第8話 炭鉱ボスモンスター - 必殺のオートスキル -
炭鉱ダンジョンには、大きな『土竜』がウヨウヨしていやがった。名前もそのまんま、モグラ。実に分かりやすい。あと、なぜか工事帽をかぶった『ミノタウロス』もたまに見かけた。あれはナンダ。ノンアクティブで、やたら経験値が高かったけど。
そいつらを【オートスキル】の『煉獄』で燃やしていく。すると、経験値が高いおかげで、すぐにレベルアップ。こりゃ美味い。久しぶりにバンバンレベルが上がっていく!
【Lv.67】 → 【Lv.78】
気持ちい~~!! ラクチ~~ン!!
面倒臭がりの俺には最高の、僥倖たる状況だ。
「このダンジョンは中々良さげだな。経験値も沢山入るし、ドロップアイテムも種類豊富だ。この鉱石っぽいのとか武器の精錬に使えるかもな。知らんけど」
「サトル、それただの『鉄』よ。どちらかといえば、小屋の補強に使えるわね。それなら、お風呂も頑丈にできるわ」
なんだ、ただの『鉄』か。
でも、小屋に貢献できるのなら、それは必然的にレアアイテムでもある。一括回収で回収っと。
「お、メサイア。珍しくレベルが上がったな。お前、レベル上がりにくいヤツなのか。ほとんど上がってないじゃないか」
「あー、それね。ほら私って晩成タイプだから。それに、小屋にほとんどリソース割いちゃっているからね。それで上がりにくいのかもしれないわ」
メサイア:【Lv.42】 → 【Lv.43】
そういうコトね。
そんな会話を続け、俺たちは炭鉱の奥深くへ入っていた。
奥はかなり広く、ちょっと寒い。
視界は不思議と悪くなく、魔法で編まれたらしい灯はずっとつけっぱなし。おかげで薄暗い程度で済んでいる。そんな中を進んでいくと突き当たりにきた。
「行き止まりだな。そろそろ戻るか。肝心の木材もなかったし」
「そうね~。こんな奥じゃもう何もないかも――あ」
「あ?」
「そ、その…………、お花を摘みに…………」
「お、お花? お花お花……」
あぁ~……そういうコトね。
――って、お前はどっかのお嬢様か!
「あぁもう、理解はしたから遠くでしてこい。ここで待っててやるから」
頬を赤らめ、メサイアはひとり、適当な岩場に消えた。
……や、やれやれ。女性経験の少ないオッサンには、どう反応していいやら困る場面だな。まったく。
「きゃぁぁぁぁああああ~~~!!」
メサイアの悲鳴!
そんな気がしていたけど!!
どうせ、モンスターが現れたとか、そんなオチじゃ。
「いぃッ!?」
違った。
あれは、モンスターではない。
いや、厳密にはモンスターなんだが、俺は出来ればソレをモンスターだと認識したくはなかった。
なぜなら、
アレは……ロボットだからだ!!
なんで! こんな! ダンジョンにィ!?
ズシン! ズシン! ズッシ~~~ン!!
……と地響きが鳴り響く。
そんなズシンズシンされたら、この炭鉱が崩れ落ちそうな気がしたが、不思議とその気配はない。頑丈なんだな。
「お、おい、メサイア! 無事か!」
「へ……平気よ。だけど、アレはなんなのよ!?」
「俺が聞きたいよ。あのバカでかい巨大なスーパーロボットはなんだよ! あんなのが出るなんて聞いてないぞ!」
全長18メートルはあろうかという、へんちくりんな巨大ロボットだった。しかも、両手がドリルだ。あれは当たったら痛そうだぞ。
とか思っていたら――
「うわっ!! ドリルが迫ってきた!!」
「調べた! アレは、この炭鉱のボスモスター『SHEEP-RX87-2』っていうそうよ! 一応、元々は炭鉱労働者の所有するロボットだったみたいだけど、最近、暴走を起こしてついに自我に目覚めたみたい。それで、人類に反旗を翻し……ボスモンスター化したみたいよ!」
んじゃそらぁぁ!?
でもって、詳しすぎるな!
ああ、そうか……スキル『モンスターサーチ』で情報を引き出したのだろう。だが、そう悠長に説明してくれるが、そんな場合ではないッ!!
既に、目と鼻の先には、煙を吹くほど回転しているドリルが――!!
ボボボボボボボボボ~~~ゥ!!
