第540話 ギルドの受付嬢にダンジョン進入申請を!
聖地ガラハッドの中心街。そこに『世界ギルド』はあった。
世界共通の冒険者向けのギルドで、建物の外観もほぼ同じだ。でも、聖地ガラハッドの方がちょっとオシャレかな。
建物の前でメビウスと別れた。
彼女はまた聖地守護の為に見回るそうだ。
「ありがとう、メビウス」
「いえ。またいずれ会うこともあるでしょう。では」
爽やかな笑みを浮かべるメビウスは去っていく。
目から魔法レーザーを出した時はビビったが、今や女神に匹敵する良い人だ。あんな美人なケンタウロスがこの世界にいたとはね。
つい見惚れていると、みんなに囲まれていた。
膨れっ面のメサイアは無言の圧力で不満を主張。……怖いからヤメテ。
リースは、これは浮気ではないかと言いたげな涙目。ちょ、そんな表情をされると俺の心がグサグサするッ。
そして、フォルは「兄様を許しません!」とキレながら(?)も、大胆に抱きついてきた。――って、どっちの感情なんだそれは! 怒るか抱きつくかどっちかにして欲しいものだ。
「俺は芸術的な意味で見惚れていただけだぞ。メサイア」
「ふーん」
「氷のように冷たい目だな。……仕方ない、こっち来い」
俺は、まずはメサイアを手招き。リースとフォルから少し離れた。
きっとさっきのナンパ男の件も続いて不機嫌なのだろう。ここは本来の調子を取り戻してもらわねば俺が困る。
というわけで、まずはメサイアの手を握った。
「……っ」
一気に頬を深紅させるメサイアは、早くも態度に現れていた。……冷めた瞳、どこへいった。一瞬で消えてなくなったぞ。
「いいか、俺はな……いつだってお前のことを想っ――ん?」
「…………ゆるす」
「え?」
「全部ゆるすっ」
早ッ! 光の速さで許された。つか、チョロインすぎるって。
そんなわけで俺は秒でメサイアを攻略完了。
次にリースを呼び出し、頭を優しくナデナデしてみた。
「あたし、あたし……誤解していました。やっぱり、サトルさんなしじゃ生きていけないです……! 危うく世界を滅ぼすところでした……」
そんなに絶望していたのか……!?
確かに、リースには世界を滅ぼすだけの大魔法があるけど、それは“大禁呪”と呼ばれている災厄レベルの魔法。一発で世界は吹っ飛ぶ。あぶねー…。
で、あとはフォルだが――以下、略!
「ちょ、兄様! わたくしだって寂しかったんですよ!?」
「その割には抱きつきまくりだったじゃないか」
「そ、それは……欲望が抑えきれなかったんです……!」
大きな声で言うものだから、周囲の冒険者が何事かと振り向く。……って、バカ。声がデカすぎだってーの。
つか、聖女が欲望だとか言うなー!!
やはり、フォルはヘンタイ聖女なのである。諦めるしかない。
とりあえず、三人の機嫌が直ったので……気を取り直して世界ギルドへ!
建物の中は、多くの冒険者で溢れかえっていた。窓口にいる受付嬢からクエストを受注したり、ダンジョンの情報を聞いたり。
うん、いつもの光景だな。
そんな混雑の中を進み、エレイン湖の進入申請をすることに。受付は……あった。八番窓口か。
俺は、メサイアたちと並ぶことに――って、いない!?
「ごめん、サトル。並ぶの面倒くさいからお願いね!」
「おまっ……俺だって超絶面倒くさいってーの」
そもそも、俺は長蛇の列に並ぶのが大嫌いなのだ。昔から、こういう非効率なことは避けるタイプなんだよな。
時間が掛かりそうなら、粘らずに他の選択肢を選ぶ。タイパ&コスパ重視なのだ。そもそも、面倒くさがりなんだけどな。
……参ったな。三十人は並んでるぞ、これ。
「エレイン湖へ行きたい方ってこんなにいたんですね」
多くの申請者に驚くリースは、俺から徐々に離れていく。……キミも俺を置いていくのね。
「フォルは俺と一緒に並んでくれるよな!?」
「申し訳ございません、兄様」
「え……」
「わたくし、そろそろ祈りの時間なので!」
「嘘つけ! お前、いつも祈なんてしてないだろっ」
「聖女ですからっ!」
こんな時ばかり聖女を盾にしやがって……! しかもこれ以上、事を荒立てるとマズそうだ。冒険者たちが『聖女の敬虔な祈りを冒涜するだと!?』みたいな視線を送ってきていた。
むろん、そんなつもりは毛頭ない。
それくらい承知しているさ。フォルとはもう長い付き合いなのだから。
そんなワケで、俺は孤独に並ぶことになった。……無念。
一時間後。
ようやく俺の番が回ってきた。かったるかったが、やっとだ。
美人で可愛い受付嬢のお姉さんは親切に対応してくれて、申請書の記入の仕方を教えてくれた。どうやら、パーティメンバーとパーティ名を書き記す必要があるようだ。
パーティメンバーは……
サトル、メサイア、リース、フォルトゥナ――っと、名前を記入。
パーティ名は……うーん。思いつかないので【フリージア】にしておくか。だが、その名前は使えなかった。
そもそも、世界ギルドの名前が【フリージア】だからだ。
……そうだったな。
なので【ネオフリージア】にしておいた。これは問題ないときた。いいのかいっ。
ようやく『エレイン湖』進入申請も終わり、これで許可が出た。ついに、ダンジョンへ入れるぞ!
――さて、出発するか。