったことが原因だった。


 ギロッと眼下の席に座る審査員たちを(にら)む。宰相を始めとした。信頼のおける者たちだ。……普段であれば。それなのに、どいつもこいつも料理に舌鼓を打ちおって。



「(あれほど未来の王妃を見定める重役は自分達に任せろと言っておきながら、こいつらは大会の趣旨を忘れておるのか? これは王妃を決める大会なのであって、至高の料理人を決定する大会なのではないのだぞ……)」


 そもそも、王妃が本格的な料理を出せる必要なんてないのだ。それがどうして……


 主催者であるリカルド王子は、強烈な舌戦を繰り広げている王妃候補たちをジッと見つめている。彼が瞳の奥でいったい何を考えているのか。もはや父である王ですら、ちっとも分からなかった。



「とにかく、(わし)は儂で候補者たちを見定めるとするか……」


 もはや信用できるのは自分だけである。もしもの場合は、王権を行使して無かったこと(ノーゲーム)にしよう。その時は大勢の反感を買うだろうが、それもこの国の為だ。致し方あるまい。




 さて、まずはアリーチェ嬢だが……。



「さすがは元帥の娘だな。気が強く、随分とお転婆に育ったものだ」


 シルクの上等な布であつらえた、ドレス風のエプロン姿をしたアリーチェ。まるで社交場にでも行くような恰好でキッチンに立っている。


 そんな彼女に、隣りで待機していた侯爵家専属の調理師がコソコソと耳打ちをした。



「お嬢様、そろそろメインの方を……」

「そうね! ()()を出してちょうだい!」


 その指示に従い、調理師たちはキッチンの陰に引っ込んだ。そして一抱(ひとかか)えほどの大きさをした保冷用の箱を持って戻ってきた。彼らはそれを調理台の上に置くと、中から木製の(おけ)を取り出し始める。



