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サイバーパンク・デモクラシー  作者: 六年生/六体 幽邃
3部 環境汚染「強欲」
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7章 廃神社


 7章 廃神社


 上層街が遠くなり、山が近くなる。

 コンクリートのビルが減り、木々が多くなる。

 

 人気の無い山の中を進むと開けた場所に出た。

 フォックスが木々の中に見える建物を指差す。


「あれです。あの廃神社……」


 随分と立派な神社があった。

 

「廃神社……? 随分キレイだが」

「書類上は廃神社ってなってるが……」

「宗教法人法成立前……、いや書類が廃神社になってるならその後か」

 

 昭和26年に宗教法人法が成立。


 それ以前に立ち行かなくなった神社や寺の土地は各自治体の管轄になっている。

 成立以降に立ち行かなくなった神社や寺は名義等が変更されず放置されている。

 

 どちらにしても誰かが管理している土地であるのは間違いない。


「つまりアレは」

「土地だけは持ち続けてたか、不法占拠して建て直したんだろうなぁ」

 

 鳥居や本殿を外から見る限り、他の神社と変わらない。

 浮浪者の姿は見えず、立派な漆塗りの鳥居を見るに、不法占拠とは思えない。

 

「ハンター様御一行ですね。お待ちしておりました。

私この神社の神主……、コンダクターと申します」

 

 霊障対処課のような服装をした男が何時の間にか背後に立っていた。

 20代後半、ハンターと同じ位の歳だろう。


「むさ苦しい所ではありますがどうぞ」


 コンダクターがそう言って神社の中へと誘う。

 3人がフォックスに向かって視線を向けるのと、フォックスが目を逸らすのは同時だった。


 ●


「如何ですか」

「……まだ何とも」

 

 神社の中に案内され、シーカー達は中を検め始めた。 

 ハンターはコンダクターと向かい合い、様子を伺っている。


 流石に室内でヘルメットは外し、インカムに付け替えている。


 特に変わった所は無い部屋だ。

 畳の上にテーブルが有り、2人は茶を飲んでいる。


 コンダクターは後ろ暗い所など何も無いように振る舞っている。 

 まずは、とハンターは基本的な確認を始める。 


「神社や寺との霊障の関係は御存知で?」

「大体の所は……」

 

 古い場所、つまり神社や寺、遺跡等に霊障は現れる。

 ここの神社がどれ程の古さかは判らないが相応の物が現れるだろう。


 条件が整えばだが。

 

「と言っても神社や寺に祀られるようなのになると、滅多に出てきません。相応の準備が必要でしょう」

「では」

「かと言って他の神社が何の対策もしていない訳ではありません。霊障は確かに居る」

 

 何らかの形を得るか、ただの電子の塊としてその場に在るか。

 今は後者なだけだ。


「神社関係者は儀式や奏上を執り行ったり、霊障対処課としては神社仏閣の立入検査や、

場合によっては職員が神官を務めたりします」

「……そんな事まで」

 

 コンダクターが少しだけ驚きの表情を見せる。

 ハンターも最初に聞かされた時は同じ様に驚いたものだ。

 

 その上で、とハンターは続けた。

 シーカーから通信が入る。


「この痕跡は看過出来ない。それが結論です」

「……」


 ここはクロだ、と。


「何時からです?」


 ハンターはシーカー達の報告を聞きながらコンダクターに聞く。

 かなり古い痕跡であり、現在は使われていないとの事だ。


「両親が継いだ時には既に……。聞いた話ではそれ以前からの付き合いだと」

「御両親は?」

「昨年、亡くなりました」


 相応の人数に対する強制的な思想の誘導の痕跡。

 恐らくは電子ドラッグを使った思考の強制的な制限。

 それによる電子への干渉。

 

 カルト宗教の手口を用いた人工的な霊障の発生だ。

 電子の状態であれば観察に留めるが、霊障として現れたのならば対処の必要がある。

 

 コンダクターが虚ろな目でハンターを見た。 


「皆で神様を降ろせば幸せになりませんか」

「……」

 

 赤い西日が2人の間に差し込む。

 コンダクターが外を見た。

 

「もう遅い。部屋を用意しましたのでごゆるりと」

「……どうも」


 コンダクターが立ち上がり退室した。

 日が沈む。


 ●


 霊障対処課は別室で食事を摂っている。

 コンダクターは先に食事を済ませ、縁側で休んでいる。


「それで」

「あら」

 

 勝手知ったる、という風にフォックスが茶を煎れてきた。

 まだ熱いそれを口に含む。


 コンダクターは中庭を見ながらフォックスに問う。

 とぼけたような顔をする女狐に更に問を重ねる。

 

「閣下は何処まで」

「あぁ、全部御存知ですよ。今更仲違いする仲でも無し、何の心配も要りませんわ」


 閣下、組織の長の名前を出しても飄々としたものだ。

 

 見た限り20後半にしか見えない女が扇子越しに息を吐いた。

 この女を初めて見たのは20年程前だが全く姿が変わっていない。

 

「お前は閣下に忠実だと思っていたが」

「お互いの一線を踏み越えない限り、ね」

「……お前の永遠の美、その邪魔になると?」

「それはアナタ次第ねぇ」 


 変わらぬ調子のフォックスの言葉に森がざわめいた。

 コンダクターの全身が総毛立つ。


 夜にも関わらず鳥が荒々しく鳴き、脇目も振らずに逃げていく。

 池の魚が水飛沫を上げ、水面が激しく揺れる。 


 霊障。

 神社に居るそれとはまた違う、何かの指向性を持った生き物。

 

 フォックスの中からそれは滲み出ようとしている。


「そのままならば喰われるだけよ」

「……」

 

 空気が戻る。

 これ以上言う事は無い、という風にフォックスが立ち去る。


 冷めきった茶をコンダクターは飲み干した。


 ●


 霊障暴露。

 特殊装備展開を承認、解析を開始します。

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