第522話 号泣スライムの大襲撃!
たくさんのスライムが観光客や冒険者を襲っていた。
え、なんで……いつの間に沸いたんだ!
「……ど、どうしてこんなに」
俺の背後でリースは怯えながらつぶやく。
それにしても、あのスライム……なぜ滝のように泣いているんだ……!?
その割には凶暴で人間にタックル攻撃していた。イノシシみたいなスライムだな、おいッ!
【クライスライム】
【詳細】
いつも号泣しているスライム。意外に獰猛。
水属性攻撃ウォーターバスターに注意!
ドゴォッ! メキィ!
人間に衝突するたびに、骨の砕けるような音が響く。
まてまて、死ぬだろう……それ!
「ぎゃあああああ!」「なんでスライムが!」「おい、普通のスライムじゃねえぞ!」「うぎゃあああ!」「ぐはあぁっ!」「助けてくれ!!」「きゃあああああああ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図とは、まさにこの事か。
「ちょっとサトル。まずいんじゃないの」
「犠牲者が出る前になんとかしないとな」
しかし、なんでこんな大量のスライムが出現したんだ……? ええい、細かいことは後だな!
俺はダッシュで向かい、オートスキルを発動。覚醒煉獄とヒドゥンクレバスでスライムを燃やしていく、あるいは凍らせていった。
「兄様っ! わたくしも手伝います!」
華麗に跳躍するフォルは、次々に打撃と蹴り技を繰り出してスライムを粉砕。撃破していた。
しかし、スライムが常に泣いているせいか……ちょっと罪悪感があるというか、心が痛いな。なんであんな表情なんだよ!
更に、リースも魔法スキルを展開してターゲットを適格に絞って撃破。
いいね、良い活躍っぷりだ!
「メサイア、お前はなにかしないのか?」
「煎餅を食べる!」
「食うなッ!!」
戦闘中、真顔で煎餅食ってる死神って……! まあ、メサイアだから許されている部分はある。どのみち、コイツは戦闘向きではないからな。
なので俺は全速力で人々を脅威から守り、救っていった。
「子供が!? ありがとう!」「すげぇ、何者なんだ……」「小さいのに凄いわぁ」「あの子何者なの!?」「あんな子供いたっけ……」「おいおい、大魔法使い並みの魔法スキルだぞ」「あんな子供が存在したのか!」「まるでアーサー様のような」「バケモンみたいなガキだな」
救えば救うほど賞賛される俺。
しかし、子供の姿だからな。彼岸花 理として認識されているわけではないので、ちょっと複雑ではある。
あるが、まあ気持ちがいいのでヨシとする!
「きゃあ、助けて!!」
女の子の声がした。
俺は光の速さで飛び跳ね、スライムに対しオートスキルを発動。爆発攻撃が発動して爆散させた。
「大丈夫か!」
「わぁ、すごい……ありがとうっ」
俺と同じくらいの女の子が嬉しそうに微笑み、頬にキスをしてくれた。
「あー! 浮気者ー!!」
と、真っ先にメサイアが叫ぶ。
今ので浮気認定なのかよっ!
「まてまて、メサイア。ただのお礼だろう……嫉妬するなって」
「してないわよ!! バカ!!」
頬を赤くして可愛いヤツめ。
だが、俺は見逃さなかった。メサイアがちゃんとスキル『オルクス』で支援してくれていたことを――。
「いつも助かってるよ」
「な、なによ……このロリコン!」
「今の俺はショタだから、ロリコンは違うだろ」
「む、ぐっ……」
メサイアから妙に睨まれているが、迫力はない。
相変わらずのツンデレっぷりである。
ひとまず、女の子を帰して満足する俺。
しばらくしてフォルとリースも合流した。
「兄様、こちらは全部倒しました」
「あたしも完了です!」
「お疲れ、二人とも。人的被害はないが、建物はそこそこのダメージか」
別荘やアイテムショップに穴があいていた。それくらいだから、メサイアの建築スキルで修理は可能だろうな。
しっかし、なんであんなワケの分からんスライムが沸いたのだろうか。不思議すぎる。
『…………ゥゥ』
『シャァ……!』
鼓膜を突くような鋭い呼吸音が聞こえた。
ん、なんだ……海の方から人が?
いや、なんだこの禍々しい魔力。まるで“魔人”だ! また新たな魔人が……?
「って、おい。あの二人組は!」
「あっ! サトル。あれは魔人ガスマンにやられた男達じゃない?」
メサイアの言う通り。ガスマンの手によって死んだと思われた貴族二人組だった。そや、遺体を確認していなかったな。
まさか、魔人に変貌しちまったのか!
そのまさかだった。
『ウガアアアアアア!!』
口から“号泣スライム”を吐き出し、召喚していた。そういうことかよ!
あの二人組がスライムを!
つまりあれか、ガスマンに何かされて魔人化したってところだろうか。なんて厄介な。俺をショタにするだけでなく、あの二人を魔人にもしていたのか。
こうなったら倒すしかないよな。人類に対して明確な殺意があるし。
「しゃあねえ、ぶっ倒すか!」




