第58話 伝説の鍛冶屋 - 職業不安定な神様 -
鍛冶屋の名は『フォーマルハウト』という。
なんだか服屋っぽい名前。だが、伝説の鍛冶屋でもあるらしい。なにが伝説なのやら不明だが。
みんなには店の前で待ってもらい、俺はひとりで中へ入った。
「ちーっす。アイテムの合成をお願いしたいんですけど~」
「らっしゃ~い!」
後ろ向きの鍛冶屋が、こちらへ振り向く。
すると――
「あぁ!? あんた!?」
「ようこそ、伝説の鍛冶屋『フォーマルハウト』へ。おや、お客さん、見ない顔だね~。ここは初めてかい?」
……えーっと。
これは一体全体どういう事だ!!
鍛冶屋の店主が……!
店主が……!
「おい、なにやってんだ神王」
「へい? あたしゃー神王なんてモンじゃないですよ」
「ウソつけ!! その人外すぎるピンクの髪、赤メガネ! どこからどーーーーーーーーーー見ても『神王・アルクトゥルス』じゃないか!! あんた、この鍛冶屋の店主だったのか!?」
「もうバレてしまいましたか。――ええ。私は『王』であり、『神』であり、『鍛冶屋』でもあるのです」
「職業不安定な神様なんですね」
「それほどでも!」
えっへんと胸を張る一応、神王。
相変わらず変な神様だ。変だけど、神王だ。
「それじゃ、この『ファントム』と『エクサニウム』の合成を頼みますよ。それで完成みたいなので」
「ほう~。これは珍しい。『ファントム』ですか。これはこれは、激レアアイテムをお持ちで。いいでしょう。この神に――いえ、鍛冶屋にお任せあれ!」
今一瞬、神と言いかけたような。
「はい、さっさとやりがれくださいお願いします」
「それでは前払いということで――『100万プル』になりま~す」
「は? 金取るの?」
「当たり前です。鍛冶屋ですからね。商売ですから、お金を戴くのは当然です」
「その前に神王だろ! 100万はボッタ……高すぎる。まけてくれ」
「ほう、 ディスカウント交渉ですか。しかし、今、ボッタと言いかけましたね? サトル殿」
「ていうか、神様が金取ってどうすんだよ。神なんだから、金くらいチート能力か何かで無限に出せるでしょう?」
「それはそれ。これはこれです。この世界にも『法』がありますから、それを遵守せねばなりません。それに商売ですから、商売とはお金を戴くことによって成り立っているわけでありますから――」
やべ、説法みたいなのが始まった。だるっ。
「分かった! 分かりましたよ、偉大なる神様。お金は払います」
「ふ~む、小気味よい信仰心を感じますね。さすが『聖者』です。仕方ないですね~。では、半額の50万で」
ぐっ……
それでも高すぎる気が。でも半額か。
「言っておきますが、これでも充分破格ですよ。他の鍛冶屋ですと、通常レートで300万ですよ」
「まじか! お願いします!」
俺は、鍛冶屋の店主に『ファントム』と『エクサニウム』を手渡した。
「完成は30分後です。それまではお待ちください」
「分かりました。俺は、外で待たせている仲間と街をウロウロしていますよ」
「ええ、完成をお楽しみに」
◆
外へ出ると『フォル』しか待っていなかった。
「あれ……お前だけか。みんなは?」
「ええ、皆さん痺れを切らして『温泉』へ向かわれてしまいました。わたくしは、兄様を待つようにと。珍しく、ふたりきりですね♡」
「温泉かよ」
「はい、しかも混浴ですよ」
「こ……混浴だと。おい、まてフォル。混浴ってことは、他の男だって入って来るだろ。それは絶対に許さんぞ!」
「大丈夫です。殿方は先着で1名限定なんですよ。なので、兄様が入ればいいんです」
なんだその謎システム!
てか、初めに入った男が一番得をするじゃないか!!
「まずいな、急がないと……他の男に入られてしまう。いやだが『ファントム』が……!」
「大丈夫ですよ。皆さん、温泉の前に服を買いにいきたいとお店へ。それから温泉で待っているそうです。姉様がそう仰っておりましたから。みんな、兄様を待っているのですよ」
「な、なるほど!」
そ、そうだよな。俺以外の男と一緒なんてありえんよな。うん。ちょっと、ホッとした……。ナイス、女神。
「それじゃ、30分くらいなら平気そうだな。よし、それまでは、俺とフォル……ふたりきりでデートでもすっか?」
「本当ですか!? 嬉しい、兄様♡」
ばっと、俺の腕に飛びついてくるフォル。
ふたりきりなのがよっぽど嬉しいのだろう、上機嫌だ。
「たまにはいいだろ。フォル、どこ行きたい?」
「そ、そうですね……。それでは、神聖な教会で激しすぎて乱れてしまうほどの、すっごいプレイでお願いします……♡」
「こ、このヘンタイ聖女め……! それは却下だ! つーか、抱きつくな! 足を絡めるな! こんなところで俺のズボンのベルトに手をかけるなー!!! 周りの子供が好奇な眼で見とるだろうが!」
「あら、わたくしとしたことが。それでは、兄様。いきましょうか」
聖女に手を引っ張られ、どこかへ向かう。
……どこへ行くんだか。
まさか、本当に教会じゃなかろうな!!
◆
例の『裏路地』――確かこの先『サキュバスのえっちなお店』。
えーっと……
えーっと……
「おい、フォル。この先に何があるか分っているんだろうな」
「サキュバスのえっちなお店です♡」
「知ってんのか! 今すぐ回れ右だ」
「だめです」
「だめなのかよ! いや、これ以上先はイカンでしょ」
「この先、ラブホテルもあるんですよ♡」
「あるんですよ、じゃない。か、帰るぞ」
「えいっ!」
――と、フォルが何か俺の首筋にスキルを発動した。
それがビリビリっときて――俺は『絶対麻痺』状態となった。
「……え?」
あれ…………おかしいな、俺動けないや。
「ふふ、兄様……♡ ホテルへお連れ致しますね♡」
ま、まさか……フォルが。
ちょ、まて、まってくれえええええええええうああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!
俺の体がズルズル引っ張られていく。
その先、ラブホテル『ベテルギウス』の看板が――。
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