「む、あれは……もしや、デンテ(赤鯛)か!?」


 桶の中に入っていたのは、ルビーのように赤く光り輝く美しい魚だった。


 あれはモンテルノ王国の北にある海でしか獲れない、大変貴重な鯛だ。しかもまだ生きているのか、まな板の上でピチピチと動いている。



 なるほど、成る程。つまりアリーチェは、この決勝の大舞台のために侯爵家のツテを使ってデンテを仕入れておいたようだ。


 アレは王都に住む高位の貴族でも、そう簡単には口にできない超高級魚。この希少食材を使っただけでも、審査員からの評価はグンと上がるだろう。



「だがいくら食材が良くても、料理の腕前がアレではな。補佐をする者たちも、彼女に怪我をさせぬよう相当に気を使うだろう」


 しかし少し目を離した隙に、アリーチェは大きな刺身包丁を持ち上げようとしていた。包丁が重いのか、よろよろとしていて非常に危なっかしい。


 それに気付いた補佐の者たちがさぁっと青褪めた。アレはマズい。すぐに止めようと手を伸ばそうとするが、もう間に合わない。


「えいっ」


 可愛い掛け声とともに、包丁が真っ直ぐに振り下ろされた。それはまさに、断頭台のギロチンのように。


 緊張で静まり返った会場にダンッ、という音が響く。



「……せ、成功した?」


 誰しもがギュッと(つむ)っていたその目を開くと、まな板の上には綺麗に頭を切断された魚が転がっていた。


 固唾を飲んで見守っていた観衆も、思わずホッと大きな溜め息を吐いた。そしてなぜだか一人二人と拍手が起こり、やがて連鎖するように周囲に広がっていった。



「ふっ……ふふふっ!! いかがです、見事な包丁(さば)きだったでしょう!?」


 満場一致の拍手喝采の中、アリーチェは血に濡れた包丁を持ったまま調理師たちの方へと振り返った。その顔は得意気で、胸をこれでもかと張っている。



「はいっ、お嬢様! (い、今ので寿命がかなり縮んだぞ……)」

「さすがでございます、アリーチェ様! (この人、包丁振り下ろす時に目を(つむ)っていなかったか!?)」


 補佐の調理師たちは観衆と同じく笑顔と拍手で(たた)えているが、称賛を述べているその口は恐怖で引き()っていた。



「それじゃあ、次の作業に取り掛かるわよ!」


 調子に乗ったアリーチェ嬢は、持っていた包丁をそのまま魚に突き立てようとする。


「ちょ、ちょっとお待ちくださいお嬢様!」

「えっ?」


 せっかくの高級魚を手荒く扱われてはたまらない。焦った調理師たちが慌ててそれを引き留めた。



「お、お嬢様はこちらのパンのスライスに、ガーリックオイルを塗ってくださいませ!」

「えぇ~? パンにオイルを?」


 差し出されたパンを見て、アリーチェは嫌そうな顔をする。



「えぇ、魚を捌くのは私どもにお任せください!」

「パンも大事な料理の工程ですので、是非!」

「……そう? ならわたくしに任せるがいいわ!!」


 あなた様にしかできません、と(おだ)てられ、コロっと態度を変える単純なアリーチェ。



ブルスケッタ(おつまみパン)を作るのか。ふむ、楽しみだな」


 用意されたパンに大人しくオイルを塗る様子を見て、モンテルノ王はその料理にあたりをつけた。


 アレは大きく味が外れることのない、比較的メジャーな前菜料理だ。恐らく具として乗せられるのはデンテ。であればその味を想像するのは(かた)くない。




 アリーチェについてはだいたい分かった。


 もうひとりは……グレタか。彼女は食堂の看板娘だと聞いているし、料理の腕は確かだろう。



「さて、彼女は何を作っているのか……んんっ!?」


「グビッ、グビッ……くぅあぁ~、うまぁいっ!! さすが王妃を決める大会で扱うワイン。最高に美味しいわね!」


「はぁ……?」


 思わず自分の目を疑ってしまうような光景だった。


 調理をしているはずの彼女が片手に持っていたのは、大会で供されていた赤ワインの瓶。それを豪快に、グビグビとラッパ飲みをしている様子が目に入ったのである。



「うぃいっ……これから私が作るのは、お酒に合う料理よ! 自分自身で飲んでこそ、どんな料理がお酒に合うのかが分かるの」


 グレタはゲップをしながら、鍋を調理台の火口(コンロ)に乗せた。それは幼児が丸々入ってしまいそうな、とても大きな寸胴鍋である。


 その鍋の蓋を、グレタがパカッと開けた。



「おおっ!?」

「やべぇ、すげぇ良い匂いだぞ!?」


 香味野菜や肉など、さまざまな食材が入っているのだろう。食欲を刺激するような匂いがぶわっと会場に立ち込めた。


 グレタは観客たちがゴクリと生唾を飲み込む様子を見てニヤリと笑う。そして鍋の中にお玉を入れ、何かを(すく)い出した。



「アレはおそらく……キャベツの肉包みですね」

「ロレンツはあの料理を知っているのか?」


 王の隣りに控えていたロレンツ騎士団長は、お玉の上に黄緑色をした卵状の何かが乗っているのを見て冷静に答えた。



「えぇ。私も王城勤めの一員ですので、食堂は偶に利用するのですが……そこであのキャベツの肉包みを見たことがあります。たしかインヴォルティーニという名の料理だったと思いますが、兵たちにもかなり人気のメニューでしたよ。その日は取り合いの喧嘩が起こるほどでしたゆえ」


