十六ページ目:執筆配信をした日
「はい、皆さん、セイハロー! ホッシーでーす」
時間が過ぎるのは早いものでデビューから2週間ほど経った。すでに慣れたいつもの始まりの挨拶をして今日の配信が始まる。だが、今日の配信は俺にとって少しばかり不安のあるものだった。
「今日はですね、短編小説を書きたいと思います」
そう、執筆系Vtuberとして初めて配信で書く執筆配信だったのだ。もちろん、ニコ生時代から話しながら小説を書くという行為はそれこそ数えきれないほどやっていたので慣れている。
しかし、Vtuberとして活動していくと決めた今、リスナーさんが楽しめるような配信にしたい。前にも書いたが、執筆配信は画面のほとんど動かず、ニコ生で執筆配信を何度も経験していたといっても書いている間は無言になることが多かった。そんな配信を長時間、見ていられるリスナーさんは常連で俺の配信に慣れている人以外にはいないだろう。
「なお、今回は即興短編小説を書いて朗読する配信です!」
そこで考えたのは『即興』と『朗読』。『即興』で書くことでパフォーマンス感を出しつつ、『朗読』することで書いた成果をきちんとリスナーさんに聞いてもらう。更に書くジャンルを短編にすればダラダラと小説を書き続ける様子を垂れ流す心配もない。言ってしまえば、執筆→朗読といったように区切りを用意したのである。
「更にですね、即興短編小説を書くにあたってとあるサイトを使用したいと思います」
そう言いながら画面に今回使用するサイトを表示する。
このサイトはランダムで『お題』と『必須要素』を選出し、制限時間も図ってくれる、この配信にうってつけのサイトだった。むしろ、このサイトを見つけたからこそこの配信を思いついたと言っていいだろう。
「二次創作バージョンもあるようですが、今回はオリジナルでやりたいと思います。そして、このサイト、Twitterと連動してます」
このサイトを使用して書き始めた時と完成した時にTwitterと連動していれば自動的にツイートしてくれる機能もあってTwitterを見た人にもアピールできる。宣伝力もバッチリだ。
「書いてはいないんですが、試しにやって見た時はお題が『猫の娘』。必須要素は『豚肉』だったと思います」
お題は制限時間と時間帯によって変わるらしく、例えば制限時間が1時間の場合、21時~22時までは同じお題が出るようだ。必須要素は完全にランダムである。
「まぁ、簡単に言ってしまえば『ランダムでお題を出すので制限時間内に小説を書こう!』というサイトですね」
なお、制限時間を過ぎるとそれ以上、入力ができなくなる上、後から加筆も不可能。つまり、未完成の小説は未完成のまま、投稿されてしまうのだ。後から小説を削除できるとはいえ、これでも9年以上、小説を書き続けている身だ。それは極力避けたいところである。
「制限時間は1時間。必須要素もありでやりたいと思います」
自分の書くスピードを考えると制限時間が15分、30分では書き切れる自信はなく、2時間以上だと配信を見ているリスナーさんが飽きてしまう可能性が高い。1時間も決して短くはないが妥当だろう。
「じゃあ、そろそろやっていきましょうか」
そう言いながら軽く深呼吸する。書き慣れているとはいえ、即興で短編小説を書いたことがない。いきなりお題を出されてパッと話の内容を思いつくことができるのか。内容は決まっていても制限時間内に書き切れるのか。
「ちょっと、本気出すよ、ホッシー。これでも執筆系Vtuberですからね」
そんな不安を蹴飛ばすようにそう言い切った。不安要素は山ほどあるが、やってみないことにはわからない。
まずは挑戦する。Vtuberになって改めて気づいたチャレンジ精神の大切さ。それをここで発揮せずしていつ発揮するのだ。
「それじゃ、いきますよ。よーい、ドン!」
その合図と共に挑戦するというボタンをクリックすると画面が切り替わり、上にお題と必須要素、残り時間が表示された。
「まずはお題ですね。『反逆のクレジットカード』。必須要素は『手帳』……なるほど?」
あ、うん、終わったかもしれない。
「うん、行けそうですね」
『反逆のクレジットカード』というお題のインパクトに最初は動揺してしまったが、1分ほどで話の大まかな流れを思い付き、さくさくと書き進める。もちろん、途中、リスナーさんのコメントに反応しているが、コメントが止まればひたすら無言。さすがに自分から話題を探しながら小説を書くことはできないのでコメント待ちになってしまうのは許して欲しい。
「うーん、誤字脱字はいいかな。完成です」
思いのほか、スムーズに書き終えてしまい、制限時間15分ほど残して完成のボタンを押す。すると、タイトル入力画面に移行したので配信画面から消してちょっと悩みながら決める。
「はい、完成しました。早速、朗読しましょうか」
タイトルも決まり、ツイートされたのも確認し、すぐに朗読することになった。
「では、いきます。タイトルは――『反逆者』」
「……はい、以上でございます!」
朗読を終え、ホッと安堵の溜息を吐く。多少、荒いところはあるが初めてにしてはいいのではないだろうか。やろうと思えばできるものだな。サイトのタイトルに戻りながらそんなことを思った。
――ギャグ漫画wwwじゃないですかwwww
――ちゃんとお題通りで草
「だって、お題が『反逆のクレジットカード』だぞ! そりゃ、ギャグになるに決まってるでしょう!」
コメントに対して全力で叫ぶ。これでドシリアスな短編小説を、それも即興で書けたら尊敬に値する。正直、自分にはできる気がしない。
「それじゃ、次に行きましょうか。よーい、ドン!」
初回を無事に成功させた勢いのまま、次のお題に挑戦。次はもっと簡単なお題が来ればいいなと思いながら挑戦するボタンをクリックした。
「お題は『彼とサイト』。必須要素は……『自殺エンド』!?」
うん、やはり、この小説は無茶振りが酷すぎる。
この後、俺はなんとか小説を完成させ(最後、ギリギリのところで書き切れなかったがそこをあえて伏線にすることで完成させた)、朗読して配信を終えた。
だが、大変だったのは確かだが、それ以上に楽しかった。やはり、俺は小説を書くのが好きなんだと実感できた配信だった。だからこそ、これを機に『即興短編執筆配信』をすることになったのは当たり前の話かもしれない。
この小説を書いている今は忙しくて最近できないがまた定期的にやりたいと思っている。
さて、次回のお話だが、今のところ、予定は考えていない。もしかしたらかなり時間が飛ぶかもしれないけれど当時と現在とでは色々と変わってしまったので許して欲しい。
それでは、皆様、また、次のお話でお会いしましょう。
反逆者:http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=560289
彼くんへ 好きだよ:http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=560352
アーカイブ:https://www.youtube.com/watch?v=FlI45VLEg5U