ドリルが燃えた。
あれは、オーバーヒートってワケでもない。
そうか! 俺の【オートスキル】の『煉獄』が自動発動したんだ!
「危なかったぜ。ナイス俺!」
「自画自賛してる場合じゃないでしょ。さっさと逃げるわよ」
「逃げるって……おいおい、メサイア。逃げる必要はないぞ。俺の【オートスキル】がありゃ、あんなボスモンスター倒せるだろ?」
「馬鹿言ってないで逃げるわよ。あのボスモンスターはね、HPが異様に高いのよ。ドリルだって直ぐに生えてくるし、ほら」
ほら、と。ドリルが確かに復活していた!
復活するのかよ!!
「げっ、またドリルが!! けどな、ボスモンスター倒せたらレベルだって上がるし、俺はもっと強くなれる、だろ? そうすりゃ、小屋だってもっとパワーアップできるはずだ」
「う、う~ん……仕方ないわね。これは一日に一回しか使えないのだけど、私の補助スキル【オルクス】を付与してあげる。それで【オートスキル】の火力は一時的に3倍になるわ」
「そりゃ心強い。頼む!」
メサイアから、補助スキル【オルクス】を掛けてもらった。蒼白い靄が俺に降りかかる。
……温かい。
まるでメサイアの体温であるかのような、程よいぬくもり。
体がポカポカする以外、あんまり見た目に変化はないな。スキルを発動すれば分かるか?
「よし、俺はヤツの間合いに入る……!」
「気を付けて! 私、回復魔法とかはないから、回復はしてあげられないわよ」
「なんとかなるだろ」
俺は走り出し、ロボットの放つドリルを避けて下へ潜った。
我ながら、一発で完璧にいってしまった! そうか……【オートスキル】で散々レベルアップしたから、身体能力も大幅にアップしているんだ。すげえよ俺。いや、感動している場合じゃない。
ここから【オートスキル】を――!
『煉獄』と『ヒドゥンクレバス』が交じり合い、それがボスモスター『SHEEP-RX87-2』目掛けて飛んでいく。
交じり合ったスキルは、ボスを燃やしたり、氷の塊でダメージを与えたりを繰り返し、激しく発動しまくる。容赦ない俺の攻撃がヤツのHPを削りまくり、弱体化していく。そのせいか『SHEEP-RX87-2』は反撃もまともにできず、俺の【オートスキル】地獄にハマリ、まったく身動きできずにいる。
しかも、ヤツのドリルどころか身をバンバン擦り減らし、再生能力も追いついていない。勝てる……このままなら楽勝に勝てるぞ! さすが火力3倍!
確かに、HPは無駄に多いらしい。
なかなか倒せる気配はなさそうに見えた。
……が!
次の瞬間だった……
【Good Job!!】
なんて大歓声が上がると、ボスモンスターは塵となり、消滅した……!
「か、勝ったのか……?」
「サ、サトル……あんた倒したのよ! ボスモンスター!」
ぴょんぴょん嬉しそうに飛び跳ねるメサイア。俺はそれを見て、ようやく確信した。
「ま、まじか!! 倒したのか俺!」
【Congratulations!!】
【Congratulations!!】
【Congratulations!!】
レベルがめっちゃ上がった。五月蠅いなぁもう。
サトル:【Lv.78】 → 【LV.96】
メサイア:【Lv.43】 → 【Lv.44】
しかも、アイテムもお金もたくさんドロップした。すげぇ数だ。回収っと。
「おいおい、これ木材だぞ! あのボスモンスターが大量に抱えこんでいやがったのか。でも、どうして……」
「どうやら、そのようね。あれは炭鉱の管理ロボットでもあったみたいだから、炭鉱の補強用に使っていたのかもね。あとお金は、この炭鉱で働いていた人の未払いの給料かもね? まあでも、倒したのは私たちだし、貰っておきましょ」
単純明快な理由だった。そういう事ね。
でもこれで、小屋を補強できるし、拡張も大幅に出来そうだな!
夢が広がるぜ。
もちろん、先に風呂を作らなきゃな!
「よ~し、帰るか」
「そうね。これだけ材料が手に入れば充分よ。あー…あとさ、サトル」
「なんだ?」
「あんた、ちょっとカッコよかった」
メサイアは、くるっと踵を返し背を向けた。
……え。俺を褒めてくれたのか。
この歳になってこんな風に褒められる……正直、嬉しかった。
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