 このロレンツ団長は主に王都や王族の警備を担当しているのだが、今日は審査員の一人としてここに来てもらっている。


 どうやら彼はグレタや、彼女の出す料理について多少は知っているようだ。



「兵たちが喧嘩……そこまで美味い料理なのか? しかし(わし)は食べたことがないぞ?」

「平民には広く知られた料理ですが、王族や貴族相手に出すようなものではありませんからね。……父上は大変好んで食べておりましたが」

「アイツめ、さては儂に秘密にしておったな……」


 王が言うアイツとは、歴代最強の騎士と名高い先代の騎士団長だ。そしてロレンツ団長の実父でもある。



「……申し訳ありません。余計な口を挟みました」

「言うな。お前と儂の仲じゃろうに」


 ロレンツ団長はスッと視線を下げて謝罪する。

 彼のこういう実直なところを、モンテルノ王はとても気に入っていた。本人は謙遜するだろうが、騎士団長という役目を父から立派に引き継いでくれた非常に頼りになる男だ。


 しかしロレンツ団長が父と似ているのは、その燃えるような赤髪だけ。ギャンブルも女遊びもしないかなりの堅物で、いつも筋トレばかりしている。


 父親は女の尻を追い掛けることばかり考えているような奴だったのに、どうしてこんな真面目な男に育ったのかは謎である。……とはいえ、それはモンテルノ王とリカルド王子も同様なのだが。



 とはいえ、次代がこれなら頼もしい限りである。ロレンツ団長には是非とも、次期王となる息子を隣りで支えてやって欲しい。



 ――ふむ。この男が選ぶ女性だったら恐らく、間違いはあるまい。ロレンツ団長がはたして誰に票を入れるのか……儂も注目しておこう。


 真剣な表情で会場を見つめるロレンツを横目で見ながら、王は心の中でそんな事を考えていた。



 そんな事をしている間にも、グレタの料理はまだまだ続く。


 小麦粉を練った生地で具を包み、それをフライパンで調理したものなど、様々な手法で観客たちを魅了していた。


 高級食材をふんだんに取り寄せていたアリーチェと違って、グレタの食材はどれもありふれたものだ。


 しかし料理の腕前そのものは段違いである。料理の腕を競うという点においては、間違いなくグレタに軍配が上がっていた。



「しかしアリーチェ嬢もやりおる。まさか客たち全員に、食前酒と共にブルスケッタを振る舞うとは。あの味に魅了されてしまった者も少なくはないだろう」


 ブルスケッタ――それは貴族の晩餐でも出されることのある、一口サイズの前菜だ。


 パンのスライスにガーリックオイルを塗り、軽く(あぶ)る。その上に様々な具材を乗せて酒のツマミにするのだ。濃い目の味付けをさせた牛肉やチーズを具にしたバージョンもあるが、今回アリーチェは幻の魚であるデンテ(赤鯛)をチョイスした。


 デンテそのものは白身魚で、自然な甘みがある繊細な魚だ。だからこそ、その調理方法には料理する者の腕が試される。アリーチェは補佐の調理師にアドバイスを貰い、食材そのものの味を引き立たせる、とある方法を取った。


 その方法は至って単純。まずは昆布と酒でシメてから少し時間を置く。ハーブと酢、塩、そして魚醬(ぎょしょう)であるコラトゥーラを混ぜた調味料を掛けるのである。これだけでデンテの味が数段アップするのだ。


