第62話 透明人間 - インビジブル状態になって最強 -
都の平和を守りつつ、俺は再び銭湯『バーバ・ヤーガ』へ舞い戻ってきた。この向こうには、もちろん、入浴中の皆がいる。
よしよし、さっそく『ファントム』を使って……【インビジブル】状態になって、覗くしかないだろう!!
右腕に付けている『ファントム』をタップする。
すると、俺の体は『透明』となった。
「おし! 準備完了っと……と、いかん。声を出したらバレるなっと」
自身の気配も押し殺し、俺は【ダークニトロ】の爆風を利用して、空高く飛んだ。一気に遥か彼方の上空である。
ぴょ~~~~~~~~~~ん!!
おお~。高い高い。
そういえば、こうして花の都『フリージア』の俯瞰風景を望むのは、あのドラゴン以来だな。あの時もこうして、爆風を利用して飛んだっけ。
その時には、こんな余裕をもって風景を眺めるなど出来なかったが。
さ~て、皆はどこかなっと……。
お、いたいた!!
露天風呂で寛いでいるのではと踏んでいたが……
ほうほう。ほほうほう。
俺は、『千里眼』の派生スキル『ホークアイ』を発動した。これは最近、覚えた新スキルだ。
こいつを発動すると、遠くの物体や風景をより鮮明に、特大サイズで拡大して見れるのだ。言うなれば、DVDとBDの違いだな。
――いや、ここはあえて『4K』と言い直しておこう。マジで。
「お~、いたいた。おおおおお! これでも充分、見えるな! あれは……ベ、ベルか! ……凄いじゃないか……何たる肉体美。なんだあの、ボディ…………ごくり。てか、あの耳と尻尾は生えていたんだな」
――っと、まずい。
そろそろ、滞空が厳しいな。
さすがの俺も万有引力には抗えない。
爆風をジェット噴射の要領で調整し、俺は、露天風呂の一番高さのある岩場に静かに降り立った。当然、俺の姿は『透明』――誰も気づくわけがない。
『――――』
今、眼前には……女の子たちがきゃっきゃと楽しそうに湯浴みをしている。俺という存在にまったく気づかずに。
すげぇ……。
誰も俺に気づいていない。
俺の存在がそこにはないから。見えないから。
ふむぅ、これは壮観だな!
おん? アグニが逆上せたのか、顔を赤くして仰向けで倒れている。
フォルはスイカの頭を洗っているな。仲良かったんだな。メサイアは、ベルと露天風呂に浸かって談笑中か。リースは岩場に腰かけていた。のんびり静かに。
つーか、やべっ!! 鼻血……!!
そうだ忘れていたが、俺は女体耐性があんまりないんだった……まずいぞ。この状態で鼻血を噴き出すワケには!! さすがに鼻血までは『透過』できんだろ!!
くっ……!
「………………」
む?
おかしい。
なぜか、リースだけがこちらを疑いの眼差しで凝視している。
え……まさかバレた?
まさかな……。
『サトルさん……もしかして』
うわっ!!
リースの『テレパシー』だ!!
やっぱり、勘付いていたのか。
『そ、そうだよ、俺だよ。どうして分かったんだ?』
『分かりますよ~。だって、サトルさんの背中に『追跡魔法』の【グローバル・ポジショニング・システム】を付与してあるんですから。こっそり付けちゃったんです。ごめんなさい』
え……【グローバル・ポジショニング・システム】!?
ってそれ――『GPS』だよな。
それって、つまり……ストー…おっと睨まれたので、それ以上は止めておこう。
『な、なるほどね』
『ちなみに、サトルさん。皆さんにはバレたくありませんよね?』
『そ、そりゃそうだが……えっと』
『でしたら、あたしだけを見ていてくださいね。でないと……軽蔑しますし、皆さんに即刻報告しますからね。いいですね』
『ハイ』
返事するしかないだろ!!
バレてみろ……! 俺はボコボコのけちょんけちょんのギタギタのボロボロのボロ雑巾のように処刑された後、一生、ヘンタイのレッテルを貼られてしまうんだ!!
