第524話 聖女の魔人化。目覚める幸運の神
魔人の目的は、どうやら俺とメサイアへの復讐らしい。
そんな重要な話をミクトランは、サラリと話した。
言われてみれば、今のアルクトゥルスは俺。
まともに機能している女神といえば、メサイアと他少人数。【死の呪い】のせいで激減しているからな。
しかも、昔に因縁があるようだし。ついでにベルも。
「世界平和の為にも魔人を滅せねばなりません。サトル殿、どうかよろしくお願いします」
「そりゃ、構わないけど」
サリエリは今のところ姿を現さないし、ガスマンも完全に消滅したわけではない。他に魔人は何体いるんだ……?
「おそらく、近いうちに“全て”の魔人が向かってくるでしょう」
「なんで分かる?」
「元神としての勘です」
「勘かよ」
やれやれ、面倒臭ぇなぁ――と思いつつも俺は、仲間や花の都の人たちを守りたいと感じた。みんなのおかげで今の俺があるのだから。
◆ ◆ ◆
一方その頃――魔人ガスマンは、神聖国ネポムセイノにある辺境の廃村にいた。そこには、魔人サリエリの姿もある。
ガスマンは今回の失態で、きっと罰を受けると恐怖に怯えていたのだが……。
サリエリの傍には、銀髪の大人の女性が横たわっていた。
「……美しいではないか」
「サリエリ様、その女はいったい」
「戻っていたか、ガスマン。良い質問だ、この人間は“聖女”と呼ばれる存在だ」
「なっ! 危険ではありませんか!? 我らは闇属性の魔人。聖女は女神ではないにしろ、天敵ですぞ」
「なぁに、聖女も所詮は人間の子。我らの色に染めればよい」
「可能なのですか?」
「私に不可能はない。この時の為に【死の呪い】を温存していたのだからな」
懐から黒いネックレスを取り出す、サリエリ。それは聖者の試練でミクトラン王より渡されるアイテムだった。
ヒトの魂の輝きを示すというものであるが、聖者になれば“完成”する代物でもあった。
魂を生贄に捧げる為の――。
「そのネックレスはいったい……」
「私は女神になる以前、人間だった頃に聖者の試練を受けたことがある」
「そうだったのですか」
「だが、失敗した。失敗はしたが、ネックレスはそのままだった。だから、当時の【死の呪い】もこの中にふんだんに残されているのだ」
サリエリは聖者にはなれなかったが、ミクトランの“ある温情”により女神にはなった。とはいえ、女神にも階級があり――その最下位ではあったが。
結局、サリエリは優遇される女神メサイアに嫉妬して【死の呪い】を強めた。
やがて、死神となり魔人となったのだ。
今や彼女には復讐心しかない。
「では、新たな魔人の誕生ですな」
「そうだ、ガスマン。三人目の魔人を仲間に迎える。しかも、元聖女……素晴らしいと思わないか!」
「ええ、大変素晴らしいです。このまま最強の魔人軍団を結成いたしましょう」
「いい考えだな、ガスマン。お前の失態を許そう」
「……はっ。ありがたき慈悲です」
本来なら、ガスマンに命はなかった。だが、サリエリは彼の能力を高く買っていたし、その高い忠誠心は本物であると理解していたのである。
そして、サリエリはネックレスから【死の呪い】を解き放ち――銀髪の聖女の胸部に黒い雫を垂らしていく。
それは泥のようにドロっとしている。
やがて、聖女は黒いモノに覆われ――魔人となった。
◆ ◆ ◆
別荘でアイテム整理をしていると、突然フォルが頭を抱えて発狂していた。
「…………う、ぐ……あぁ」
「ど、どうした!?」
「の、呪いが…………お母さまの身に危険が……及んでいる……」
「なに!? どういうことだ!?」
フォルの瞳が輝き、両目が桃色に染まる。こ、これは……! まさか久しぶりに現れるのか……!
「ど、どうして…………」
そのままパタリと倒れると同時に、メサイアとリース、そしてベルも駆けつけてきた。
「ちょ、サトル。フォルはどうしちゃったの!?」
「さあ、わからん。だけど、これは多分……」
予想通りだった。
フォルは突然、立ち上がって――俺を見た。桃色の瞳で。
そこには深い慈しみがあって、悲しみもあった。
「アルクトゥルス……いえ、理」
「やっぱり、フォーチュンか。久しぶりだな」
そう挨拶すると、リースが驚いていた。
「え、フォーチュン様!?」
リースたちは会うの初めてだっけ? いや、そうでもないか。戦闘中とかの場面が多かったから、こうしてマトモも話すのは初めてなだけか。
「こりゃ驚いたね。原神と会えるだなんて……とっくに神話の話かと」
「いや、ベル。俺がいるだろうが」
「あはは、そうだったね」
このタイミングでフォーチュンが表に出てくる理由も分からないけどな。
特にメサイアなんか怯えちゃってるし。
「……フォーチュン……」
「大丈夫か、メサイア。顔色悪いぞ」
「そらそうでしょ。一応、派閥があるのよ、派閥が」
どうやら、宗教みたいなものらしく、アルクトゥルス、フォーチュン、バテンカイトスでそれぞれ宗派があるようだ。――いや、あったな。
その昔、聖地巡礼をしている時、人にはそれぞれ信奉している神様があった。ほとんどがアルクトゥルスだが、聖地によってはフォーチュン派という場所もあった。
そういうことか。
だから、今のメサイアはちょっと居心地が悪いらしい。謎だけど。
「よろしいですか、理」
「ん、ああ……フォーチュン、お前が目覚めたってことは……いったい何が起きた?」
「魔人に大きな動きがありました」
「大きな動き?」
「ええ。フォルトゥナの母親であるアイファが魔人となりました」
「な……なにぃ!?」
それを聞いた瞬間、みんなも驚いていた。
メサイアとリースは絶句。ベルも「そんなバカな」と動揺しているように見えた。
……くそっ、いつの間にそんな恐ろしいことに!




