第531話 ギャンブル中毒の女神たち
ブラッドベア事件を終え、俺はカジノの中へ向かう。
女神プルートとモルスを探すために。二人がカジノにめり込んでいないといいんだが。
ベルとは別れ、リースと共に奥へ進む。
スロットマシーンにはいない。
となると、ルーレットか? だけど、さっき男貴族が破壊したとか何とか言っていたような。
「あ、サトルさん。あれ……」
「ああ……」
ルーレットは一台だけ破壊されていた。他は無事だが、こりゃ大事だな。
その隣では見覚えのある女子二人が遊戯に興じていた。女神二人組である。こんな状態なのに、よく遊べるな。
「――あああぁぁ、またハズレ!」
「プルートは下手だね」
「くぅ……モルスばかり当たってズルいっ」
「日頃の行いかもね」
「ムキー!!」
予想通り二人ともギャンブルにハマっている様子。プルートはだいぶ赤字っぽいな。モルスは調子がいいようだが。
「よう、二人とも」
俺が声を掛けると二人とも振り向いて気づいてくれた。
「あ、サトちゃん!」
「プルート、負けているようだな」
「そうなの、酷くなーい」
涙を滝のように流すプルート。
その傍らでモルスは冷静というか、ドヤ顔だった。
「サトル、ボクは勝ってるよ」
キラリーン☆と瞳を輝かせるモルスは、大量のチップを見せつけてきた。……おぉ、マジじゃん。大勝利じゃないか。
てか、女神たちって普通に下界のお金を所持しているものなんだな。
……まあ、メサイアも使ってるか。
妙に納得していると、リースは「す、凄いですね、モルスさん」と尊敬の眼差しを向けていた。一方でモルスもまんざらでもないようで「ありがとう、リースさん」と礼を述べていた。
プルートは悲しみに暮れているというか――絶望しているけどな。
「…………うぅ」
こりゃ重症だな。
二人をなんとかカジノから連れ出し、外で話すことに。
メサイアが今、特殊転移用ゲート『レンブラント』を量産・設置してくれていること、さきほど魔獣化したブラッドベアをオルクスと共に撃破したことを話した。
「……魔人の脅威がこの島まで……」
まず、プルートが島の状況を聞いて驚いていた。
「メサイアに、お前たちを連れてきてもらったのはギャンブルしてもらうわけではないぞ。魔人をなんとかするためだ」
「え、そうだったの!?」
と、今度がモルスが驚愕する。あたりまえだっ!
つか、メサイアのヤツ、みんなに魔人のことを話していなかったのか……? ったく、相変わらず適当なんだから。
「いいか、プルートとモルス。フォーチュンの話によれば、四人の女神がいれば魔人をぶっ倒せる――ハズだ」
「「マジで!?」」
またも驚く二人。やっぱり、なんにも話してねーのかよ、メサイア!
あの駄女神めっ。
俺に似て、面倒くさがりだからなぁ……仕方ないけど。
これから、協力すれば世界を救えるはずだとも俺は話した。すると、また同じように驚かれた。……おいおい。バカンスに招待したわけじゃないんだぞ。
世界を救うために召集したんだからな。
「――というわけだ。今後、カジノは禁止な」
「「えええええええッ!!」」
プルートもモルスも叫ぶ。
ドハマリしてるじゃねえか!
モルスはともかく、プルート……君はかなり負けているはずだがな。懲りてないな。
「プルート、これ以上は破産するぞ」
「だ、大丈夫だよ。サトちゃんが貸してくれるもんね!?」
「貸すわけないだろ」
「ひどっ」
ぴえんと瞳をウルウルさせるプルート。泣いても貸しません。
そもそも俺もそんなに所持金はないぞ。この島の開発で貯金を減らしてしまっているからな。
利益も再開発に使ってるし、みんな文無しさ。
「あ、あたしでよければ――」
「ダメだ、リース。女神共を甘やかせるな」
「でも」
心優しいリースは、きっとギャンブル中毒の夫がいたのなら……お金をせびられてもホイホイ封筒を渡しちゃうタイプ。ダメ夫に貢いでしまう系。それはダメだ!
さすがにリースのお金をギャンブルに使うなど、この俺が許さん。
「とにかく、プルートもモルスもモンスター討伐に集中してもらう」
「え~…」
「うそー」
二人とも明らかに嫌そうな顔をした。そんなにカジノがいいかっ!?
女神としての責務を果たしてもらいたいものだがね。
こうなったら、少しでも士気をあげてもらうか。
「報酬は出す! 世界ギルドが」
俺がそう断言するとプルートもモルスも目を輝かせていた。金の亡者めっ。
「やる! やらせてくださいっ!」
「さすがサトル。お金が出るならやる」
お金が出るならなんでもいいらしい。
よし、ミクトランに交渉して世界ギルドに討伐クエストを追加してもらおう。こうすりゃ、二人ともやる気を出すしな。
決まったところでパーティを作成・加入させた。
パーティ名は【魔獣討伐隊】だ。
作戦名みたいなものだが、目標がある方が動きやすい。
そろそろメサイアの様子でも見に行ってみるか。
 




