第86話 全てを守る - 最強の盾・アークシールド -
一度は倒したかと思われたドラゴン。
正確には、二度倒したはずのドラゴンは生きていた。……いや、あれは生きていたとか復活したというよりは……
「おいおい……アレは――」
俺の『千里眼』が告げている。
アレは、あのドラゴンは……
『分裂』している――と。
「分裂だって!? んなアホな!」
「え……サトル、あのドラゴンの正体が分かったの?」
相変わらず、俺を盾にしているメサイアが後ろから聞いてくる。
「ああ……どうやら、あのドラゴンは分裂するらしい!」
「ぶ、分裂って……! なによそれ! 減らないってこと!?」
「らしいな。じゃなきゃ、また現れんだろう普通」
多分、それがあのドラゴンの最大の能力なんだろう。世界最強のドラゴンというだけあるな……。
「理くん! わたし、分かったんだけど、多分あのドラゴン……某猫型ロボットの漫画に出てくる秘密道具『バイバイン』のような感じじゃないかな!?」
盾スキルでドラゴンのブレスを防ぎながら、ベルはそう何かを思い出す。
某猫型ロボットだって……?
なんの話だよと思ったが、心当たりがあったにはあった。
……なるほどなぁ。
ちなみに、秘密道具ではないが、そういう生物もいたっけな。
名前を確か……『プラナリア』だったか。
あの生物は切られまくっても、その全てが再生・分裂したという。
まさか、あのドラゴンにも同じ『万能細胞』があるとでも……!?
「こうなりゃ、ドラゴンがこれ以上、分裂しまくる前に倒すしかないだろ!」
と、意気込んでいると、
「サ、サトルさん……!! あ、あれ!!」
リースが青ざめていた。
なんだ……別の方角に?
「んげっ……なんだこのドラゴンの数……!!」
巨大なドラゴンがなんと空に『30体』は出現していた。
「なんだよこれ……! すでに分裂していたのか!! つーか、分裂しすぎだろ……!」
「こ、この数はさすがに厳しいですよ、兄様……」
……ああ……確かにあれは『アルバトロス』だ。
アホウドリだ!
ふざけてやがる……!!
「クク…………」
「ど、どうしたの……サトル。いきなり不気味に笑っちゃって。怖いわよ」
メサイアがドン引きしている。
だが、今はそんなことよりも――。
「フハハハハッハハ、フゥ~~~~~~~~~~ハッハッハハハハハハ!!!!!」
笑うしかないだろう。
こんなアホで、バカげた状況。絶望的だ。
さすがの俺も、あの数を相手にするのは厳しい。
HPを一気に削られる可能性があるからだ。
――だが、ひとつだけ勝てる方法がある。
俺は思いついてしまったのだ。
この絶望的な状況を打開する、悪魔的方法を。
「あ……兄様が壊れてしまいました……。わたくしのグロリアスヒールで治して差し上げましょうか」
「それはいい。それより、フォル。『グロリアスサンクチュアリ』を聖地全体に張ってくれ。確か、一定時間だが『聖域』を展開し、物理・魔法攻撃を完全無効にするんだったよな」
「はい、そうです! でも、聖地全体に?」
「おう、タイミングを指定するから頼む。詳しいことは後だ。あと、ベル。今話せるか」
「う~ん? 今ちょっと忙しいんだけど、なんだい? 手短に頼むよ……っと、その前に――『ホーリーシールド』! 『グレイスシールド』! 『グロムシールド』! 『アポカリプスシールド』!! ――他、たくさん!!」
驚くべきことに、ベルは『盾』スキルを数えきれないほど展開した。もちろん、あの『30体』のドラゴンから放たれまくっているブレスを全て防ぎきっている。澄まし顔で。……なんちゅー防御力だよ。
「ベル、そのまま俺たちを守ってもらえるか?」
「それがわたしの使命だからね。泥船に乗ったつもりでいてほしい」
「そこは大船じゃないのか!? 沈むだろ!」
「あぁ、そうだった。ごめん。じゃあ、タイタニックで」
「それも沈むわ!!」
「それじゃ、フライング・ダッチマンなんかどうかな」
「それって幽霊船じゃ……って、もういいって!」
「あはは。理くんってば、ちゃんと突っ込んでくれるから好き。
うん、期待はして良い。ただ、ドラゴンの数が多すぎる……から、理くんが、わたしの体を支えてくれると助かるな。ほら、わたしってこう見えて華奢だし、細腕だし。衝撃で体が飛ばされたら『盾』が消えちゃうし」
――とか言いながら、次には新しい盾スキルを召喚していた。
『アークシールド!!』
あれは『盾』つーか……透明な『猫の巨神像』!
