第99話 聖地巡礼 - 終わりなき旅 -
花の都の王様・ミクトラン――いや、神王・アルクトゥルスは王座についた。
「皆様、もうご存じかとお思いですが、私は王であり神でもあるのです」
既に周知の事実なせいか、みんな反応は薄かった。
「今日この場所――『ポインセチア城』へ皆様にお集まり戴いたのは他でもありません。先の『レイドボス討伐』、本当にご苦労様でした。
そこで、まずあのアルラトゥの一件。
私の判断で皆様には一度、花の都に集結して戴きました。これは、各方面に散らばっていた戦力を一纏めにする為でした。あの団結と戦力がなければ、恐らく世界は終焉へ向かっていたことでしょう」
そういう事だったのか!
それから、神王は専用スキルである『穏やかな円環』を開き、みんなをあの場所に転送した――ということらしい。
なるほど、納得した。
「皆様のおかげで『死神』だった者は再び『女神』へ。支配されていた聖地は本来の姿を取り戻しました……」
神王は俺に視線を送ってくる。
なんで、俺……?
「そこで今回の討伐ですが、特に、ある三人の聖者が著しい活躍を見せてくれました。その三人とはもうお分かりですね。
『サトル』、『アグニ』、『スイカ』の三名です。
この中でも大変な成果を上げた方は………サトル殿、あなたです」
そう名指しされ、俺に巨大波のような視線が集まった。
げえ!!
「あなたには、私の妻であるソフィアを救って戴きました。ですので、レイドボス討伐報酬としまして……私の『神の座』を譲ろうと考えました」
「「「「「おおおおおお~~~~!!!」」」」」
「彼なら構わんだろう」「サトルは十分に活躍した」「平和を取り戻したんだ、当然の権利だな」「すご~! あの人、神様になるの~!?」「神になれるとか羨ましすぎるだろ!」
みんながどよめく。
いや、つーか。
「まじか!?」
「皆様、ご納得戴けているようですね。あとは、サトル殿の気持ち次第。さあ、この手を取れば、あなたは『神』になれる」
…………『神』か。
そりゃ大層なものを。
けど、俺はそんなつもりで冒険をしていたんじゃない。
俺は彼女たちと一緒にいられればいい。それだけだ。
「神王様。せっかくのご提案ですが、お断りします。俺にはまだやるべき事が多く残っています。お気持ちだけ戴いておきますよ」
ぺこっと謝罪の意味も込めて、俺は頭を下げた。
「…………素晴らしい」
「え?」
「サトル殿。実をいえばね、もし私の手を取っていたのならば、あなたは仲間の魂を『生贄』に捧げなければならなかったのです」
「え……」
「そうなればきっと、私が真のラスボスになっていたでしょうね。ふふふ……」
「ちょ、おま!? 謀ったな!? いや、騙されるところだったけど!!」
「サトル殿。また冒険に出られるのですね。ですが、この世を揺るがすようなレベルのレイドボスはもう存在しませんが、どうされるのです?」
「残念ながら俺は何も知らされていないんです。メサイアの案なので」
「ほう、彼女の。それはまた……分かりました。
皆様、ご足労お掛け致しましたね。それではこれにて散会とします」
みんな納得した様子で城を後にした。
俺も、仲間の元へ。
◆
花の都の外に出れば、みんなが立って待っていた。
「よ。待たせたな。てか、なんで桜が舞ってるんだ?」
「ああ、それ。神王様が特別大サービスだって。祝福の意味があるらしいわよ」
メサイアが説明してくれた。なるほど、そういうことか。
「理く~ん。さっきルミナスから聞いちゃったよ。『神の座』を断ったんだって~?」
「噂広まるの早すぎだろ……もう知ってたか、ベル」
「うん。でも良かったね。あれ返事していたら、わたしたち生贄にされちゃってたし」
「らしいな。まったく、あの神様の考えていることがよく分からんよ」
「兄様はきっと試されてたのかもですね!」
「最後まで抜け目ないというか……。結局、神王は『神の座』を譲る気なんてなかったのかもな」
だとしたら、あの会合の意味はあったのか!?
何かを示したかったのか。――それとも。
うーん。謎は深まるばかりである。
「サトルさん、サトルさん。これからどうするんですか?」
「お、リース。そうだ! メサイア、これからどうするんだよ。レイドボスは倒して平和になったんだ、家でゴロゴロしてればいいだろ」
俺は、メサイアにそう抗議するが。
「何言ってるの。この世界はね、とって~~~~も広いのよ。この国だけじゃない、他にも国はたくさんあるの。ほら、この『地図』を見て!」
と、メサイアはみんなを集め、注目させた。
「ほうほう、こんな『世界地図』を持っていたとはな」
「これくらいアイテムショップで3000プルで売ってるわよ。――でね、こんなに大陸があるの。この国を含むその随所に、聖地『アーサー』、『ランスロット』、『ガウェイン』、『パーシヴァル』、『ガラハッド』、『ケイ』、『ベディヴィア』、『トリスタン』、『ガレス』、『ボールス』、『ラモラック』、『ユーウェイン』、『パロミデス』、『アグラヴェイン』、『ペリノア』、『モードレッド』――判明しているだけで、これだけあるの」
「聖地多いな……。それで、まさかこれ全てを回るとか言うんじゃ」
「そのまさかよ! いい、神王様から聞いたのだけど、全ての聖地を回るとね『不老不死』になれるらしいの! だからね、これから皆で『聖地巡礼』してみない!?」
「……おい、メサイア、今なんつった」
「不老不死よ」
「その前だ」
「神王様から聞いた」
「神王ォオオオオオオオオオオ!!!!!」
野郎……絶対何かおかしいだろ!!
ホント、何企んでいるんだよ、アノ人!!
「はぁ~…まあいい、他にすることもないしな。じゃ、世界各地の聖地回って『不老不死』になってみるか?」
「私は元から賛成よ。
不老不死だけじゃない。きっと、いろんな出会いと別れもあるわ」
メサイアは完全に乗り気。
「あたしもです! それに、エルフの郷【アヴァロン】にも寄って欲しいんです。皆さんにあたしの故郷を見て欲しいから」
そうだな、リースの故郷である【アヴァロン】には行ってみたいな。
「わたくしは聖職者なので、聖地巡礼は当然の義務です! 修行あるのみです!」
ブンブンとシャドーボクシングするフォル。
いやお前……聖地でひと暴れでもする気か?
そして、ベルはただ一言、
「わたしはキミについていく」
「おう。お前の気持ちは重々承知している。俺としてもぜひ一緒に来て欲しい」
「うん。……だからね、子供の名前どうしよっか♪」
そう頬を赤らめるベル。
気が早いって! つーかまだそんな予定もないだろうがっ。
「そ、それはまた今度な……」
さあ……行こう。
俺たちの旅はまだ終わらない。
まだまだ世界を見て、
見聞を深め、
もしかして、もしかしたら『不老不死』なんかになったりするかもしれない。
この先、まだ見えない敵もいるかもしれない。
俺たちを陥れるヤツもいるかもしれない。
でも大丈夫。
俺には最高の仲間たちがいる。
冒険とは常に危険と隣り合わせなもの。
仲間と共に困難を乗り越えていけばいい。
今までそうしてきたように、これからも――。
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