第526話 釣りクエストで大物を釣り上げろ!!
一日経ってもメサイアが帰ってくる気配はなかった。あれから、俺はいつの間にか設置された『世界ギルド』でクエストを発注しては、釣りクエストを楽しんでいた。
リースと釣りをする時間は、とても幸せ。
なのだが、隣で複雑そうにするリース。やはり、フォルが心配らしい。という俺もだが。
「今日も起きないな」
「はい……なぜ目を覚まさないんでしょうか」
「なんでだろうな。……もしかして、キスしないと目覚めないとか?」
「へ……」
眠り姫を覚ますには、やはり接吻しかなかろうな。
とはいえ、リースとベルの目の前でキスとはちょっと……恥ずかしいというか。無防備のフォルの唇を奪うのも、ちょっと抵抗がある。
アイツは喜ぶだろうけど。
「やってみる価値はあるかも」
「……そ、そんなぁ! じゃあ、先にあたしとキスしてくださいっ」
「なに!?」
リースが顔を真っ赤にして要求してくるものだから、竿を落としそうになった。……こ、これは想定外すぎる。つか、可愛すぎる。ちょっと興奮もしてしまった。
もちろん、断る理由などない。
これを断るヤツがいたら宇宙一のバカ野郎だ。こんなチャンスは滅多に、いや、一生に一度もないレベルだ。
「ど、どうぞ……」
瑞々しい桃のように潤いのある唇を目の前に差し出され、俺は心臓が高鳴った。……マジか。
ならば、遠慮なく…………『ピコッ』と何か音が鳴った。
【大物が掛かりました!】
――って、釣り竿が強くしなっているではないかッ!
「こ、こんな時にヒットとは!」
「わわわ、サトルさん。なにか釣れそうなんですね……!」
「ヤベぇ、こりゃかなり大きいぞ!」
「あ、あたしも手伝いますっ」
リースが俺の背後に回り、腰を引っ張ってくれるが――細い指がくすぐったすぎた。ま、まずい……力が抜けるぅ!
「まった! 腕を回してくれる方がいい」
「こ、こうですか!?」
後ろから抱きついてくるリース。そうそう、それそれ……って、巨大なメロンがふたつ俺の背中に襲い掛かってきた。こ、この柔らかい物体はまさかッ!
そのまさかであった。
これだけ密着すれば、当然リースの胸が触れるわけでして……!
イカン、余計に頭がどうかなりそうだ。
『――ギギギギ』(※竿のしなる音)
って、だめだだめだ! 余計なことは考えるな俺! 目の前に集中しろ! 全集中だ! スキル『コンセントレーション』を使えっ!
このままでは海へ投げ出されてしまう。
俺は、力いっぱい竿を引っ張り、大物を手繰り寄せていく。なんて力だ……バケモノか!
「うおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
「……っ」
リースも力いっぱい俺を引っ張ってくれている。二人の力ならきっと……いや、厳しいか!
しかも、急に物凄い力に引っ張られ、俺とリースは海に引きずられそうになっていた。……やべえ、やべえ! 俺の筋力でも耐えられないって、どんな大物なんだ!
くそおおおおっ!
「兄様あああああああああ!」
「!?」
こ、この声はフォル!
まさか目覚めたのか!
「お待たせしました! わたくしも手伝いますっ!」
リースの背後に回るフォル。そうか、ようやく起きたのか!
「フォルちゃん、よかったぁ……!」
「ご心配おかけしました、リース」
「ううん、いいの! それより、大物さんを釣り上げるから、手伝って!」
「もちろんです!」
フォルの力も加わり、一気にこちらが優勢となった。……いける、いけるぞ!
「これならッ!」
大きな影が見えてきた。こりゃ、相当デカいぞ。
だが、それでもヤツは俺たちを海の中へ引きずりこもうとしていた。……まてまて、まだそんな体力が残っているのかよ。強すぎるだろう!
「「…………っ!!」」
リースとフォルの力を借りても尚、この抵抗。すげぇ、魚だな!
「おや~、大変なことになってるね。わたしも手伝うよ」
「ベル! お前も来てくれたか!」
「なんか釣り堀が大騒ぎになっていたからさ」
よく見れば、周囲には野次馬ができていた。冒険者が勝手に盛り上がっていたのである。いつの間に!
「なんか凄いことになってるぞ!」「小さな男の子と女の子が三人……」「あの人数で釣りあげられないなんて」「どんな大物なんだ!?」「この釣り堀には主でもいるのか!?」「ぜひ見てみたいな」「がんばれー!!」
なんか応援されてるし!
ともかく、今はベルの力も追加されて、かなり余裕となった。これなら吊り上げられる。いける、いけるぞ……!
「うおらああああああッッ!」
力いっぱい竿を引き寄せ、俺たちはついに“大物”を釣り上げた。
その大きな影は宙を舞い、やがて桟橋にソレが落下。ピチピチと音を立てて、それが活きの良い――ん?
ん!?
黒いから分からなかった、というか元からそれは黒い物体だった。
どこかで見たことのある『人型』のような……って、まさか!
「え、メサイアさん……!?」
リースが驚くと同時に、俺はそれがようやくメサイアだと認識できた。なんでメサイアが釣れたんだよ!?
「ただいま! 今戻ったわ!」
貝類にヒトデや藻やら頭と顔に張り付けて、一瞬分からなかったぞ。新種のモンスターかと思ったわ。
「なんで海の中から現れた……!?」
「いやぁ、転移スキルを使ってもらったのだけど、間違って海の中に出ちゃってさ~。で、丁度お腹が減っていて目の前に“胡瓜”があったから」
それで偶然、俺の胡瓜をパクっと食ったのか。……アホか!
やっと帰ってきたと思ったら、まさか海の底から現れるとは……この女神、恐ろしい子!




