第530話 魔獣化を特定せよ!
塵となる前にブラッドベアを調べる俺。
触れようとすると、オルクスが止めてきた。
「やめたほうがいい。手先から壊疽するだろう」
「マジか」
「かなり特殊な状態異常に陥ると思われる」
「分かるのか、オルクス」
「ああ――女神の勘だ」
女神の勘なら本当だろう。
どうやら、ブラッドベアは本当に魔人もとい“魔獣化”していたようだ。
いったい、誰がこんなことを……。
いや、恐らくはサリエリかガスマンの仕業だろうな。しかし、どうやってこの島に送り込んできたんだ……?
「なるほど。とりあえず、他にモンスターの気配はなさそうだな」
幸いにもリースも救出できたし、一安心だ。
そんなリースは不安そうに俺の手を握る。今の俺は子供なので、これでは姉に引っ張られる弟状態だ。
「この島は安全ではないのでしょうか……」
「うーん。ミクトランの結界スキル『ミレニアム』かフォルの『グロリアスサンクチュアリ』が発動しているはずなんだけどな」
確か今は交代交代で島を守っていると聞いた。
だから、外部から侵入は不可能だ。
とすれば――まさか、特殊転移用ゲート『レンブラント』か?
いや、そんなはずはない。
レンブラントの向こうは花の都ネオフリージアだ。
向こうの街中にモンスターが出現するなんて、それこそありえない。ミクトランの守護結界は絶対だ。
「なにかしら方法があるのだろう。サトル、モンスターの魔獣化については、この私が調査しよう」
「いいのか、オルクス」
「構わないよ。その為にメサイアから呼ばれたのだから」
「ありがとう、助かるよ」
「では、また夜に会おう」
オルクスは清流みたいな爽やかすぎる笑みを浮かべて去っていく。いちいちイケメンだな。
取り残された俺たちはどうしようか。
また釣りクエストでも行こうかと思ったが――周囲に人だかりができていた。さっきまで逃げ惑っていた人たちだ。
「おぉ、すげえ!」「さっきのモンスター、あの子供が倒したのか!?」「いや、あっちの可愛いエルフじゃないか?」「子供が倒していたのを見たぞ」「ウソだろ!?」「すげぇ炎を出していた。大魔法使いなのかもしれんぞ!」「すげえ子供だな!」
なんか俺に注目が集まってるな。
トドメを刺したのはオルクスなのだが、まあいいか。
この場にもう用はないので、俺はプルートとモルスの様子を見に行くことにした。あの二人は、メサイアの作ったカジノでギャンブル中らしいからな。
破産していないといいが。
◆
カジノに到着すると、店の奥から何が飛んできた。
その塊は地面に転がっていく。
ん、これは人間だな。
「わっ……サトルさん! カジノからヒトが!」
「そ、そうだな。ぶっ飛ばされたみたいに出てきた」
店の奥に視線をやると、そこからベルが出てきた。盾を持って。
「なんだ、ベルか。この人はどうかしたのか?」
「あれ、理くんにリースちゃん。偶然だね」
「偶然もなにもあるか。で、なにがあった……?
「その男はこの店が詐欺だと言ってね。金を返せとしつこくて」
ついにはルーレットを破壊したので、現在店の用心棒であるベルが鉄拳制裁を下したという。
いつの間に用心棒になっていたんだよ。
恐らく、メサイアが雇ったんだろうけど。
詳しく聞くと、今のベルの立場は『傭兵』らしい。ちゃんと給料も払われるようだ。そりゃ身内だし、信用あるし、強いから適任だわな。
「…………くっ! 母さんにも殴られたことないのに!!」
頬を押さえ、のそのそと立ち上がる青年。
「知らないよ。マザコンのクレーマーはさっさと帰って」
ブリザード級の無表情かつ淡々とした口調で言い放つベル。さすがにその様相で言われると、あの男が可哀想になってくるレベルだ。一部の界隈ではご褒美かもしれんが。
「貴族の僕に向かってなんて女だ! そんな恥ずかしい格好をしているクセに!」
この男、言ってはならんことを……。
ベルは確かにビキニアーマーだが。
瞬間、盾をブン投げるベル。それが男に命中して更にぶっ飛ばしていた。
「ぐえええええええええええ…………!!」
服装をバカにするとは当然の報いである。
ベルのあれはちゃんとした正装であり、しかも効果付きまくりの高級装備なんだぞ。買おうとしたら一生遊んで暮らせる額になるレア装備なのだ。
「あわわ……大丈夫なのでしょうか?」
「気にするな、リース。ヤツは店の物を破壊しているから重罪だ。ついでに侮辱罪もプラスされる」
「……そ、そうですよね」
さて、カジノの中へ入って――む?
「ゆ、ゆるさん! 絶対に許さん!! 覚えてろおおおおおおお!!」
貴族の男はムクッと立ち上がり、叫んでいた。ベルの盾攻撃をくらって直ぐに起き上がるなんて思ったより頑丈なヤツだなぁ……。