 そんな美味いに違いない料理を、あろうことか観客に振る舞った。


 食べた観客たちはその味覚に酔いしれた。客たちはまるで恋にでも落ちたかのように、壇上のアリーチェをぼうっと見つめていた。




「では、これより決勝戦の審査に入らせていただきます!!」


 そんなこんなで、一時間という長いようで短い調理の時間が終了した。



「まずはグレタ嬢!!」


 名前を呼ばれたグレタ嬢が、蓋のついた皿を両手に持って審査員たちの前に現れた。彼女に補佐は居ない。結局、調理から給仕まですべて一人でこなしてしまった。


 毒味役によるチェックののち、モンテルノ王や審査員たちが座っているテーブルの前に皿が置かれていく。



「それでは……実食!!」


 視界の合図と共に、蓋が一斉に開かれた。



「これは……?」


 王たちの目に映ったのは、子供の(こぶし)大のパン生地だった。それも、形が美しく整っているわけでもない。皿の上に十個ほどの白い塊が並べてあるだけ。



「なんだ? あれはパンか?」

「まっさかぁ。いくらなんでも、決勝でただのパンを出す馬鹿がいるか?」


 決勝の舞台に、いったいどんな豪勢な料理が出てくるのだろう。そんな期待をしていた会場の観客たちは、地味な見た目の料理にガッカリしてしまっている。


 それでもなお、壇上のグレタは自信満々の表情を崩さない。



「何かある、と見て良いでしょうな」

「ロレンツもそう思うか」


 白の塊からは未だに湯気が立っており、熱々なのが見て取れる。それになんだか、胃を刺激するような良い匂いがしている。これがただのパンであれば、こうはならないはず。



「これはまさか、パンツェロッティか?」


 審査員の一人である法務大臣が驚きの声を上げた。彼は誰もが認める、この国一番の美食家だ。



「パンツ……え?」

「パンツェロッティです。下着じゃありませんよ、陛下」


 そんな事は分かっている。確かに女性物のカボチャパンツのような、モコモコした見た目をしているが、断じてパンツなどではない。



「いわゆるパンの包み揚げです。……しかし、それとも多少異なるようですな。実際に食べてみましょう」

「一口で食べられるサイズにしてありますので。どうぞそのまま、ひと口でお召し上がりください!」

「ふむ。調理した者がそういうのであれば、そうするとしよう」


 グレタに言われた通り、フォークでブスリと刺す。それをひと思いに口の中へと放り込んだ。



「こっ、これは……!!」


 噛みしめた瞬間。パリッとした食感の後、舌の上で旨味が爆発した。


 ――これはチーズだ。それにトマト。熱々のとろけた濃厚チーズとトマトのソースが(あん)として仕込まれている。トマトソースにはひき肉も入っていて、肉の良さも味わえるようになっている。


 これは酒に合う。間違いない……!! 


 ジョッキに用意されていたエールを左手で引っ掴み、中身をゴクゴクと飲み干していく。そして次のパンツェロッティを口へ。今度の中身はスパイシーな肉詰めとハーブだ。これは一つ一つ、タネを変えてきているのか!



「法務大臣よ、パンツェロッティと言ったか? これは珍しいピッツァだな。表面を揚げてあるのか?」

「いえ、すみませぬ。どうやら私の思い違いだったようです。これは異国のパオズを参考にした、まったく別の料理でしょう。フライパンに薄く引いた油で底面を揚げつつ、蓋をして蒸すことで中身はジューシーに仕上げている。いや、実に見事ですな」


 ほほう、そうなのか。

 まさか王城勤めの食堂係が異国の料理まで修めているとは。これなら外交官が訪れた際にも振る舞えるかもしれぬ。


 いやはや、さすが人気の食堂娘。やるではないか。次の料理も楽しみになってきたぞ?



「たしかもう一つの料理は、インヴォルティーニ(キャベツ包み)と言ったか」


 しかしこの様子だと、その料理にも何か工夫がされているに違いない。


 一品目を食べ終えると、テンポ良く二品目が運ばれてきた。



 さっきよりも底の深い、スープ皿だ。今回も蓋がされており、まだ中身を見ることはできない。



「……ふむ?」


 順番的に言えば、二品目はメインとなる料理だ。通常、サラダやスープは先に出される。まさか順序を間違えたのかと、誰しもが思った。



「まぁこの際、順番などどうでもよい。大事なのは味なのだからな」

「陛下の仰る通りですな!! ははは!!」


 すっかり王もこれが王妃選びだということも忘れ、ワクワクしながら蓋を取り払った。


 いざ蓋を開けてみると、審査員たちは更に首を(かし)げることになる。



「これが……インヴォルティーニ(キャベツ包み)?」




 深皿には赤いスープの海が広がっていた。その中心には、孤島のように緑色の丸い陸地が浮かんでいる。


 この緑色がキャベツか。ならばこれがインヴォルティーニ(キャベツ包み)なのだろう。クンクンと匂いを嗅げばトマトの匂いがするし、スープの赤はこいつに違いない。



「よし、いただくとしよう」


 グレタはこれもひと口でガブリと(かぶ)り付いてくれと言う。かなりお行儀が悪い食べ方であるが、審査員たちは誰も気にした様子もなく次々とフォークを突き刺した。



「むっ!? うぉおおっ!!!!」


 肉食獣の狼のようにガブッと噛み付くと、先程のパンツェロッティ(パンの包み揚げ)とはまた違った肉汁が口の中に(あふ)れ出した。中にトロトロになるまで煮込まれた、特大の牛肉が仕込まれていたのだ。



