表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
548/551

第539話 聖水に不老不死のウワサ!?

【聖地ガラハッド:南口】


 女性ケンタウロスの名前は『メビウス』といった。

 聖地を守護する存在らしく、不審者を追い払う役目があるのだという。聞くところによれば、最近は『エレイン湖』に無断進入する者が後を絶たないという。

 メビウスによれば湖は、聖地ガラハッドの管理下らしい。


「――なので湖の“聖水”を狙う連中が多発しているのです」

「そういうことか。でも、ダンジョンもあるって聞いたけど」

「ええ。ちゃんと世界ギルドで手続きをしていれば問題ありません」


 クエスト申請してから突入しろってことね。しかし、そうだったのか。手続きをしなければならないとはな。それほど手間でもないと思うけど。


「そういえば聞いたことがあります」

「どうした、フォル」

「今、聖水の価値が上がっているとか」

「そうなの?」

「ええ。『聖杯』に入れて飲むと不老不死になれるとか、どんな難病でも治癒するなど噂がありますけれど」


 え……そんなスゲェ効果があるの!?

 めっちゃいいじゃないか。俺はぜひ、不老不死になってみたいものだがね。もちろん、メサイアたちも一緒だ。そうすれば一生同じ時間を過ごせるし、幸せだ。

 ちょっとワクワクしていると、メサイアが腕を組みながらも呆れ顔だった。


「あのね、それはただの噂よ」

「どういうことだ、メサイア?」

「そんな奇跡あるわけないでしょう」


 女神であるメサイアが言うのだから間違いはないんだろうな。残念ながら、不老不死は夢のまた夢か。そういえば以前、聖地巡礼でそんな話もあったっけな。全ての聖地を巡ると不老不死になれると。

 だが、あれは『神王』になるための儀式だった。結局、不老不死ではなかったのだ。


 ふむふむと納得していると、今度はリースがぼそりとつぶやく。


「……あたしは」

「ん?」

「あたしは、サトルさんに不老不死になってほしいです……!」

「そりゃ嬉しいけど、どうして?」

「だって、エルフ族は長寿なのですよ。……だから」


 そういえば、ちょっと前にエコが自称3000歳だとかほざいていたな。あれ、マジだったのかもしれないな。

 あの猫又はともかくとして、エルフ族は何千年と生きるようだな。そう思うと不老不死は必要だ。リースを一人になんてさせられないからな。

 俺はアルクトゥルスではるが不死身ではない。それは実際、蘇生ストックがあることからも証明されていることだ。

 でなれば、わざわざメサイアを死神に戻してまで俺の蘇生回数を増やすなんて、リスクは犯さない。



「大丈夫よ」


 メサイアは、リースを優しい瞳で見つめる。俺にもいつもその目で見て欲しいものだが。


「……え?」

「不老不死は無理でも、寿命を延ばす方法くらいはあるから」

「そうなのですか!? メサイアさん、その方法って……」


 方法を聞く前に、メビウスが足を止めていた。



「到着です。この南門から真っ直ぐ向かうと世界ギルドがありますよ」

「てか、街並み綺麗だな」

「ええ。この聖地は広く、建物も大きく作られていますからね」


 メビウスの言う通り、今までの聖地の中でも異質。完全に忘れていたが、俺たちは一度はこの聖地に来ているはずだ。だが、当時とはまるで違う光景となっていた。

 それもそのはずだ。


 聖地は一度、スターゲイザーのアホ共によって崩壊させられている。各地の聖地全部が。だから、街並みが変わっていてもおかしくないし、まさかクレーターの中に作っていたとはな。



「わぁ、人も多いですね」


 街並みを見渡すフォル。確かにこう活気があると迷子になりそうだな。

 大通りには多くの露店。そこを素通りする冒険者たち。それと聖地巡礼者。様々な種族の人たち。

 驚くべきことに、メビウスのようなケンタウロスは見かけなかった。彼女が特別なのかもしれない。


 そんな(にぎ)やかな道を歩いていると、俺たちを物珍しく見つめる人たち。そんな視線の中で、ある一人の若い優男がメサイアの前に。たぶん、冒険者だ。


「キミ、可愛いね! ひとりかい?」

「…………は?」


 さすがのメサイアも呆然というか、状況を飲み込めないでいた。まさかのナンパ! おい、ウソだろう。あのメサイアがナンパされただと!? 初めてみたぞ、この光景。

 メサイアに興味を持つヤツがこの世にいたのかよ……!

 世界でただひとり、俺だけかと思っていたぞ。

 そりゃ、大人しくしていれば可愛くて美人だけどさ。でも、その女神は俺や認めた仲間以外にはそうそう懐かないからな。攻略難易度EX-ULTRA-HARDだぞ。

 

「俺のパーティに来なよ。今からエレイン湖へ向かって聖水を採ってくるんだ。俺は聖水ビジネスで儲けていてね!」

「あっそ」


 顔中に怒りマークが出とるぞ、メサイアのヤツ。

 破滅級の塩対応をされた男は、マイクロ秒で心が折れたらしく――次はフォルをナンパしていた。おい、節操(せっそう)ねえな!


「ねえ、シスターのキミ!」

「…………」


 フォルもまたブチギレ寸前で、すでに拳が出かかっていた。聖女のする顔じゃねえぞ。だが、俺は自制を求めた。


「おい、フォル」

「兄様♡ 兄様ぁん♡」


 俺の腕に(すが)りついてくるフォルは、いつものヘンタイに戻った。……よし。


 その状況を見て男は、このシスターはヤベェと感じたらしく、今度はリースに目をつけていた。もはや誰でもいいらしい。

 しかし、その瞬間にはメビウスの足蹴り――いや、馬に蹴られていた。下半身は馬だからな。

 男はゴミのようにぶっ飛ばされていく。



「うぎゃあああああああああああ……!!」



 ゴロゴロ、ズドンと壁に激突。罰を受けて当然だ。いくらなんでも、見境なさすぎだ。 俺がブン殴ってもよかったのだが、人の目もあるからな。



「ありがとうございます……メビウスさん!」

「いいのですよ、リースさん。あの男性は、エレイン湖の聖水を使い、金儲けをしていた連中のひとりですから」


 ヤツやその仲間のせいで湖への立ち入りに規制が入ったのだろうな。ちゃんと申請している冒険者の中にすら聖水を使った金儲け連中がいるのか。

 

 メビウスが守護したり、追放したりする理由も分かった。

 となると、俺たちも協力してやるかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