第82話 世界滅亡スキル - アルマゲドン -
もう、何も怖くない。
恐れる必要はない。
思い出せば『グロリアスブレッシング』があれば、石化は解けるのだ。
だから俺は、フォルに耳打ちした。
「おい、フォル。ヤツの……【メデューサ】の石化攻撃は、グロリアスブレッシングを使えば解除できる。だから、全力で発動するんだ。いいな」
「そ、そうですね! 分かりました、SPが持つか分かりませんが、発動し続けます……!」
「あと、これをお前に預ける」
「こ、これは?」
「神器・ジュピターだ」
「え……神器!? リースの欲しがっていたヤツではありませんか……! いいのですか、わたくしで?」
「今の要はお前だからな、使ってくれ」
指輪を渡そうとするが、フォルは拒んだ。
「いえ……兄様、それはリースにお渡しください。万が一、わたくしが石化してしまったら、解除できる者がおりませんから」
「なるほど! そう言われるとそうか……それじゃ、この神器はリースに。お~い、リース」
「はい~?」
と、リースはまるで事情を理解していない。
まあそうだよな。
「リース、これはプレゼントだ。受け取ってくれ」
「これって……指輪。えっと…………もしかして、プロポーズですか!?」
ぱ~っと顔を輝かせ、今にも泣きそうな顔をしている。
あ、まずい、そっちの方面に期待されては困る!
「す、すまない、リース。……それは婚約指輪ではないのだ。神器・ジュピターだ」
「え……神器!? なんだ……神器ですか……↓」
なぜかすっごく残念そうに肩を落とすリース。
なんで……!?
「ほ、欲しがっていたじゃないか、ジュピターを」
「……ええ、まあ……ですけど、婚約指輪の方がその何千倍も価値がありますから……」
「ええい、分かったよ。リース、これが俺の婚約指輪だ。受け取ってくれー!!」
もうヤケクソだった。
俺は、その場に腰を下ろし、リースの左手を取り――薬指にそっと嵌めた。
「……サトルさん。嬉しいですっ」
だきっと抱きつかれるが、そんな場合ではない!
「リースよく聞いてくれ。フォルが『グロリアスブレッシング』を連続使用してくれているから、その間は石化にならない。が、万が一、フォルが石化した場合は『グロリアスブレッシング』を使用してくれ。神器・ジュピターの効果で、スキルが使用できるんだ。頼む」
「そういう事でしたか! もっと早く言ってくださいよ~。それでは、あたしにお任せください……ところで『グロリアスブレッシング』の他に――『アルマゲドン』というスキルがあるのですが……これは?」
――――ふと、リースを見ると、なんか赤いオーラに包まれていた。
『アルマゲドン』を使ってしまった……!?
え……?
その瞬間、空から途轍もない大きさの、空よりも広く、大きい『超巨大隕石』が物理法則を完全に無視した速度で降ってきた――!!
「なんじゃありゃあああああああああああああああ!?」
それは都の中心に激突するや、大きなクレーターを穿ち、全てを吹っ飛ばした。
『うああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?』
まくれあがる地面。
とんでもない爆風。
全てを破壊する爆音。
なにもかもが消え去った。
「………………」
不思議と俺たちは無事だった。
ただし、都は――世界の表面は全て吹っ飛んだ。
でもまあ、この世界は『アンチクトン』という裏の世界らしいから……大丈夫らしい?
