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マリンミラーフォース  作者: 海北水澪
マリンミラーフォース
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第1話 青き星へ来た者 その3

左右から同時に来る火球を柱の背後に隠れてやり過ごす。スピードはそこそこ速いが直線的な動きしか見せないので軌道を読みやすい。同時にミライは感じていた。今までの敵と何かが違うということを。

 だが分からない。何が違うのか。考えれば考えるほど思考が混沌という深みにはまっていくので、すぐさまその考えを打ちとめる。だって何が違うか分かっても現状では決定打にはなりえないかもしれないから。神経を集中させる状況下において、複数の思考を展開するのは得策ではない。その分注意力や集中力が緩慢になり、そこをつけ入れられる。すなわち敗北するから。今向き合っている相手はそういう奴だ。現時点ではそれだけで十分ではないか。決まれば思考回路を全て戦闘状態に切り替える。そのまま総動員して取れる選択肢をはじき出すのだ。

「やりぬくしか……ない」

 飛んでくる二つの火球をすり抜け敵に近づき槍を振り回す。

当たる寸前で躱され地面のコンクリートを粉砕しその欠片が周囲に浮かぶ。小さい粉塵からミライの顔の半分くらいまである物まで大きさはさまざま。

 振りは破壊力はあるがその分大降りになってしまうのでこちらの動きも瞬時に見切られてしまうらしい。

「甘いっ!」

「なら!」

 今の斬撃で少々距離ができた。浮かび上ったコンクリート片でそれなりの大きさのものを見つける。見定めたら間髪いれないで足先で対象を捉えそのままボールと同じ要領で蹴りこむのだ。

「はあっ!」

 瓦礫を弾くときのモーションでわきのガードが緩んだ。脇腹めがけてミライが突きの構えで突っ込む。一種の弾丸のごとく。防御もとれずまともに喰らったことでブレイゾートの体は後方へ倒れる。しかし左腕が地面に着いたところでそれを支えにして身体を一回転させすぐに元の戦闘態勢をとった。

「結構ねばるな」

「簡単には負けられないんだよ、こっちだって」

「さてはあのガキのこともあるのか?」

 口をゆがめミライの反応を楽しんでいるらしい。

「どうだっていいだろ。お前には関係ない」

「強がる余裕がまだあるのか!」

 抵抗するミライに嘲笑を浮かべ、剣を振り下ろすが研ぎ澄まされた銀槍でその太刀を弾くが向こうがこの程度でひくはずもなく湿った空気が充満した薄暗い地下のフロアで剣と槍がぶつかる金属音だけがあたりに響く。

 目先の戦闘に全神経を使っているのであまり考えてはいないが―微かだがミライは心中思うことがあった。―戦いに負ける、なんてことはあるかもしれない。だからといってそれが死ぬ、ということに直結するなんてことはない。勝ったって死ぬ時は死ぬのだから。全ての力を使い果たしてしまった時とか。敵がまだ残っていたとか。

―つまりは。生死の問題と勝敗のそれは別物ではないのか。

 ただ、だからといってここから逃げてもいいなんて言う理由にはなりえない。一度対峙してしまった以上引くことなんて許されないだろう。ここで弾けばさらに犠牲が拡大する可能性もゼロじゃない。だから彼が選ぶことのできる選択肢は勝って生き残る。それだけだ、当たり前のことだった。何をいまさら考える必要があるというのか。

 彼が微かな神経を使って疑問に悩む間も鋭い切先の応酬が繰り返される。が、一瞬の隙をついてミライが切り返しで剣を弾きそのまま追撃をかけるべく槍で貫こうとした。

 が、その攻撃は届かない。ブレイゾートの眼前で槍の切っ先が止っている。

「え……?」

 赤く光る剣が深々とミライの右腕を刺し、包帯が巻かれていた部分が血で真っ赤に染まっている。しかしそんなことあるはずがない。ちゃんと攻撃できないよう固定しているはずなのに。

