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サイバーパンク・デモクラシー  作者: 六年生/六体 幽邃
1部 麻薬中毒「憤怒」
3/16

2章 其のハンター、元官庁街にて最強


 2章 其のハンター、元官庁街にて最強


 ホコリやカビを吸い込まないように3人はマスクやヘルメットを被る。

 

 中央合同庁舎第5号館、厚労省の中に入り、少し登って足を止める。

 異変に気が付いたのは散乱した資料を見たからだ。

 

 年月を経て廃墟のようになっているとはいえ、元官庁街は何度も修復し外観を保っている。

 霊障との戦闘後は安全を確保した後、補修や修理を行うのが常だ。

 

 ましてや書類を床に放置、それもぶちまけられているなど有り得ない。

 ここにあるのはどれも貴重で重要な資料で史料だ。

 

 何者かの痕跡はまっすぐ奥に続き、行く先を示している。

 シーカーはタブレットで地図を表示し、2人に送る。

 

 2人が頷き、先に進む。

 ブッチャーが足元や天井を確認しながら進み、シーカーは最後尾を歩く。


 ボロボロの階段を登り、上へ上へ進む。

 

 ちなみに厚生労働省はこの建物の1階から2階。

 4階から21階、3階と22階の一部である。


 ちなみに1階はエントランスやエレベーターホール、4階は会計課なので、今回は通り過ぎる。

 

 足音が空虚に反響する。

 代わり映えのしない空室が続く。


 登り続け足が疲れてきた頃だ。

 開きっぱなしのドアの向こう、空室の中に妙なものが見えた。

 

 学生が居る。

 机などは撤去され、何も無い部屋の中に学生が立っている。

 見た所、何の装備も無いただの素人だ。

 

 ゆらゆらと妙に足取りがおぼつかない様子だ。

 何かを呟いているようで、ブツブツと声が聞こえてくる。


 シーカーはペストマスクに付いている集音機能を使う。

 

「ドラッグに、命じられた書類を、破棄して、燃やせ」

「正義と、良心と、未来の為に」 

  

 シーカーは何も言わずタブレットで2人に合図を送る。

 学生はこちらに気付いておらず、こちらに背を向けている。

 

 電子ドラッグの患者か。


 そう思ったと同時に学生がぐるりとこちらを向いた。

 奇声を上げ、ハンターに飛びかかってきた。

 

 ハンターの全身に着けている青い反射ベルトが目立ったからだろう。

 ヘルメット、ミラー加工のシールドに学生の顔が写り込んだ。

 

 シーカーとブッチャーは急いで上階に向かう。

 2人を捕まえようと動いた学生とハンターが組み合う。


 学生の体が空き室の中に投げ飛ばされた。

 シーカー達は目的の書類を探す。


 ●


「ドラッグに、命じられた書類を、破棄して、燃やせ」

「正義と、良心と、未来の為に」 


 投げ飛ばされた学生が起き上がりながら呟く。

 バチバチと空気が弾け、学生の周りを黒い靄が覆う。

 

 霊障発生の兆候だ。

 このまま放置すれば何らかの形を得て、周囲に被害を出すだろう。


 ハンターはヘルメットで周囲の安全確認と状況の確認を行う。

 

 シールドにスキャンの結果が現れる。

 床に穴は無く、極端に脆い場所も無い。

 戦闘行動に問題は無い。


 拳を構える。

 学生は電子ドラッグの患者と見て間違いないだろう。

 

「ドラッグに、命じられた書類を、破棄して、燃やせせせせせせせ」

 

 サブリミナル効果による脳への指示。

 思考の制限と思想の植え付け。

 

 尖兵となった褒美に与えられる快楽は過剰なセトロニンの抑制と、

法外なアドレナリンとドーパミンの分泌によるものか。


 そこに正義の御旗が加わり、暴力と殺人の快楽を覚えれば殺人兵器の出来上がり。

 お手本のような少年兵の作り方である。

 

 ハンターは学生の拳を避け、腹に拳を叩き込む。

 感覚が過敏になっている体には、通常の何百倍もの痛みが走る筈だ。


 学生の吐瀉物混じりの叫び声に共鳴して黒い靄が形を変える。

 黒い鱗に覆われた2足の生き物の形に変わる。

 

「……」

 

 霊障具現。

 特殊装備展開を承認、治療を開始します。

 

 ハンターのスマホから音声が流れる。

 2本の直刀が手の中に現れた。

 

 学生が掴みかかってくるのを避け腕の鱗を削ぐ。

 削がれた場所が修復する前に柄頭で殴る。

 殴られた腕を無理矢理振り回し、学生がハンターを振り払う。


 脳のリミッターが外れているのか、痛みを感じても動きが止まらない。

 電子ドラッグが流行した時期、そして痛みを感じている事から考えて、重度の患者とは考えにくい。

 

 学生と目が合う。

 正気と狂気と狭間に揺れている。

  

「成程」

 

 暴力と殺人の快楽を覚えれば殺人兵器の出来上がりだ。 

 ならば、一撃も喰らわず制圧すればいい、簡単な話だ。

 

 学生の真正面に陣取り ハンターは直刀を1本、鞘に仕舞う。

 

 向かい合い、大きく先に動いたのは学生が先だ。

 振りかぶった腕がハンターを襲う。


 風切り音。

 鱗が切り裂かれ、打撃音が響く。

 

 腹部の鱗だけが切り裂かれ、切れ目から腹に拳を叩き込む。

 瞬間、全身の鱗が砕け散り、学生が倒れる。

 

 残心。

 然る後に残りの直刀も鞘に仕舞い、装備を解除した。


 足音が聞こえる。

 2人が戻ってきたようだった。


 ブッチャーが部屋の外から話しかけてくる。


「終わったのか」

「終わった」

 

 気絶した学生を見下ろしながらハンターは救急車を手配する。

 霊障の気配はもう無い。


 ●

 

 上層街がプカプカと浮いている。

 いつもの見慣れた光景だ。


 発掘した資料がどのように活用されたのか、ハンター達には知る由も無い。

 正確には専門知識が無く、判断しようがない、と言った所だ。 


 霊障対処課の事務所でハンターは直刀を研ぐ。

 次が無い事を祈るが、そうもいかないのが世の常だ。 

 

「もっとこう色気のある案件は無いかね。おっぱいどーんみたいな」

「売春防止法と風営法絡みの仕事来たぞ」

「そうじゃねぇよ」

 

 ブッチャーの言葉にハンターは頬を膨らませた。

 研ぎ終わった直刀を鞘に仕舞う。


 テレビから電子ドラッグの患者が全員退院したニュースが流れた。


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