猫の巨神像がドラゴン30体分のブレスを余裕で受けている。
アレは……突っ込んでいいのだろうか……。
突っ込むべきか非常に悩んでいると、
「支えてくれないと協力しない」と、ベルは何だか声低く言った。
コエーヨ。
「わ、分かった! お前の体を支えればいいんだな!? ええい、この体も含めて我儘め!」
――というわけで、
フォルが『グロリアスサンクチュアリ』を展開準備中。
継続してベルの『巨大盾』および『猫の巨神像』で守ってもらうことになった。
――が、ベルはそれでも満足できないようで、彼女は守りを更に盤石にするため、『盾』をこれ以上ないくらい召喚し、バリア状にした。
ここまで出来るとはな……!
ちなみに、全ての『盾』は透明性があり、外の様子もバッチリだ。
こうして、ベルの『最強の盾』の中で、俺たちとアーサー少年。
これで今のところ実質『無敵状態』だ。
今現在、俺は、ベルの体を――正確に言えば『腰』を後ろから支えている。その必要性があるかといえば、微妙なところだが……こうしないと何故か不機嫌になるからなぁ。仕方ない。
しかし、これは……。
刺激が強すぎるなぁ。ベルのスラっとしたくびれとお尻がえっちだ…………って、イカン! 考えるな俺! 久しぶりに、鼻から大量出血しちまう……! そんな情けない姿をアーサー少年に見せるワケにはいかない。……そ、そうなる前に離れておこう。
「ふ、ふぅ……。ドラゴンの攻撃は何とかなったな。ベル、すまないがちょっと離れるぞ」
「……む。うん」
ちょっと睨まれたが、気にしない。
俺は、リースのところへ向かう。
「う~ん。これでは、こちら側から攻撃はできないですよ~?」
「いやそうでもないさ、リース」
「え……あの、サトルさん。なんで、あたしをそんなに見つめるんですか……? その、そんなに見つめられては……ドキドキしてしまいます……」
「ちょ、ちょっとサトル! こんな時に、リースを壁ドンして何をしようとしてるの!?」
メサイアにポカリと頭を殴られるが、気にしない。
「……リース、頼みがある」
「ム……。理くん。わたしを支えてくれる約束だったでしょ」
が、そこで珍しくベルに妨げられる。
「まあまて、ベル。あとで……ゴニョゴニョ」
俺は、ベルに耳打ちした。
これで少しは待ってくれるだろう。
「……う、うん。分かったよ。絶対、だからね」
「ああ、絶対だ」
約束を取り付けると、ベルは顔を赤くし、借りてきた猫のように大人しくなった。……よし。約束は後にして――
「リース。お前のスキル『アルマゲドン』を使うんだ……! それであの分裂しまくったドラゴンを滅ぼすんだよ!」
「……な、なるほど! その手がありましたか! でも、その前に世界が滅亡しちゃいますよ?」
「大丈夫だ。威力を最小限に抑えればいい。スキルの調整は可能だよな」
「……あ、はい! 出来ます! 火力を最小限にできますよ、サトルさん」
やっぱりな。
例えば、アルマゲドンのスキルが10段階あるとすれば『アルマゲドン Lv.1』に下げてスキルを使用すれば……火力はその分落ちる。
リースによれば『アルマゲドン』のスキル詳細は、こんな感じらしい。
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【スキル】アルマゲドン
【Max Lv】10
【効果内容】
世界滅亡級の『超巨大隕石』を落とし、全てを無に帰す。
このスキルを最大レベルで発動すれば、
世界は一瞬にして終焉へ向かう。獄禁呪スキル。
[Lv.01]:無属性魔法攻撃 10000%~30000%
タイダルウェーブ発生率 + 100%
有効レンジ:半径100km
(中略)
[Lv.10]:無属性魔法攻撃 18000%~50000%
タイダルウェーブ発生率 + 1000%
有効レンジ:半径1000km
SP消費量:3000(固定)
固定詠唱速度:100%
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オイオイ、まじか。
……そりゃ前の『裏世界』の時は、世界が滅んだワケだ。よくもまあ、俺たちは平気だったな……。
それより、Lv.1でも十分恐ろしい威力だが、だが、範囲は狭まる。
つまり――条件は整った。
いける……いけるぞ!!
この作戦ならドラゴンだけを滅ぼせるはずだ……!
作戦開始!!
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