「……そんなの予想してないって顔だな?ただな、俺は剣を1本しか持ってないなんて言った覚えは一度たりともないぜ」

 何かが裂けるような音ともに腕に刺さっていた剣が抜かれ血が吹き出しあたりに滴り落ちる。1日に何度も同じような体験するとは思わなかった。支えを失ったミライの体は崩れ自分に身に起こっている認識もできないうちに腕に続いて腹部を激痛が襲い彼の体が浮かび上がる。どうやら蹴り飛ばされたというのだけが何とか理解できた。

「っ!」

 屋根裏に張り巡らされている水道管に手を伸ばそうとした。が、さらなる追加攻撃を加えるために放たれた火球に遮られてしまい届かない。なすすべもなく落下していく彼の体をブレイゾートが飛び上がると殴りどこかの柱へと叩きつけた。

 たった数分で戦況が覆ってしまいそれまで拮抗した戦力はものの見事に崩れミライが劣勢に追い込まれる。それでも何とか立ち上がるも右腕の激痛に顔を歪めた。痛みをこらえて自分の前に転がっている槍を掴もうとするがうまく取れない。自分で思っている以上に傷が深いのか。

「随分と手こずらせてくれたな」

 ブレイゾートが右腕をかざすと指先から火球が形成されていき上空へと打ち上げられた。天井すれすれまで、浮かび上がるとそれは爆発し無数の火の玉へと変化しあたりへ雨の如く降り注ぐ。その様子はさながら流星群とも形容できるものだった。何とか立ち上がり避けようとするもその中でもひときわ大きな球が彼の方へ迫ってくる。立ったはいいがそこからが続かない。何という様だろう、頭上に迫りくる流星群の1つにぶつかりそうになる。避け切れず敗北を覚悟した時。

―ヒュン

 どこかから風切音が響いた。音がした刹那、何かが砂塵を巻き上げミライの横を突き抜けていく。それは彼の眼前に回り込むと赤く発光し近くに降る炎を受け止めている。まるで彼を流星群の攻撃から守るように。

 最初はそこに球体があるだけにしか見えなかった。が光の向こう側にはぼんやりとワシかオオタカの様な鳥の姿が確認できる。

 やがてワシかオオタカのほうが攻防に競り勝ち流星群が放っていた炎を打消し、勝ったことを祝うかのように宙を舞う。

「どうなってやがる」

 ブレイゾートが焦りが混じった声をあげると、それに呼応するようにミライのはるか後ろの方から突風ような風が吹き突ける。直後、電撃をまとった三日月型の衝撃波が走っていった。発光した球体とは違い今度は青く輝いてた。

「イルニス……じゃないよね」

 誰の攻撃か考えていると黒服の男に命中した。が、当たる直前双剣を構えていたので防がれてしまったしい。。ただその剣には炎が燃え盛っており必死さが見て取れた。ミライの時とは違う。彼を窮地に陥れたブレイゾートを防戦一方に追い込みなおかつ押しているのだから。かなりの手練れに違いない。

「これくらいで……この俺が、負けるものか!!」

 ブレイゾートが叫ぶのだが必死の攻防もむなしく、衝撃波に押し飛ばされ後方にあったミライが槍の振り下ろしなどで作った瓦礫の山に落下してそのまま動かなくなった。

「また会えたね」

 どこかで聞いたことある声だと思い後ろを振り向く。ミライは目を見開いた。例の銀髪の少女が剣を右手に携えこちらに歩いてくる。雑木林で会った姿と相違ない。ただ違う点をあげるとすれば、今の彼女にはもう1本手に持っている物とは、別に剣が下げられその周囲に拳銃が納められているということだろう。あまり会ってから時間も経っていないのだが彼女には敵意や相手を威圧するような雰囲気を感じない。

「君が助けてくれたの?」

「うん。でもその手を見る限りちょっと間に合わなかったのかな、痛むよね」

「少し、ね。血は止まってるみたい」

「見せて」

 彼女はひざまずき傷口へと顔を近づけた。その途中で銀色の髪と少年の黒髪が触れ合う。彼女の指先が傷痕部分を軽くなぞっていくが、不思議と痛みを感じない。そのまま無言の時が流れていくが空気が重いとは思わない。もう少しだけでいいから続けばいいのに、と心の奥で欲が出る。

