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3章 東京地下秘密路線


 3章 東京地下秘密路線


 上層街。

 今の官庁街である。

 

 広報用のHPを除いて、役所のネットワークというのは市民が使うインターネットから完全に独立している。

 機密を扱う関係上、当然の処置だ。


 しかし空に浮かんだ事によって物理的なセキュリティも強化された形になったのは誰も想定していなかったらしい。

 

 ●


「そういやマンホールが差別的だからメンテナンスホールにしようぜって話どうなった?」

「漢字で書いたら人孔だぞどこが差別か」

 

 事務所のドアを開き、すぐさま閉めようとすると誰かの足が差し込まれた。

 中から伸ばされた手がブッチャーを引き入れる。

 

 この課の人間ときたら人を不幸に引き摺り込むクソッタレしか居ない。

 

 ブッチャーは渋々、事務所に入る。

 せめて音が漏れないように、とドアを閉める後ろで2人が馬鹿話を続ける。


「確かにマン、だと男の意味にも取れるが男の孔って何だよ」

「ケツ?」

「下水だしな。それだったら人の孔でいいだろ、どっちにもあるんだし」


 だよな、とシーカーが頷く。

 ハンターが納得がいかない様子で話を続ける。

 

「大体、メンテナンスホールってどう訳すんだよ」

「メンテナンス……。補修、整備、手入れ、生活費……」

「手入れ孔……。そういやアレ、専用の器具じゃないと開かないんだっけ?」 

「いやらしい……」

「お前らの頭がな!」

 

 とんでもない方向に行きかけている話をぶった切って止める。

 ブッチャーの声に合わせて丁度良く、事務所のドアが乱暴に開かれた。


 仮面を着けた男がドアを開けたようだ。

 さては話が終わるのを待っていたな、とブッチャーが軽く睨みつけると男が目を逸した。

 

「ハンター、仕事だ」

「へぇい」

 

 そう言ってハンターが立ち上がる。


 ●


「麻薬入りの栄養バー?」

「貧困支援を行っている団体がこれを所持、配布していました。

団体関係者は逮捕、現在、暴力団関係者等に聞き込みが入っております」

 

 上層街から来た役人が説明する。


 応接室でブッチャーが怪訝な表情を浮かべる。

 テーブルの上に置かれているのは何の変哲もない栄養バーのように見えた。

 

 貧困ビジネスは昔から後を絶たない。

 生活保護の横取り、炊き出しや生活相談経由での不法な仕事の斡旋。


 しかし、不法の証拠が無いからこそ警察は手を出せなかった。

 それがどうした事か、とシーカーは首を傾げる。

 

「ちなみに食べた人は?」

「現在、治療中です」

「はぁ、お疲れ様です」

 

 今の所、霊障対策課が出る話は無い。 

 何故ここに? というシーカーの疑問を読み取ったのか役人は更に続ける。

 

「今度は夜の街で流れるようになりまして」

「犯人は自殺志願者か何かで?」

 

 聞き込みが行われている状況で動く暴力団は居ない。

 つまり、関係者では無い確率が高い。

  

 そして、そんな状況で更なる事件が起きる。

 自分達の御膝元で、無断で。

 

 自殺志願者と言われても何の反論も出来ないだろう。


「捜査の結果、旧官庁街の地下秘密路線から運び出されている事が判明しました」

「地下秘密路線……?」

「はい、東京地下秘密路線」


 そこまで言われてシーカーはその存在を思い出す。 

 

 東京の地下鉄、その更に下層。

 何時の間に建設されたのか、地下鉄の写し絵が更なる地底に現れていた。

 軍の秘密施設だとか、研究施設だとか実しやかに囁かれる施設。

 

 立ち入った際、霊障の存在は確認したので、ある程度、古いのは間違いない。

 だが。


「何処まで我々に依頼したいんです?」

「……」


 シーカーの言葉に役人が考え込む素振りを見せる。

 逮捕ならば警察、霊障ならば霊障対処課だ。


 警察に霊障は対処出来ず、霊障対処課に逮捕権は無い。


 ●

 

 東京地下秘密路線。

 通常の地下鉄とは違い、山手線の各駅から市ヶ谷に向かって道があるらしい。


 何かがあるとすれば市ヶ谷だろう、と役人は言った。

 

 3人は東京駅から更に地下へと向かう。

 人の声が消え、轟々と風の抜ける音がする。


 無人のホームに降り立つ。

 東京駅とそう変わらない作りだ。

 

 電気が通っているのか、点々と照明が路線を照らしている。

 線路を見ると、最近、人が立ち入った跡がある。

 足跡からして電車は通っておらず、徒歩で移動しているようだ。 


 ハンターはヘルメットを被り、周囲をスキャンする。

  

 柱の影から男が飛び出してくる。

 ハンターが腕を捻り、男を床に押し付けた。

  

 別の足音が聞こえる。

 慌ただしい足音は遠ざかっていくようだ。

 

「ふーん?」

 

 藻掻く男を抑え付けながらハンターは思考する。


 相手の力量を測り、情報の持ち帰りと報告を優先する知恵はある。

 しかし足音を消す知恵と冷静さは無い。


 ハンターは床の男の装備を見る。


 市販の霊障対処グッズを多少改造した物を身に着けている。

 2年物の霊障、具体的に言うとラップ音を起こす程度の霊障には対処可能。

 

 マスクも着けていない。

 霊障に対しては完全な素人だ。


 不良やチンピラにしては頭が回り、それにしては荒事慣れしていない。

 何かの武装した思想団体、それも未完成な物かと結論付ける。

 

 そして、ここは警察の装備でも問題無い場所である事がわかる。

 余程のイレギュラーが無ければの話だが。

 

 同様の結論に達したシーカーが上の警察に連絡を入れる。

 程無くして、数人の警察官が男を引き取りに来た。

 

「状況に応じて出来る限りの事をして欲しい、ね」

「何ともまぁ政治的な」

「まぁしゃあねぇ。俺らに逮捕しろなんて言えねぇだろ」 

 

 ならばやれる事は限られている。

 

 追い立てて、地下から追い出し、後は警察に。

 それが今回の方針だ。

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