5章 錆落とし
5章 錆落とし
霊障対処課。
警察、自衛隊とは別系統の、戦闘を許可された部署。
設立にあたって想定された敵は年代推定不能の霊障。
建国より古き、未だ現れぬ災害。
●
部屋は金属とコンクリートで作られている。
何本もガラスの筒が配置されている。
むき出しの配管と配線。
使用用途不明の機械。
床に戦闘の邪魔になるような障害物は無い。
目に見える物はこの程度だ。
まずは敵の注意をハンターに引きつける。
向かってくる亡者を斬り捨てた。
敵意を感知した亡者達が迫ってくる。
ガラスの筒が砕け散る。
ハンターは降り注ぐ破片に構わず走る。
足を止めるのは自殺行為だ。
物陰の間を縫いながらハンターは観察に徹する。
何人かの亡者が掴みかかってくる。
亡者の口が齧りついて来る。
叫びによる威嚇。
主だった行動は以上だ。
視界は柱を構成する亡者間で共有されているのだろう。
見える範囲でハンターの居場所を正確に狙ってくる。
ハンターは切っ先で壁を傷付けながら走る。
甲高い耳障りな音に合わせて亡者が壁にぶち当たってきた。
聴覚も有効。
襲ってきた亡者を斬りつける。
掴みかかってくる際に視線がこちらに集中するのに気付く。
捕獲の際、獲物に全感覚が集中するようだ。
ハンターは男のスマホを探す。
見上げると柱の頂点に居る亡者がスマホを持っていた。
光る画面から次々と亡者が現れ、柱が高くなる。
あれが要だ。
電池切れを待ってもいいが負傷した男が保たないだろう。
「シーカー!」
「ああ」
シーカーがタブレットを操作する。
ブッチャーがマスクの片目を手で塞ぎ、突然の暗闇に備えた。
シールドが暗所モードに切り替わり、部屋の電源が落ちる。
暗闇で柱の動きが一瞬、止まる。
直刀を1本投げ、金属の壁に突き刺す。
金属同士がぶつかり、大きな音が立つ。
亡者達は音のした方向へ突撃する。
ハンターのいる場所とは反対側へぶち当たる。
柱の亡者を踏みつけ、飛び上がり、柱の頂点へ向かう。
踏みつけられた事を感知したのか亡者が戻ってくる。
背後を気にせずハンターは柱を登る。
亡者の視線がハンターや天井に向かった頃、シールドが通常モードに切り替わり、再度点灯。
突然の光に亡者が目を覆い、直刀がスマホを貫いた。
直刀を振り、スマホを振り払う。
着地と同時にサラサラと柱が砂となり崩れていく。
ハンターと亡者は何も言わない。
目を逸らさず、ただお互いに見合うだけだ。
柱の完全崩壊を確認し、ハンターは壁に刺さった直刀を抜き、鞘に仕舞った。
シーカーが報告をしている声が聞こえる。
ブッチャーが別室から男の手下達を引き摺り出している。
「ハンター戦闘終了。負傷者1名、身元不明者10名発見。搬送手配済み。関係各所へ引き継ぎを済ませ戻る」
●
男の治療が終わり、逮捕のニュースが流れてきた。
動機や背後関係はこれから判明するだろう。
男は元々、貧乏な出であったらしい。
ニュースが男の出自を無遠慮に流す。
ハンターはテレビの電源を落とす。
「全く、もっと良いニュースはねぇのかね」
「誰かが本棚のエロ本にゲイ物入れてたぞ」
「そうじゃない! 同じケツなら女の子を寄越せ!」
シーカーとハンターの言葉に恐らく犯人であろう職員が目を逸らした。
全く、と鼻息荒くハンターは栄養バーに齧り付いた。