『ちなみに、他の女の子を少しでも見たら許しません。絶対に、目を逸らさないこと。いいですね?』
『……ハイ』
『う~ん、返事がなっていませんね。もっと心を込めて戴かないと』
『はい!! 俺はリースしか見ません!!』
『いい返事です♡ じゃあ、そんな素直なサトルさんには、はいっ♡』
リースが立ち上がり、こちらに向くと――…
可愛いセクシーポーズをしてくれた。
おお~~~~~~!!
もちろん、バスタオルは巻いているが、スゲ~もんを脳裏に焼き付けた。これがエルフの神秘か……!
ひゃ~~…………。
俺はもう、必然的にリースに釘付けになるしかなかった。
『リースは可愛いな。この世のモノとは思えない美しいエルフだぜ……まさに感嘆だ』
『褒めてもらえて嬉しいです♪ ありがとうございます♡ 最近、フォルちゃんを見習って筋トレもしていましたから、少し身が引き締まったかもです♪』
フォルのヤツ、相変わらず筋肉バカか。
そいや最近、ダンベル何キロ持てるか挑戦していたな。
ふーむ、フォルか……ちょっと気になるな。アイツの鍛え抜かれた腹筋は、ちょっとそそられるものが――
『サトルさん?』
『いや!? 今、リースの事を一心に考えていたんだよ?』
『そうでしたか♡ それならいいです。いいですけれど……もし、フォルちゃんの腹筋が気になるな~とかイヤらしい表情で思いに耽っていたのなら…………』
リースの顔が暗黒に曇る。ヤベー……。
『ま……まて! リース、また今度デートしよう! な!?』
『許しました♡ やっぱり、サトルさんはあたしラブですもんね。だったら、なんでも許しちゃいます。他の女の子も見ていいですよ』
よしッ!
『でも、浮気いえ不倫したら……分かってますよね』
『…………ハイ』
って、まて。不倫って……!
結婚はしとらんだろう……。
――さて、改めてフォルでも覗き見ようかな~っと……視線を泳がしてみるも。……む。おいおい、まじか。俺の他に覗き魔がいるじゃないか。
俺が覗くのはいいが、他の男が覗くのは許さん!!!!!
てかあれ……。
どこかで見た事ある男だな……。えーっと、確かアグニの兄貴で『グレン・アーカム』だったか。アイツ、あんな草葉の陰から何やってんだか。いや、俺も人のことは言えんけどさ。
ヤツの視線を辿っていくと……あー、アグニね。
いやだがまて、実の妹だろ!?
そういう禁断系なのか!?
――いや、違う。そのもっと向こう『スイカ』か。
グレン、まさかスイカが……。
そうだとしても、俺が許さん!!
俺は、グレンを排除しようとしたのだが……。その瞬間、メサイアとベルが露天風呂から立ち上がった。
体が湯気で隠れているとはいえ――
「ブッ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」
俺は、大量の鼻血を噴き出した。
赤い血が瀑布となり、濁流となった。
ま、まずーーーーーーーーーい!!!
こっちを見られる前に、彼女たちの気を逸らさねば!!
――など考えていると【オートスキル】で『ライトオブジャッジメント』が発動した。なぜ、このスキルがこのタイミングで発動したのか定かではないが、しかし、助かった。
スキルが非常に強力な閃光弾となり、視界を阻害してくれたのだ。
俺はその隙に【ダークニトロ】の爆風で飛び上がった。
「セーフ……。ここまで上がれば大丈夫だな」
『ホークアイ』で地上を確認すると……あ~あ。
グレンのヤツ、さっきの光に驚くあまり、覗いているのバレちゃったみたいだなぁ。女の子たちに囲まれ、問い詰められている。ある意味、羨ましい光景だが……いや、あれはもう絶望しかない。
特に、アグニは失望して……うわぁ、もう見てられない!
俺がああなっていたかもしれないと思うと、ゾッとする。
あぶねーあぶねー…危機一髪で助かったぜ。
生贄がいてくれて助かったぜ。
ヤツには悪いが……合掌。南無。
さて、戻っておくかと、銭湯前へ着地しようとしたのだが……!
む……!
東西南北から何か接近してきている!!
俺の方に!?
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