「終わったよ。ちょっとした応急処置みたいなものだからちゃんとあとで治療しないと駄目だけど」

 顔をあげ、その丸い瞳で彼を見てくる。満面の笑顔、というわけではなくどこか儚い印象を抱かせる少女にまっすぐ見詰められ、何と言葉を紡いでいいか分からないでいるミライの肩の上に上空を旋回していた赤いオオタカが少年の肩の上に止まった。間近で観察するとオオタカとは違った生き物であることがよくわかる。

「不死鳥……」

「僕の友達。ゼドラフティだよ」

 肩の上に止まっているゼドラフティの方を向くと偶然目があった。金色の瞳には恐れといったことを思い起こさせない。それにどこか優しい感じがして知性があふれる。その体色は燃え盛る炎のように朱い、そして輝くような金色の筋が翼に走っていた。

「普通初対面の人に止まったりなんてことはしないんだけど……どうやら君は気に入られたのかな」

 少女が合図をすると赤い鳥は飛びあがり彼女のもとへと帰っていく。腕に乗せゼドラフティの頭を撫ぜてから指を鳴らすと橙色の光を帯び始めた。それも一瞬のことで光ったかと思った次の瞬間には細かい粒子に変わっていたのだ。

「今のって」

「空間転移かな。君たちの言葉を使うとしたらね。あの子には本来いるべき場所に戻ってもらったんだ。出来る範囲で詳しい説明をしたいところなんだけど」

 途中で話を打ち切った。それと同時に瓦礫の山が崩れ中から鬼神のような形相のブレイゾートが這い出てくる。その姿を見て隣の少女が不満そうに顔をしかめた。

「てめえ……」

 軽薄そうな笑みを浮かべタバコをふかす余裕すら今の男にはないらしい。赤黒い顔に血走った目でこちらを睨みつける。当然と言えば当然か。それまで自分有利に進んでいた勝負がいきなり乱入してきた存在によって形勢逆転してしまったのだから。しかもそれが予期しないイレギュラー的存在。

「なんだ生きてたのか、まあ薄々そんな気はしてたんだよね」 

 まるで緊張感を感じさせない抜けた調子で少女はおどける。まるで自分にとっては大した脅威でもないかのように。でもそれも当たり前と思わせるほどの実力を彼女は持っているのだ。

今の赤い鳥と言い電撃をまとった衝撃波といい並の人間にできる芸当などではない。いや、波でもない人間でもできるはずがない。

「貴様がいなければそこのガキなど!」

 顔の前で腕を組み、それを合図として頭上から体全体を炎の渦が包み込む。ゼドラフティや少女が放った衝撃波の様な風がまたミライに襲い掛かってきた。今度は正面から来たので思わず目をつぶってしまう。防御策をとった彼とは対照的に少女は動じる気配すら見せない。それどころか不敵な笑みを浮かべている。一体何を企んでいるんだろうか。

 やがて風が収まりその火が消え去った時には黒い服を着た人間の姿はなかった。代わりにいたのは人間なんて言葉でくくれるような存在ではない。赤黒い鱗で覆われたトカゲだった。これが彼ら―アルカナマグナ―としての本来の姿。人を超えた怪物たち。かろうじて目の部分に人間としての面影を残している程度で体躯そのものも全く違う。

 顔の半分くらいまで大きく裂けた口を開き酸素を吸いこみ始めた。ミライを翻弄し続けた火球を放つつもりだろう。今までと違うとすればとどめを刺すつもりに使うのか。だとすれば先ほどよりもかなり大きなものがくることは予想できる。人間の姿だった時に劣勢に追い込まれていたことを考えれば勝てる見込みはだいぶ低い。しかしそれでも戦わなければならない、とミライは思うのだ。腕の痛みは引いた。しかし失った分の血と体力までは元通り、というわけではない。ふらつく体に鞭を売って立ち上がる。

「力、欲しい?」

「それで勝てるんなら、ね」

 ミライが返答したのとブレイゾートが火球を放ったのはほぼ同じくらいだった。そんななかで肯定の意志を知ると彼女は。それなら―とつぶやいたかと思えば、誰にも予想できない行動へと出た。銀色の髪を翻し顔を近づけミライの頭の後ろに手を回し固定する。