「……な~んで、俺たちだけ無事なんだろうな」
「味方には影響ないスキルなんですよ」
と、事情を知るリースは顔を引きつらせた。
「なるほどな……」
「サトル! 都も【メデューサ】も粉々に吹っ飛んだわよ!? なんなの!?」
「兄様、これはいったいどういうことですか!?」
「理くん、どうなってるの!? 世界が滅亡しちゃったよ!?」
みんなガ~っと怖い顔で押し寄せてきたので、俺は説明した。
「つまり、説明するとだな……かくかくしかじか!!」
「うそでしょ……神器の効果だなんて」
「恐ろしい力でしたよ……破壊者ですか!」
「あれはもう、聖者の力も超えちゃってるね~。さすが神器だよ」
メサイア、フォル、ベルそれぞれ驚いていた。
ちなみに、死神たちは驚くというより、放心状態で現実を受け入れられないでいた。……おいおい。
「いや~、神器の威力がここまでだとはな。すごいぞリース」
「え、あの……その。間違って使用しちゃったんです。ごめんなさいっ!」
「間違って使用しちゃったのかよ……。ま、おかげで【メデューサ】は倒せた。レベルが上がったから確かだろう。とりあえず、本当の世界へ帰るか」
でも、帰り方が分からないんだよな。
どうしたものか。
「……あ、空が」
空をぼうっと眺めていたモル子が、指さす。
「お……空が晴れていくぞ!? そうか……あの【メデューサ】を倒すと、元に戻れるのか」
多分、そういう事らしい。
事実、世界は色を取り戻し始め――
普段の光景に戻りつつあった。
行きかう人々。
様々な種族。
活気。
俺たちは、本当の『花の都・フリージア』へ帰還した。
「不思議だな……。俺たちだけ別の世界にいたみたいだ」
俺がそうつぶやくと。
隣で腕を組み、瞑想していたオルクスが口を開く。
「――そうだ。別の世界にいたんだ。アルラトゥの罠にハマってな。ここまで全て、ヤツの思惑通りだったということだ。……俺たちは、神王に今度こそ状況を伝えに行く。サトルたちはどうする?」
「俺らは【聖地・パーシヴァル】を目指す。奪還したら、すぐにヤツの本拠【聖地・ランスロット】に入り、決着をつける」
「随分遠回りだな。最初から行けばいいじゃないか」
「そうしたいけど、少しは嫌がらせしておきたくてな。ある勇敢な男への手向けなのさ」
「ある男……?」
「……ああ。そいつは、どうしようもないヤツだったけれど、最後に俺の仲間を救ってくれた。だから、もう犠牲を出さないためにもパーティを最強する必要がある。残りの聖地で仲間の能力全てをカンストさせ、それから挑む」
「ほう。なにも考えていないようで、そこまで考えていたとはな」
「おま! 失礼な!」
「……いや、これでも褒めているんだ。十分認めているよ、あなたを。それでは、メサイア様をよろしく。いずれまた」
オルクスは背を向けて行った。
そう真面目な顔して言われると、どんな顔していいか分からんな。
「じゃあね、サトルくーん☆ 大監獄では、あんなことやこんなこと、いろいろ楽しかったよ~♪」
「じゃねー。ボクも行くよ~」
「おう、プルート、モル子。またどこかで会おう」
死神三人衆は行ってしまった。
愉快な三人組だったな。
「よし俺たちも……」
「サトル……」「サトルさん……」「兄様……」「理くん」
……え゛?
みんな、なんか顔怖くない……?
「どうしたのかな……?」
「プルートと何を楽しんだのよ!?」と、メサイア。
「そうですそうです! あんな綺麗な人となにをしたんですか!?」これは、リース。
「事と次第によっては……」で、フォル。
「一か月、ご飯抜きだよ!」最後にベル。
「「「え!?」」」
すると、ベル以外の三人がざわつく。
「え……。ベル、それはちょっと可哀そうでしょ」
「ご飯抜きは残酷ですよ、ベルさん。サトルさんが餓死しちゃいます……」
「ガリガリの兄様なんて見たくありません! むしろ、プロテインを与えちゃいます!」
そうだ、ご飯抜きは死んじゃうだろ!
それと、プロテインはいらねーよ!?
ええい。これ以上は、あらぬ誤解を受けそうだ。いや、既にか。その前に自己弁護しておくか。
「とんでもない濡れ衣だ。俺とプルートには何もなかった。無実だ。それに、他にオルクスとモル子もいたんだぞ、なにも出来やしないって」
「そ、そうね。そう言われてみれば……ごめん」
「いいって。それより、リース……『アルマゲドン』禁止な! この本物の都で使うなよ!? 今度こそ人類滅亡だからな!?」
「は、はい……気を付けます。あっ……!」
「!?」
「なんかスースーすると思ったら、下着をつけわすれました……。そういえば、あたしとメサイアさんは『家』で寝ていましたもんね……恥ずかしいです」
「……え」
リースのヤツ……あの晩、酔っぱらって下着つけないまま寝ちゃったのか。まったく、相変わらずぽんこつだなぁ~…と、リースを見つめていれば。
ぴゅ~~~~~~と風が吹く。
「え……」
ふわっとスカートがめくれ――。
「あ…………いやあああああああああああああああああああ!!!!!!」
リースの悲鳴が――都中に響き渡った。
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