第532話 転移ゲート設置完了!
いったん家へ戻ると、床に倒れているメサイアの姿があった。仰向けの大の字で。
完全に魂抜けてるじゃないか。
「大丈夫か、メサイア」
「…………」
こりゃ重症だな。
「特殊転移用ゲートの建設は終わったのか?」
「……まあね。結構苦労したけど、完了したわ」
「さすがだな。今日一日で終わらせてしまうとは」
「建築スキルだからね! 楽勝よ」
そのままの体勢でドヤ顔するメサイアは、ちょっと可愛かった。つか、起き上がる気はないらしい。
「なにダラけてるのよ、メサイア」
「あら、プルート。いたのね」
「あんたのおかげで破産寸前よっ」
滝のように涙を流すプルート。そや、そうだったな。聞くところによれば一文無しらしい。一方のモルスはかなり勝ったようだが。
「カジノで負けたのね」
「う、うぅ……お金貸して」
その場に崩れるプルートは、お金の無心をした。女神が女神に金銭で助けを求めるとは……なんて光景だ。
ミクトランが見たら白目を剥いて、もれなく卒倒するんじゃないか。いや、単に呆れるだけかな。
「だーめ。私は人に金を貸さない主義なの。知っているでしょう」
「……終わりよぉぉぉ! わたしの人生終わりよおお!」
んなオーバーな。
しかし、このままでは今後の活動に影響が出ると思った。ので、俺はモルスに耳打ちした。
「――なあ、モルス。プルートの機嫌を直すためだ。少し、こづかいをだな……」
「金は命より重いんですよ?」
「んなッ」
どこで聞いたようなセリフだ。
かつて俺もそんなことを口走ったような気がしないでもない。
そして、間違いなくそれは正しいだろう。人間、金がなければ何もできないからな。
こうなるとモルスも無理そうだな。
諦めかけていると、背後から声がした。これはオルクスだ。
「ただいま、サトル。……おや、メサイアたちもいたのか」
「さっき帰ってきたところさ」
「そうか。こっちは魔獣化について調べてきたぞ」
「本当か、オルクス!」
「なんの成果も得られなかったけどね!」
そう言いながらも、ふんぞり返るオルクス。まてまて、威張るところではないぞ!?
ったく、オルクスもプルートもポンコツというか駄女神の部類だったか。唯一まともなのはモルスだけかもしれないな。
数分後にはフォルやベルも帰宅。
家に全員が集まった。
飯の前に風呂に入ることになった。
「兄様っ♡ お風呂へ参りましょう。全身くまなく洗いますので!」
目をハートにするフォルは、明らかに俺を狙っていた。今の俺はショタなので超危険すぎる場面が出来上がるだろう。ダメダメ!
俺は嬉しいけど、メサイアが黙っちゃいないと思う。もれなくシャイン・ブレイズ・フィンガーで下半身を消滅させられる。想像しただけで恐ろしい。
「却下だ!」
「え~!」
リースとベルに頼み、フォルの連行を頼んだ。
「フォルちゃん、お風呂へ行きますよ」
「残念だけど、わたし達と入ろうね」
ふぅ、よかった。リースとベルはまともだ。
ずるずると引っ張られていくフォルは、涙目ながらも「そんな~!」と叫んでいた。そんなに俺とお風呂に入りたかったのかよ。気持ちは嬉しいけどね。
女性陣みんな風呂へ向かった。
俺はひとりぼっち。……さびし。
アイテム整理でもしているかとソファで横になっていると、玄関が開いた。
「お邪魔しますよ」
「なんだ、ミクトランか」
「どうも、サトル殿。……おや、妙に機嫌が良さそうですね」
「え? そう見えるか?」
「しかもなぜ、一人きりなのですか? メサイアたちは?」
「風呂さ。俺はショタだから危険なので待機」
「――なるほど。では」
ミクトランは明らかに風呂場の方角へ足を向けていたので、俺は通路を阻んだ。神様がなにやっとんねん!!
「おい!」
「……サトル殿。なぜ止めるのです」
「バカ野郎! 止めるわ、全力で! この先には全裸のみんながいるんだぞ!!」
「では見なければ失礼というもの」
「なに真顔で言ってんだよ!! 正気か!?」
「残念ですが、正気です」
ダメだ、この神様。いや、今は王様だけど――どっちにしてもタチが悪い!
てか、どうしちゃったんだよ。いつものミクトランらしくないぞ。……そうでもないのか。もともとは“俺”だし。
「少なくとも実の娘の裸を見ようとするなよ」
「私が興味あるのはプルートです!!」
ギャルの趣味があるってことね……まんま俺じゃねえか! さすが俺だな……って、バカなこと考えている場合じゃないな。
「ダメったらダメ。禁止」
「そうですか。では、本題に――」
急に真面目モードになるし、今までの冗談だったのか。ホント、よく分からん王様だ。
 