「なにすー」

 ミライが抗議や戸惑いが混じった声を上げようとした瞬間二人の唇が重なる。逃げないと死ぬというのに。事実2人のすぐ目の前まで火球は迫っていた。驚きのあまり黒髪の少年の方が目を見開くがシュナイヅの方は意に介さない。まるでどうにかなるとでもいうかのように。ほんの一瞬だが電気のような物が走った気がした。しかし不思議なことに不快だとかそういう感情は一切ない。恐らくは同時に襲ってきたなんだかよくわからない陶酔感によってかき消されたからだろう。やがて少女の方から口を離した時。

「―」

 何か言ったようだったがミライには聞き取ることができなかった。それが早口だったからなのか、彼にとって聞き取ることのできない言語だったのからなのかは分からない。ただ1つ分かったのは。

 最後に彼女が言った一言

「心配しなくていい」

 そしていたずらっぽそうな笑顔だった。

 それを見た瞬間。

 二人の体は火球へと呑み込まれていたのだ。

 ※

「……」

 一連の顛末を見てブレイゾートは沈黙した。火球が直撃したことで恐らくは無事ではない。今も着弾した辺りは炎が勢いよく燃え上がっている。それだけでなく衝撃波でコンクリートがあちこりで崩落した。

 勝負は決したのだ。万が一生きていたとしても今のが決定打になってまともな反撃などできるはずもない。確認するまでもないのだが一応念のためだ。どうなったかを確かめるべくブレイゾートが炎の方へと歩み出したとき炎の中から一発の光弾が壁や天井に激突しながらブレイゾートへ向かっていく。スピードは早いのだがいかんせん起動がめちゃくちゃなので簡単にかわされてしまった。が、回避して宙に浮いた刹那、鎖のようなものが飛び出しトカゲの足に絡みつく。

「っ!」

 光弾に気を取られて完璧に油断していたのか避ける間もなく飛んできた銀色の鎖に引っ張られたことでバランスを崩して壁に衝突した。それと前後し鎖も戻っていき槍へと姿を変える。そして朱く燃え盛っていた炎がその銀槍へと収束していった。その槍を構えていたのは碧い輝きを放つ甲冑をまとった人物。鎧全体に獅子を模した装飾が施され襟の高いマントが風になびいている。さながら西洋の騎士といった出で立ちだ。その鎧をまとっている人間はといえば

 海老名ミライ。

「……!」

 何か得体のしれないものがミライの体の奥の中で渦巻く感覚を覚えた。最初は胸のあたりでうごめいていたが今は一カ所にとどまらない。ほんの一瞬なのだが唇を離した刹那。心臓が脈打つような痛みを彼は感じる。

「力」と彼女は言った。

 なら一連の奇妙な感覚の正体はそれだろう。

「関心してる場合じゃないよ」

 ミライの肩に銀色の少女が左手を置いてもう一方の手で前方を指差す。土煙の中から赤いトカゲが起き上って酸素を吸いこんで火球を吐き出してくるのが見て取れた。が、ミライは今までと違って回避行動をとらず前へ飛び出してマントを翻す。ぶつかった火球はかき消されそのまま地面を蹴ってブレイゾートの前に滑り込み槍を眼前へと突き立てた。ブレイゾートも双剣を抜いてブロックしようとする。が、激しい気迫を持つミライの前では無残に破壊され何の意味もなさない。

「なんと!」

「YAAAAAAAAA!!!!」

 青騎士の咆哮がとどろくと刹那、槍が赤く発光したかと思えば先端を中心として炎が現れる。それに負けじとブレイゾートが酸素を吸いこんでミライの攻撃に応戦しようとするが遅い。口をあけた途端ミライは好機と捕え燃え盛る赤い槍を相手ののど元へ突き刺した。

 一瞬の出来事で断末魔をあげることもなく首を槍が貫通している。血のようなものが切り口から噴出したが普通の人間のそれよりもどす黒い。完全にこと切れたので槍を引き抜こうとしたが貫通部分から炭化していたのか崩壊していき地に帰した。

