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サイバーパンク・デモクラシー  作者: 六年生/六体 幽邃
5部 遺伝子改造「色欲」
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12章 フォックスレポート


 12章 フォックスレポート


 大きな窓からは東京が見下ろせる。

 部屋の中にはテーブルが幾つか有り、花が生けられている。

 

 シャンパンが何本も開けられる。

 フルートグラスが照明に照らされキラキラしている。

 

 霊障を使って不老不死を。

 そんな甘い蜜に集る虫は多い。


 フォックスも手法は違えどその一員だ。

 遺伝子改造による不老不死。


 永遠の美を求めての事だ。

 罪と言われれば罪なのだろう。


「閣下との連絡が取れない」

「旧官庁街に現れたのは閣下なのか?」

「だがあれは人では無いだろう、失敗したのか!?」


 部屋に集まっている人間達が不安そうに騒ぐ。

 それはそうだろう。

 

 この高層ビルに住む金持ち達は組織の資金源だ。

 成り上がったセレブ、成金。


 相応の金を組織に貢いでいる。


「フォックス! 何か聞いてないのか!」

「結論から申し上げますと、成功と失敗半々でしょうか」

 

 ブランド物の服を来た男が苛立ちを隠さずに叫ぶ。

 そう言ってフォックスは胸元から小さなガラス片のような物を取り出す。


 陽の光を浴びてガラス片が光る。

 

「こちらの記憶媒体に脳の記憶を保存。自らのクローンに移し替え記憶を繋ぐ。

閣下は500年以上それを続けておられました」

「そこまでは聞いている。だから我々も体液や子供を送ったんだ」

 

 好みでない女を抱いた事を思い出したのか男が舌打ちをする。

 フォックスは構わずに話を続ける。

 

「そのクローンに霊障で調整を施したのがあの閣下です」

「何?」


 霊障で1から人格を作り出すのは不可能。

 だが、何の知識も無いクローンに調整を施すのは可能と判明。


 遺伝子改造と霊障によって実現した不老不死。

 

 そうして生まれたのが新たな閣下だ。

 降って湧いた成功例に場が騒然とする。


 ならば自分も、という思いが透けて見える。

 

「……なら失敗は?」

 

 派手な服に身を包んだ女がぽつりと言った。

 フォックスは扇で顔を隠しながら言う。 

 

「すぐそこに」

 

 天井から降りてきた口が女の半身を齧り取った。

 血と内臓を放り出しながら倒れた女を見た者から悲鳴が上がる。


 球体に手足が生えたぶよぶよした生き物。

 突如天井に現れたそれに場が混乱する。

 

 ネット回線から、家電の人工知能から、スマホから黒い液体が滲み出る。

 液体が収束し徐々に黒い生き物が大きく育つ。

 

「何故かクローンはこう判断したようです。正義と、良心と、未来の為に汚れた物は不要」 

 

 故に、とフォックスは続ける。


「汚れと判断され切り捨てられたのがその霊障です」


 悲鳴の中、ゴリゴリと嫌な音が大きくなる。

 1人を食べ終わった後、霊障が口を開けながらフォックスに向かってきた。


 簪を一本抜き、口の中に投げつける。 

 舌を抉られた霊障が動きを止めた。


 たん、と霊障の上に飛び乗り、思い切り踏みつける。

 ヒールから出た刃物が霊障に刺さる。


 霊障から飛び降り、フォックスは部屋のドアの前に立つ。


 唸り声を上げながら霊障が方向を変えた。

 再び、金持ち達を食い荒らす。

 

 ドアを開け部屋から出る。

 自分で戦えない者を助ける気は毛頭無かった。


「おっかねぇ女」


 不躾に声がかけられる。

 20代後半程だろうか。

 壁に身なりのいい男が寄りかかっていた。


「正当防衛でしょう? 貴方はどうします? カッター」

「んー、コレでも一応、父親? 父親だよなアレ?」 


 液体によって服が汚れるのも気にせずに壁に寄りかかっている。

 びちゃり、とカッターが足元の液体を軽く蹴った。

 

「まぁ、広義では? クローンと本体の関係を何と呼ぶのか困りますけど」

「だよなー」


 カッターが呆れたような表情を浮かべる。

 その後、ドアを見る。


 悲鳴は聞こえず、ボリボリと砕ける音がする。

 液体が赤黒く胎動した。


 上から下から。

 ビルのあちこちで叫び声が上がる。

 この部屋だけではなく、ビル全体を食うのだろう。


「んで、アレどういう状態」

「どうもクローンが想定以上に自我を持っていたようで」

「へぇ?」

 

 閣下の記憶や知識を入れる為に、クローンには余計な知識を不要としていた。

 だが、何が切欠か自我が芽生えてしまったのだ。

 

 芽生えた自我は閣下の今までの行いを汚れと判断。

 閣下の人格を霊障として切り捨てたのである。


「はっはー、そりゃまた。つまりアレは相当お怒りな訳だ」

 

 カッターが笑い声を上げる。

 嘲り混じりのそれをフォックスは聞き流す。


「今は必要な脳細胞を摂取している段階ですわね。どうもまだ完全体では無い様子」

 

 クローンに持っていかれた知識、力。

 それらを補う為には脳細胞を摂取し、あらゆる回線に接続し、知識を読み込むのが早い。


 ある程度の時が経てば元の姿に戻るだろう。


「つまり成長すればこっちの閣下は完全な霊障になる?」

「そうなりますね」

 

 図らずも閣下自身の望みは叶えられたのだ。

 相応の屈辱があったようではあったが。


 うーん、とカッターが腕を組んで考え込む。

 何か考えがあるのだろうか。

 

「それで、どうします?」

「そうだなぁ」

 

 そう言ってカッターがドアを開けて部屋の中に入った。


 ●

 

「日本ではエイが代わりになると言われているが、海外では海豚と致して腸内が傷付くケースが多発している。

これらは文化による男女役の差があるのでは?」

「いや待て、梅毒やHIVの発生を見るに欲望に文化差は無いのでは? 元はアレ山羊や猿経由だろ」

「コイツラ纏めて死なねぇかな」

 

 霊障対処課はいつもの有様である。

 ハンターとシーカーが武器を磨きながら会話を弾ませている。

 

「そういや実際に産めるかどうかは別にして、精子と卵子の反応はあるらしいな」

「マジで……!?」

「おい、オッサンの頭の知識容量減らすんじゃねぇよ。何処で使うんだその知識」


 仕事の知識が変態知識に侵食されそうだ。

 そんな考えが警報によって打ち消される。


『各員警戒。500年物と推定される霊障発生。高層ビルと一体化した霊障発生。

人造霊障と判断。嫉妬と命名。ビル内に人間は居ない。繰り返す、ビル内に人間は居ない。各員対処されたし』


 警報が流れた瞬間、各自が各々の場所に向かう。

 画面に霊障に侵された高層ビルが映し出された。


 黒い球体に手足が生えた生き物。

 それが屋上に陣取っている。


 黒い液体が血管のように高層ビルを這っている。

 どくどくと胎動するそれは何かを吸い取っているようにも見えた。


 周囲は警察によって封鎖されているが、封鎖止まりだ。

 

 シーカーがデータを取りまとめ、準備を終わらせた。


 武器を持ち、事務所を飛び出す。

 入口の前に派手なスポーツカーが停まっている。


「どうも」

「知ってた」


 運転席に座る見慣れた顔にブッチャーは何の感慨も無く頷いた。


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