「な、なんという旨味の暴力!!」


 恐らく肉はあらかじめ、別の鍋で調理されたのだろう。ハーブや香辛料、フルーツや香味野菜などの風味が感じられ、肉そのものの美味さを引き上げている。


 しかし、この料理の美味さのポイントは他にあった。なんと、キャベツの中に隠されていたのは牛肉だけではなかったのである。



「この肉の周りにあるのは……これはライスか!」


 目を真ん丸にしたモンテルノ王が料理の断面を見ながら叫んだ。キャベツと肉の間には、リゾット状の米が詰まっている。



「これは凄いですよ! ただ量を(かさ)増しするために入れたのではない。肉や野菜の旨味を、ライスにすべて吸収させているのですね!!」


 ロレンツ団長の考察通りだった。旨味のスープを吸った米が、あらゆる食材の良さを一つにまとめ上げている。まさに調和。


 これまでの予選では辛口の品評ばかりだった法務大臣ですら、あまりの感動にボロボロと涙を流していた。


 審査の行方を見守っていた観衆たちも、いったいどんな味なのだろうかとゴクリと生唾を飲んだ。



「これはもう、決まってしまったのではなかろうか」


 まだアリーチェ嬢の料理は出ていないが……ここまでのインパクトのある品は出せない気がする。ましてや彼女は本職の調理師ではない。これまでの料理を見ても、高級食材や補佐に頼ってばかり。それではグレタには勝てない。



「他の審査員たちも同様か……それも仕方あるまい」


 彼らはワインを片手に、満足そうな表情を浮かべている。


 そう、すでに満ち足りてしまっているのだ。たとえこれ以上の品を出されたところで、胸やけがするだけ。


 この料理大会の主役であるリカルド王子も苦しそうにお腹を(さす)っていた。



 事前にクジで決めた順番だったが、アリーチェは運が悪かった。


 これもまた天命か、とモンテルノ王は少し残念そうに嘆息を吐いた。



「では、次はアリーチェ嬢です!!」


 司会がそう叫ぶも、会場の空気はすでにグレタ一色で染まっている。ブルスケッタ(おつまみパン)も良かったのだが、今はグレタの料理だ。


 さらにアリーチェを不運が襲う。アリーチェの皿も、グレタのインヴォルティーニ(キャベツ包み)と同じスープ皿。つまりは二番煎じになる可能性が高い。審査員たちの期待値もあからさまに急降下していた。


 壇上のアリーチェは少し緊張した面持ちだ。それでも決して(おく)することなく、給仕されていく皿をしっかりと見つめていた。



「ではどうぞ!!」


 すべての皿が出揃ったところで、再び一斉に蓋が開封される。



「これは……リゾットか?」


 皿の中にあったのは()んだ黄金色のスープに、底に沈んだ米。しかし通常のリゾットとは異なり、ややスープの分量が多いし具も(ほとん)どない。量はともかく、見た目は綺麗である。



「見た目の派手さは無いが……ふむ、食べてみよう」


 これまで派手な振る舞いを続けていたアリーチェのイメージからすると、この料理は意外だった。そもそも、高級魚のデンテはどこへ行った。まさかブルスケッタにすべて使ってしまったのか!?