 青甲冑の装備を解除した途端ミライの体を強い眩暈が襲い掛かりその場に倒れ込んでしまう。

「今のはいったい……」

「僕たちの星に伝わる装着型戦闘兵器 エペサントだよ」

 少女が質問に答えるとミライを抱き起こして自分の膝の上に寝かせた。銀髪の少女がミライの顔を何故か手で固定してるので横を向いたりすることができない。

「……あのさ」

 ばつが悪いといった具合で彼が抵抗しようとした。しかし彼女が遮ってしまった。

「いいんだよ気にしないで。まだ体が慣れてないからさ。それにしてあそこまでの適応度を見せるとは……。なかなかあるもんじゃないよ。君は貴重な存在だよ、ミライくん」

「どうしてオレの名前を……それにエペサントって」

 ミライの質問に対し手で制する。落ち着けということらしい。彼が黙ったことを確認すると

髪を撫ぜながら再び話し始めた。どうにもさっきから子ども扱いしている風が彼女の行動から見てとれなくもない。

「よし、順を追って説明していくよ。まず僕のことについてかな、うん。君のことを異星人って言った通り僕はこの星の住人じゃないんだ」

「宇宙人ってこと?」

「まあそうだけどさ。その言い方は個人的には好きじゃないんだよね。異星人っていう響きの方が僕は好きかな」

 やけに理屈っぽいことをいう少女である。疲れていたので反論するのも面倒だったので無言で彼女の顔を見つめた。

「で次の質問。エペサントのことだね。君も体験したからわかると思うけどあれは装着した人間に絶大な力を与えてくれる代物なんだ。そして装着者の戦い方とか相手に応じて姿を変えていくよ」

 使っていくうちにそういうところは分かるからね、とだけ突けたして彼女は話を終わらせる。質問にも答えてもらい懸念事項はすべて片付いたようにも見えた。だがそれは違う。ミライはここに来る途中でイルニスと分かれていた。彼女を探しに行かなければ。すぐにでも動こうと立ち上がろうとしたのだがどうにも体に力が入らなかった。

「慌てない、慌てない」

「でも」

「大丈夫だよ」

 あせるミライをなだめるように少女が落ち着かせる。それでも気になるという様子でいると足元の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ミライにぃ!」

「イルニス」

 ゴスロリ服の少女がミライの前に駆け寄ってきた。走ってきたのか息が上がっているのが見て取れる。

「良かった無事で……」 

 ブラウンヘアーの少女が安心したのかその場にへたり込む。がすぐにミライが今置かれている状況を見て疑問を感じたらしく

「でもどうしたのミライにぃ。それに……その女の人誰?」

 ミライに膝枕をしている銀髪の少女のことを見つめる。興味を持ったのかイルニスが両手を伸ばし少女の頬に触れた。その瞳には得体のしれないものに対する不安も多少混じっている。 

「僕は……グレーテル。よろしくね」

 洗礼の意味もあるのかイルニスの頭を撫ぜる。不安が少しは薄らいだのか、イルニスの表情にいつもの笑みが戻ってきた。ミライもそれを見て安心しゆっくりと体を起こす。

「さ、粉のほうも破壊しに行かないと」

「待って」

 立ち上がろうとしたミライに対して少女が服の中に手を入れると試験管を取り出した。内部には見覚えのある緑色の粉が入っている。ミライたちが処分すべく探しに行こうとしていた代物である。

「どこにあったの?」

「ミライにぃと別れてから。来る途中にあった部屋に隠してあった。他は全部処分しておいたけどこの1本だけ」

 粉が処分された後ならもう目的は達成されている。いつまでもいる必要もないので退却するまでだ。

「あなたはどうする?」

 イルニスが立ち上がった銀髪の少女の顔を見上げる。

「特にプランがあるわけじゃないけど……」

「じゃあ一緒にいこ」

「え?」

 驚いた表情で少女のことを見る。想定していなかったらしい。そもそも一緒にいるミライですらイルニスの行動は半分くらい予測ができない。初対面であればなおさらだ。

「ミライにぃ、いい?」

「うん」

「じゃあ、そうと決まったら!」

 イルニスがシグレーテルの腕を使うんで地上へとつながる階段へ向かって走り出す。体制を崩しそうになりながらでもなんとか銀髪の少女はついて行った。

「ちょっと待って!」

 グレーテルの狼狽える声を聴きながらミライも後に続いていく。

そして駐車場には誰もいなくなった。


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