 王は銀の(さじ)(いく)ばくかの米とスープを乗せ、口へと運ぶ。



「……なんと」


 じんわりと舌に()みるように、魚の旨味が凝縮された潮味が広がっていく。


 薬味にショウガが入っているのだろう。胃から全身が温まり、何とも心地良い満足感が襲う。まるで広大な海に揺蕩(たゆた)うような感覚だ。


 しかもあれだけ腹が膨れて苦しかったのに、いくら口にしても負担にならない。むしろ食欲が湧いてきた。これなら、二品目も食べられるだろう。



「うむ。素晴らしい品であった。して、二品目は?」


 モンテルノ王は司会に尋ねるが、彼は脂汗をかいてしどろもどろになっている。



「どうしたのだ。早く次の料理をもて」

「いえ、それが。その……」

「申し訳ありませんが二品目はありませんわ、陛下」



 それまで大人しく事の次第を見守っていたアリーチェ嬢が、ようやく口を開く。



「アリーチェ嬢、それはどういうことだ?」


 モンテルノ王の代わりに、法務大臣がアリーチェにやや冷淡な声で尋ねた。



「言葉のとおりでございます。わたくしの料理はそちらの料理で最後ですわ」

「なんだと!?」


 これには会場の観客たちも一気にざわついた。なにせ大会ルールは一人二品を提供すると決まっている。つまりこのままではアリーチェは失格となってしまう。



「勝負を捨てる。そう申すのか、アリーチェ」


 王は(たま)らずそう問うた。傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度だったアリーチェも、さすがにビクっと身体を弾けさせたが、すぐに毅然(きぜん)とした表情で頷いた。



「では仕方あるまい。大会の規定に(のっと)り、リカルドの伴侶はグレタということで……」



「お待ちください、父上」



 優勝者が決まりかけた、その時。王に物申す者が現れた。



「今回の勝者――ひいては私の伴侶となる女性。それはアリーチェにしたいと思います」

「……なんだと!?」


 思わず王は席から立ち上がり、自身の息子に向けて大声を上げた。



「リカルド。お前は自ら開催した大会でルールを破る気か?」


 正気を疑うような発言の真意を、会場にいるすべての人間を代表してそう(たず)ねた。おそらくはこの場でそんな事を言えるのは王しかいない。



「グレタの作る料理は非常に素晴らしかった。ですが、私はアリーチェ嬢の作った料理……というよりも、彼女の姿勢に惚れたのです」


「姿勢、だと……?」


「はい。彼女は料理中、グレタ嬢の作る料理を見て我々審査員の腹が膨れることを見越していたのです。そして自身が責められることも(いと)わず、メイン料理を民衆に振る舞うことにした。その機転の良さと優しさを深く評価したい」


 たしかにアリーチェは料理の終盤、補佐の調理師にコソコソと何かを相談していたようだった。それをリカルド王子は見逃していなかった。



「しかし、リカルドよ。それでもルールはルールであろう? それを我々が、みなの前で破るというのは……」


 王は内心で冷や汗をかきながら、本来の目的を遂行しようとする。すっかり料理を楽しむ大会の気分になっていたが、締めるところはキチンとせねばなるまい。



「陛下……いえ、父上。私はこの大会の開催を提案した際、こう言ったはずです。『私は料理が上手な女性を伴侶としたい』と」


「もちろん、覚えておるぞ? であるからして、わざわざこのような(もよお)しを……」


「料理とは、それを食べる相手あってこそ。料理が上手というのは、その相手を想定して調理ができること。私が理想とする伴侶は相手を思いやり、行動ができる者なのです」


 思わず、ぐぅという音が出た。


 いや、腹からではない。リカルドの言うことが(もっと)もだったのである。



「たしかにアリーチェは料理があまり得意とは言えないかもしれませんが、人を頼るという点においては非常に優れております。意地を張って自分でやろうとしたりもせず、適切な人材を用意して頼る。これも為政者として必須のスキル。そしてこの国の特産品や地理を良く勉強していることも分かります。そして民に恵みを分け与える……これも貴族としての努めであります」

「わ、分かった。分かったから、もうよい!!」


 モンテルノ王はやめさせようとするが、一度スイッチの入ってしまったリカルドは止まらない。審査員席から壇上に向かい、ポカンとしているアリーチェの手を取った。



「見てください、この切り傷と火傷だらけの手を。努力を殊更(ことさら)にアピールすることもなく、真摯に大会に参加していたのです」


「リカルド様……」


「一品料理が足りないのは事実。かといって、彼女を失うのはあまりにも惜しい。――よし、それではこうしましょう」


「えっ、きゃっ!?」


 突然、リカルドはアリーチェの頬を抑え、口付けをした。



「二品目は愛だ!! これはどんな腕の立つ料理人でも作り得ぬ、唯一無二の作品だ!!」


 一瞬の静寂ののち。わぁああと会場が湧いた。


 これは誰しもが次期王妃をアリーチェと認めた瞬間だった。とてもじゃないが、異論をはさむ雰囲気ではなくなってしまった。拍手喝采の中、アリーチェはうれし涙を流しながら、民衆に向かって綺麗な一礼をした。



 こうしてリカルド王子の嫁探しは、審査員たちを置いてけぼりにしたまま終了した。


 結果だけ見れば侯爵家、それも王国軍の元帥の娘が王妃となるのだから順当とも言える。貴族側からも、国民からも特に不満は出なかった。


 だがモンテルノ王はどうしても胸中のモヤモヤが(ぬぐ)いきれない。あの大会は茶番だったのではないかと思いながら、食後の腹ごなしに王城をプラプラと歩いていた。



「あの場では言えなかったが、あれではあまりにグレタ嬢が可哀想だ。(わし)から誰か良き相手を紹介してやるとするか……ん?」


 いつもの散歩コースである廊下の角を曲がろうとしたところで、ちょうど(くだん)の人物、グレタを見つけた。それも、誰かと一緒にいるようだ。



「あれは……ロレンツではないか。何をしておるのだ……?」


 自分の城でコソコソする必要もないのだが、壁際に背を預けて盗み聞きをする国の最高権力者。



「その、グレタ嬢。先ほどの大会は残念でしたね……」

「いえ、そんな私は……」


 どうやらロレンツ団長は、惜しくも決勝で敗れてしまったグレタを慰めているようだ。


 たしかにあの判定には不満を抱いていてもおかしくない。息子の独断に、王はあらためて申し訳なさを感じていた。



「こういっては何ですが……私としては、グレタ嬢の料理の方が好きでした」


「えっ?」


「あっ、その。ほら、私は身体を動かすのが仕事ですので。あぁいった塩気のあるものや、酒に合う料理が好きなのです。職務上、あまりそういった店に行けないのが残念ではあるのですが」


 赤髪をポリポリと掻きながら、フォローを続ける。何事にも動じない彼が、珍しくしどろもどろだ。



「それで……その。もし、グレタ嬢さえ良ければ。私の家で料理を作ってくれたりしないだろうか」


「ロレンツ様、それってもしかして……」


「あぁ。つまり、そういうことだ。その、食堂で見掛けた時から、ずっとキミのことを(した)っていたのだ……」


 すっかり顔を髪と同じ真っ赤にさせながら、ロレンツは一世一代の告白をしていた。



「うれしいです!! 私もロレンツ様をお慕いしておりましたので!!」


「グレタ嬢?」


「実は私、審査員にロレンツ様がいるって聞いて。ロレンツ様の好きな料理も、騎士団の方にこっそり聞いて……」


「で、では最初から私を……?」


 コクン、と頷くグレタ。そんな彼女を、ロレンツは感動のあまり抱き寄せた。



「なるほど。だからグレタ嬢は文句の一つも言わず、あっさり身を引いたのか」


 はからずともお熱い現場を目撃してしまったモンテルノ王は、恐ろしいものを見たと戦慄していた。


 おそらくグレタ嬢は、自分が選ばれたとしても辞退していただろう。つまり最初からすべて計画通りだったのだ。



「ふ、ふふ。なかなか(したた)かな者達が揃ったようじゃ。将来が楽しみじゃのう……」


 次代の若者はキチンと育っていた。彼らがいれば、この国の将来は安泰だろう。



「さぁて。今日はめでたい日じゃ。晩餐は豪華にさせ、盛大に祝ってやろうかの」


 その時が来るまで、自分は王としての仕事をまっとうするだけだ。


 モンテルノ王は満足気に笑いながら、来た道をゆっくりと引き返していった。



最後まで御覧くださり、ありがとうございました!

実際のイタリア料理がベースとなっています。

もし興味がありましたらレシピを検索してみてくださいね!

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― 新着の感想 ―
[一言] みんな自分の幸せのために一生懸命で、収まるところにちゃんと収まりましたね♫
[良い点] みんないい人!ごはんも美味しそう! ごちそうさまでした。
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